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第四章 現実世界

第15話 新たな鍛練の場へ

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 じっくり疲れを癒した冬夜たち。朝食後を済ませると保養所のロビーに全員集合していた。入口側に言乃花が立ち、全員の顔を見ながら声をかける。

「みんな、準備はできてるわよね?」
「いつでも大丈夫っすよ。おや? フルメンバーでお邪魔するんすね」

 レイスが整列するメンバーを見渡して言うと、リーゼがソフィーの隣で口をとがらせて呟く。

「私はソフィーちゃんを参加させるのは反対なんだけど……」
「リーゼさん、心配していただいてありがとうございます。私は魔法が使えないけど……いざという時に皆さんのお役に立ちたいんです!」
「ソフィーちゃんはいるだけで充分なのに……」

 両手をぐっと握り、強い決意をみなぎらせるソフィー。その様子を見た冬夜が少し不安そうに聞く。

「言乃花、質問してもいいか?」
「何かしら?」
「戦闘に慣れている俺たちは問題ないと思うが、メイやソフィーは初めてだろ? と厳しいんじゃないかと思ってさ」

 冬夜の脳裏に浮かんだのはイノセント家で受けた第一の試練『ミラーナイトメア』。門の中に足を踏み入れた瞬間、トラウマを再現したような世界へ飛ばされ、危うく闇に呑まれかけた。お守りのおかげでなんとか克服することができたが、あのような試練をメイとソフィーがいきなり乗り越えられるとは到底思えない。

「それなら大丈夫よ。椿家はそんな湿を課したりはしないわ」
「陰湿とは聞き捨てならないっすね」
「何か間違っていたかしら? 毎回だまし討ちに近い悪趣味な事ばかりしているのは、どこのお宅だったかしら?」
「まだまだ精神が鍛えきれてないってことじゃないっすか? 常に警戒心を持っていれば問題ない話っすよね」

 言乃花とレイスの間にまたもや不穏な空気が流れ始めた時、二人の間にサッと飛び出した人物がいた。

「二人ともケンカしたら『めっ』ですよ!」

 左手を腰にあて、顔の前に右手の人差し指を突き出すようなしぐさで必死に怒るソフィー。

(え? なにこの反応は?)
(これは……とても興味深いっすね)

 言乃花とレイスは、ソフィーから微力だが。二人は顔を見合わせると申し合わせたかのように頷く。

「二人とも聞いてますか? ちゃんと仲良くしてください!」
「ごめんね、ソフィーちゃん」
「ごめんなさいっす、ソフィーさん。これから始まる鍛錬に向けて気合が入りすぎたみたいっすね」

 二人が笑顔で謝る様子にニコニコとするソフィー。

「……なんかごめん、俺が妙な事を聞いたばっかりに」
「なんで冬夜さんが謝るっすか? 常に警戒心を持つことは大事な事。それだけ修羅場をくぐり抜けてきた証拠じゃないっすか」
「レイスの言うとおりよ。積み上げてきた経験が無駄じゃなかったことが証明されたじゃない」

 急に二人から褒められて真っ赤になり、慌てる冬夜。その様子を笑顔で見守るソフィーとメイ。

「……ふむ、実に興味深い。

 ソフィーの様子を腕組みをして觀察する芹澤。だがその呟きは誰の耳にも届いていなかった。

「皆様、お忘れ物はございませんか?」

 入口前に停めてあるワゴン車に全員が乗り込むと運転席に座った佐々木が声をかける。

「椿家に向けて出発いたします。夕方にはお迎えに上がりますのでよろしくお願いいたします」
「「「いってらっしゃいませ」」」

 使用人に見送られながら佐々木の運転で出発する。ヘリポートの横を通り、木々に囲まれた中を真っすぐに伸びる道を通り抜ける。

「すごい! 木のトンネルだよ!」

 ソフィーとメイが興奮した様子で窓の外を見ている。百メートルほどある敷地内の道を抜け、車道に出ると保養所を囲むレンガの壁が続いている。

「改めてみるとほんとに広大な敷地だな」
「芹澤財閥だからそれなりの広さはあるでしょう」

 冬夜の呟きに言乃花が答える。しばらく走るとレンガの壁から高さ二メートルほどの木々の壁にかわる。緑の葉が生い茂っているが丁寧に刈り込まれており、中の様子を伺うことはできない。そして茂みが途切れたと思うと、すでに敷地内に入っていた。その先には真っ白な壁の上に瓦葺きのある高い壁が左右に伸びており、中央に重厚な木の門が建っている。

「椿様の道場に到着いたしました」

 車が停車すると佐々木が助手席のドアを開け、続いて後ろのスライドドアを開ける。冬夜達が車から降り立ったのは、門の手前にある駐車場だった。全員が降り、言乃花が前に出て冬夜達のほうへ振り返ろうとした時、こちらの動きを監視しているような奇妙な視線を感じ取った。さっと目線を動かしたが、既に気配は消え去った後だった。

(まさか妖精……?)

 わずかな異変に気がついた者がもう一人いた。

(……高みの見物とはいいご身分っすね)

 いつもの笑顔は消え、溢れだす殺気を隠そうともしないレイス。そんな二人の様子に冷めた視線を送る芹澤。
 様々な思惑が渦巻きながら鍛錬の幕が上がろうとしていた。
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