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序章 ~エルザとルイ、朝の一幕~
お嬢様と暗殺者男の娘メイドの朝
しおりを挟むユライラ街の領主邸の一室で、一人の少女が眠っていた。
窓から差し込む太陽の光をキラキラと反射する、絹のような金の髪。長いまつ毛にもちもちと柔らかそうな頬っぺた、プルンとした桜色の唇。まるで天使のような美少女だ。
「うぅん…」
チュンチュンという小鳥達の声で目を覚ました少女は、瞼をぎゅっと瞑って布団に潜り込んだ。まだ起きたくない、そんな少女の願いに応え、布団の中の温もりが再び心地良い眠りに誘う。
__ああ、何て幸せなの。このまま微睡みに落ちていきたい。今日も学園に行かなきゃいけないし、色々やることはあるけどいいや、寝てしまえ。この誘惑に勝つことなんて私にはできない……。
もともと抗う気がない少女はあっさりと布団の誘惑に負けた。ふかふかのベッドに身を預けて二度寝という背徳的な快楽を楽しむ。
__ギラリ…。
そんな少女の首元に差し込まれる銀の刃。その冷たさを感じた瞬間、少女は顔を青ざめてガバリと起き上がった。
「起きます、起きますからその危ないものをしまってくれませんか」
両手を上げて早口でしゃべる少女。その様子を見て銀の刃の持ち主はその刃をしまった。
「おはようございますエルザお嬢様。今日もいつものように寝坊ですね」
刃の持ち主はメイドだ。
少女に向けていた刀を腰の鞘に収めたメイドは冷ややかな目をして淡々と話す。
命の危機が去ったことにほっとしたエルザと呼ばれた少女はため息をつく。
「ルイ、お願いだからもう少し穏やかに起こしてくれない?」
「そんなセリフは寝坊癖を直してから言ってくださいお嬢様。毎日毎日飽きもせず、猿だって早起きできますよ」
「ちょっと! 仮にもご主人様に向かって言い過ぎじゃない!?」
メイド、ルイはエルザの怒りの声を無視してクローゼットを開き、エルザの朝の支度を始める。
ウェーブがかったくすんだ灰色のボブカットの髪、クールな印象を与える藍色の瞳。ルイもまた、エルザとは違うタイプの美少女であった。
「ほら、さっさと着替えますよお嬢様」
「もう! 分かったわよ!」
だが、それは見た目だけである。
「毎朝こうやって”男”に着替えさせられるの、不快じゃないんですか?」
「あら、何言ってるのよ。ルイは誰がどう見ても可愛い女の子、私のレディースメイドじゃないの」
「ついに記憶が混濁しましたか。前々から頭の残念な方だと思っていましたが……」
「何ですって!」
紺色と白のメイド服を完璧に着こなしたルイは傍からはどう見ても美少女。だがルイは男だ。
裏社会で凄腕暗殺者として活動していたルイはひょんなことからエルザと出会い、何をどう間違ったのか女装をしてエルザ専属メイドとして働いている。
「はい、お着換え終わりましたよ」
「うん、ふわふわでいい着心地ね。さすが、仕事は完璧だわ」
「お褒めいただきどうも、次は髪を結わえますからそこに座ってください」
「お願いね」
「というかお嬢様、学園の宿題はちゃんとやってるんでしょうね。この前のように居残り勉強なんてごめんですからね」
「くっ、この口の悪さがなければ完璧なメイドなのにっ」
「自業自得でしょう」
二人はいつもの軽口を言い合いながら朝の身支度を整えていく。
これが、ユライラ街伯爵令嬢エルザ・ロワイライトとそのメイド、ルイの朝の一幕である。
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