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第三章 幻想世界

第14話 それぞれの出発の時(後編)

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 メイが冬夜たちの見送りをしていた頃、宿泊している施設内を歩きまわる小さな姿があった。

「食堂にもいない? どこに行っちゃったんだろう……」


 ソフィーが目を覚ますと一緒に寝ていたメイの姿がなく、部屋のドアが少し開いていた。

「あれ? メイいないの?」

 昨夜遅くまでメイが何かを作っており、夕食の時も手が離せないからとサンドイッチを作ってもらい、届けると慌てて食べて黙々と作業を続けていた。

(先に朝ごはんを食べに行ったのかな? 昨日は夜遅くまで頑張っていたもんね)

 優しいメイだから自分を起こさないように気を使ったと考えながら、ソフィーは食堂へ向かったのだ。

「おはようございます。メイは来ていませんか?」
「おはよう、ソフィーさん。メイさんはこちらにはまだ来ていませんよ」

 食堂の中に入ったソフィーが声をかけると、近くを通りかかった白いエプロンと帽子を被ったお姉さんが優しい笑顔で答えてくれる。手に持った食器を近くのテーブルに置くとしゃがんで目線を合わせ、頭をなでてくれた。

「えへへ。ありがとうございます。あれ? どこ行っちゃったんだろう?」
「今日は天気も良いですし、お庭を散歩しておられるのではないでしょうか? もうすぐ準備できますから呼びに行かれてはどうですか?」
「はい! お散歩しながら呼んできます!」

 ニコニコした笑顔で答えると慌ただしく働いていた食堂の人たちに笑顔が広がる。みんなに手を振られながらソフィーは食堂を後にした。

のために今日もみんなで頑張ろうね!」
「「「はい!」」」

 食堂に元気と笑顔が満ち溢れて、その日の朝食から大好物のパンケーキが山盛り積まれ、ソフィーがビックリしたのは別のお話。


 食堂を出てリビングスペースに向かうと、大きなあくびをしながら玄関から入ってくる人物がいた。

「おはようございます! プロフェッサー芹澤、だいぶ眠そうですが大丈夫ですか?」
「ソフィー君、おはよう。夢中で研究していたらつい時間を忘れてしまってね。これから少し仮眠してくるよ」
「無理はしないでくださいね。あ、そうだ。メイを見ませんでしたか?」
「メイ君? ああ、さっき正門のほうに向かったぞ。冬夜君たちの見送りだな」
「あっ! 朝早くからレイスさんのお家に行くってお話でしたよね」
「そうだ。もう出発したから戻ってくると思うぞ。外で出迎えてあげるといい」
「ありがとうございます!」

 ソフィーが笑顔でお礼を言うと芹澤も優しい顔になる。そして、ソフィーが玄関から出ていくのを見送るとリビングのソファーに倒れこみ、静かに寝息を立て始めた。

「ソフィーちゃん、おはよう!」
「おはようございます、リーゼさん! とても早起きさんですね!」

 玄関を出ると、ソフィーに笑顔で挨拶をした。

「それは誰よりも早くソフィーちゃんと……じゃなくて、慌てた様子でどうしたの?」
「メイが冬夜くんたちの見送りに行ったみたいなのでお迎えに行こうかなって」
「そうなんだ。じゃあ一緒に散歩しながら迎えにいこうか」
「はい! ぜひお願いします!」

 リーゼの左手をぎゅっと握り、歩き出そうとするソフィー。

(ふふふ……今日は邪魔者言乃花もいないし、ソフィーちゃんを独り占めだわ)

 ニコニコの笑顔で右手を引っ張るソフィーとだらしない表情で握られたリーゼ。すれ違う職員がだった。二人で小川沿いに咲く花を見ながら散歩していると正面からメイが歩いてくる。

「リーゼさん、おはようございます! ソフィーと朝の散歩の途中ですか?」
「おはよう。ソフィーちゃんがメイちゃんを迎えに行きたいって言うから一緒にね」
「メイ、どこかに行くならきちんと教えて! 起きたら部屋にいないから心配したんだよ!」
「ごめんね、気持ちよさそうに寝ていたから起こしちゃいけないと思って……」
「……ソフィーちゃんの寝顔、うらやましい……」

 ソフィーにメイが怒られている横で何かブツブツとつぶやくリーゼ。

「あ! もうすぐ朝ごはんができるって言われたの。早く行きましょう」

 ソフィーの言葉にハッと我に返るリーゼ。そして、ソフィーを真ん中に三人で仲良く手をつないで施設に戻る。リビングのソファーで爆睡する芹澤とリーゼがひと悶着あり、その様子を笑顔で見守る二人。いつもの学園の風景と変わらない日常にソフィーの心は暖かくなった。

(みんな大好き。いつまでもこんな時間が続きますように……)

 朝食を食べ終わると、メイ、ソフィー、リーゼが正門の前に集合する。三人の前に立つのはエミリアである。

「あれ? 何でママがいるの? てっきりパパが来ると思っていたのに」
「あの人ならうるさいから大量の書類と一緒に所長室に押し込んできたわ。おいたから大丈夫よ」
「ちょっとやりすぎじゃ……まあ、別にいなくてもいいけど」
「そういうこと。じゃあ、こちらも出発よ。街までは私が送るからいっぱい楽しんできて。学生証は持ってきているわよね? お会計の時はかざせば大丈夫だから」
「ママ、それはわかるけど予算は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。

 エミリアの口元がフッと吊り上がり黒い笑顔になる。

「じゃあ、車に乗って。出発するわ!」

 三人を乗せた車が街に向けて出発する。
 笑顔いっぱいのソフィー。
 買い物の途中に起きるハプニングの数々を三人が知る由もなかった。
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