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幕間⑤

閑話 ソフィー、初めての遊園地②

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 機内は淡いピンク色に統一されており、桜色のシートが三席並んで設置されていた。ソフィー、リーゼ、美桜の順に座るとソフィーがかわいい室内を嬉しそうに見回していた。機体が浮き上がり、平行飛行に移ったところで窓から外を見ていた美桜が興奮した様子で話し始める。

「ソフィーちゃん、下を見るのです。人がゴミ……」
「ちょーっとストップ! 美桜ちゃん、その先の言葉は言わせないわよ」

 美桜が何かを言いかけた時、真ん中に座るリーゼが慌てて止めに入る。

「リーゼお姉ちゃん、なんで言わせてくれないのですか? 美桜はをソフィーちゃんに教えてあげようとしただけなのです」
「セリフのチョイスがおかしいのよ! なんで悪役のセリフを教え込もうとするの!」
「リーゼお姉ちゃん、何を言っているのですか? 美桜たちは空の上にいるのですよ? ということは、世界の頂点に立っているのと同じ事ではないですか。そう、美桜たちは神とも等しい存在ということになるのです! 美桜たちがこの世界現実世界を支配する日も近いということに……」
「いや、だからどう考えてもそうはならないでしょ!」
「むむむ……リーゼお姉ちゃんにはロマンという物がないのです。美桜は世界の支配者になった気分を味わいたいだけなのです!」
「何を言ってるのよ! さっきのは絶対最後にやられて転落する悪役のセリフだから!」

 美桜とリーゼによる謎の攻防が繰り広げられる様子に不思議そうにソフィーが首をかしげていると、機内のスピーカーから佐々木の声が響く。

「皆様、空の旅を楽しまれているところに失礼いたします。間もなく当機は目的地『ウォーターアイランド』へと到着いたします。 その前に簡単ではございますが園内とご宿泊予定のホテルについてご案内をさせて頂きます」
「佐々木さん、宿泊とはどういう事でしょうか?」

 当初の予定にはなかった「宿泊」という言葉にリーゼが聞き返す。

「ご連絡が遅くなり申し訳ございません。奥様が皆様にお伝えする予定であったようですが、玲士様の件もありお伝えし忘れたと伺っております。ウォーターアイランドには遊園地エリアと水族館エリアがございまして大変大きな施設となっております。一日で全ての施設をご覧いただくことは難しいため、園内にはホテルが併設されております。皆様にご宿泊いただくのは両園内を一望できる地上二十回建ての一番大きなホテルとなっております」
「え? そのホテルってこの間テレビで放送されていたのではないですか?」

 興奮した様子で佐々木の説明に食いつく美桜。

「先日の放送をご覧になられたのですね。左様でございます、美桜様。先日取材を受けましたホテル『ホワイト・マリナーズベイ』にご宿泊いただきます」
「やった―なのです! ってテレビで言っていたのに誰よりも早く泊まることができるなんて美桜は幸せなのです!」

 両手を大きく上に広げて今にも飛び跳ねそうになり、シートベルトが食い込んだ美桜が軽く咳き込む。その様子を見たソフィーが思わず声を出す。

「美桜ちゃん、めっ、だよ! そんなに動くと危ないよ!」 
「ソフィーちゃんごめんなさいなのです。でも、これはものすごいことなのですよ!」

 ソフィーに顔を向けると夢中で訴える美桜。

「佐々木さんが言っていたホテルってそんなにすごいところなの? でも保養所のお部屋もすごく広かったし、ベッドもふかふかだったよ」
「全然違うのですよ、ソフィーちゃん! 保養所も一流ホテルと同じクオリティなのですが、ここはマスコットキャラクターが食事時間になるとレストランに来てくれて独り占めできる時間があるのです!」
「美桜ちゃん? かしら?」
「リーゼお姉ちゃん……目が血走っていて怖いのです……」

 得意げにソフィーに説明していた美桜の話を遮るように割って入ってくるリーゼ。両目を見開きながら美桜の両肩をがっしり掴むとそのままどんどん顔を近づけていく。

「キャラクターを独り占めにできるですって? どのくらいの時間? ハグとかをしたりもできるの? 写真に収めることもできるのよね? あ、でも私たちしかいないんだから……」
「リーゼさん、落ち着いてください!」

 背後から聞こえた声で我に返ったリーゼ。慌てて振り返るとソフィーが両手で力いっぱい服を引っ張っていた。

「リーゼさん、美桜ちゃんが怖がっていますよ! 楽しみなのはわかりますが、もう少し落ち着きましょう」

 リーゼが美桜のほうを見ると蒼い顔で涙目になって小刻みに震えていた。

「ソフィーちゃん、ありがとうなのです……さすがに身の危険を感じたのです……」
「美桜ちゃん、ごめんなさい。独り占めできるって聞いて興奮しちゃって……うう、ソフィーちゃんに怒られた……」

 先ほどまでの勢いとは打って変わって肩を落とし小さくなるリーゼ。その時を見計らったかのように佐々木の声がスピーカーから聞こえてきた。

「皆様が楽しみにされているご様子が聞けて嬉しく思います。それでは先程のリーゼ様のご質問に私からお答えしましょう。キャラクターが皆様の所に挨拶に来る時間ですが本来は各テーブルを回るため五分程度に設定されております。ですが今回は皆様の貸し切りでございますので、お時間は気にせず触れ合っていただけると聞いております。もちろんその間にお写真を撮っていただいても構いませんので、存分に楽しんでいただけると思いますよ」
「ほ、ホントですか? ああ、夢のような時間が……」

 両手を顔の前で握りしめて涙を流しながら感激しているリーゼ。

「それからソフィーさん。この遊園地にはがいまして、大変な人気者となっております。ですから気に入っていただけると思いますよ」
「そうなんですね! すごく楽しみです!」
「喜んでいただけて何よりです。それでは皆様、着陸を開始いたします。機体が完全に止まるまで席をお立ちにならないようにお願いいたします」

 大きな揺れもなくヘリコプターが着陸すると、運転席から佐々木が素早く降りてきて搭乗口の扉を開けた。

「「「え?」」」

 三人の目に飛び込んできたのは夢のような光景だった。ヘリの搭乗口から遊園地の門までレッドカーペットが敷かれ、両サイドではスタッフと思われる人々が笑顔で手を振っている。何よりも目を引くのは、ソフィーそっくりの大きなうさぎのマスコットキャラクターが両手を広げて待ち構えている姿。三人が地上に降り立つと、スタッフ一同が声を揃えて言った。

「ようこそ、ウォーターアイランドへ!」

 三人にとって生涯忘れることの無い夢のような二日間が幕を開けようとしていた。
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