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第三章 幻想世界
第9話 アルの愚痴と研究所
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「……ちょっとアル! お嬢様と呼ぶのはやめなさいって何度言ったらわかるのよ!」
「所長の部下として、ごく普通に挨拶をしたつもりですが、何か問題でも?」
「問題しかないでしょうが! 変な勘違いされるじゃない!」
「それよりリーゼお嬢様? バカ所……お父様へちゃんとお返事されましたか? 連日連夜バカ所長の愚痴に付き合わされている私の身になってください。貴重な趣味の時間がなくなるのですよ? 私の崇高なドルオタ……いえ、推し事の時間が!」
「だからお嬢様はやめなさいって何度いえばわかるのよ! そんなこと知らないわ! あんたの趣味のことまでこっちに文句言わないでよ!」
「何をおっしゃるのですか! 彼女たちとの輝かしい1ページを彩るために私財の全てを捧げる尊い行いをお分かりになりませんか?」
怒り狂うリーゼに対して全く意に介さず、聞いてもいない趣味を暴露するアル。どんどんおかしな方向へ進む二人のやり取りに唖然とする冬夜たちの横から芹澤がスッと前に出る。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりですね」
「これは芹澤くん、久しぶりですね。貴重な資料とフィードバックされる研究データは実に興味深い。毎回助かっていますよ」
「それは光栄なことです。ご依頼があればいつでもご用意いたしますよ。では最近の実験データを簡単にご説明させていただけたらと思いますが……」
すぐ隣で完全に無視されたリーゼが猛抗議しているが、二人はお構いなしに実験データについて話し始めようとする。収拾が付かなくなり始めたところで、静かに様子を見ていた言乃花が口を開く。
「アルさん、お久しぶりです。ところで、森の入り口で私たちはいつまで待たされているのでしょうか? 副会長、急を要する報告でしょうか? 初めてこちらの世界に来た方々もいることをお忘れではないでしょうね?」
「言乃花様、失礼致しました。その突き刺さる視線はまさに……」
「アルさん、どうもっす。そろそろ待つのも飽きたっすけど……もう良いですよね?」
ニッコリと笑顔を浮かべる言乃花とすぐ後ろに控えていたレイスの目が細くなる。殺気を乗せたその視線は騒いでいた三人を射貫き、即座に沈黙させる。
(この殺気はイノセント家の……なるほど、今はうまく合わせておきますか)
「さて……アルさん? 私たち生徒会メンバー以外に三名の新入生をお連れしました。ご紹介してもよろしいですか?」
「も、もちろんです。言乃花様、大変失礼いたしました」
壊れた人形のように何度も首を上下させ、全身から冷や汗が噴き出している。それを見た言乃花は小さくため息をつくと紹介を始める。
「今年の新入生の天ケ瀬 冬夜さん、メイさん、ソフィーさんです。メイさんとソフィーさんは特殊な事情があることは学園長から連絡が来ていると思います。まずは所長さんにご挨拶に伺いたいのですが問題ないですね?」
「そのような報告を聞いていたような気がしますが……」
「問題ないですよね?」
「は、はい……問題はないですよ……」
完全に圧倒されるアル。その様子を見た冬夜はまだ気がついていなかった。本当に怒らせてはいけない存在に……
「それでは、研究所に皆様をご案内いたします。迎えの車をご用意いたしましたので、こちらへどうぞ」
案内され、森を抜けるとそこには大人数が乗れる車が止まっていた。
「冬夜くん、これに乗っていくの?」
「そうだよ。メイは初めて乗るんだっけ?」
「うん、どんな感じなのか楽しみ! ソフィーも初めてだからすごく目がキラキラしているよ」
二人は初めて見るものばかりで本当に楽しそうにしている。後ろからレイス、芹澤、言乃花、2列目に冬夜、メイ、ソフィーが座る。助手席にリーゼが座り、アルの運転で研究所へ向かった。そして、走り出してすぐに違和感を覚える。エンジンの音が聞いたことのない音を奏で、タイヤが着いているのにも関わらず、まるで浮いているような体感なのだ。
「なあ、リーゼ。この車どんな仕組みで動いているんだ?」
「基本的な構造は向こうの車と一緒よ。違うのは魔力を動力源にしていることかしら」
「魔力を動力源? そんなことができるのか?」
「できるわよ。詳しいことはよくわからないけど、魔力を通さないと動かない仕組みになっているらしいわ」
魔力回路の構造はすごく複雑でごく一部の人間しかわからないとのこと。ふと窓の外に目を向けると、住宅が見えてきており、その数がどんどん増えていく。街に近づいてきたようだ。全体的に学園に似た洋風な建物が多く、道行く人々に変わった様子はない。ペットを散歩させたり、子供たちが公園で楽しそうに遊んでいたりする。
(でも、どこか違うんだよな……)
見慣れた光景のはずなのに何か違和感が拭えない。ボンヤリと考えを巡らせていると、先ほどまであった住宅がなくなり、突如大きな壁が現れた。その壁に沿って進んでいき、しばらくすると厳重な門の前に到着する。守衛らしき人物が立っているが、その奥は何の変哲もない小さな事務所が見えるだけである。
「少しお待ちください」
車からアルが降り、門に手をかざすと見えていた景色が一変し、数々の建物が姿を現す。そのまま門の中に入っていき、正面に見える建物の入り口付近に車を止める。
「お疲れさまです。無事に到着いたしました」
建物の大きさと敷地の広さに圧倒される。学園よりもはるかに大きな敷地に何棟もビルのような建物が立っているのだ。正面の建物から白衣を着た背の高い銀髪の男性が出てきた。
「皆さんのことをお待ちしておりました。研究所の所長をしている、ハワード・アズリズルです」
拠点となる研究所に無事到着した一行。
挨拶をした男性を見つけるなり、嫌悪感たっぷりな表情を浮かべるリーゼ。
この表情の意図するところとは……?
「所長の部下として、ごく普通に挨拶をしたつもりですが、何か問題でも?」
「問題しかないでしょうが! 変な勘違いされるじゃない!」
「それよりリーゼお嬢様? バカ所……お父様へちゃんとお返事されましたか? 連日連夜バカ所長の愚痴に付き合わされている私の身になってください。貴重な趣味の時間がなくなるのですよ? 私の崇高なドルオタ……いえ、推し事の時間が!」
「だからお嬢様はやめなさいって何度いえばわかるのよ! そんなこと知らないわ! あんたの趣味のことまでこっちに文句言わないでよ!」
「何をおっしゃるのですか! 彼女たちとの輝かしい1ページを彩るために私財の全てを捧げる尊い行いをお分かりになりませんか?」
怒り狂うリーゼに対して全く意に介さず、聞いてもいない趣味を暴露するアル。どんどんおかしな方向へ進む二人のやり取りに唖然とする冬夜たちの横から芹澤がスッと前に出る。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりですね」
「これは芹澤くん、久しぶりですね。貴重な資料とフィードバックされる研究データは実に興味深い。毎回助かっていますよ」
「それは光栄なことです。ご依頼があればいつでもご用意いたしますよ。では最近の実験データを簡単にご説明させていただけたらと思いますが……」
すぐ隣で完全に無視されたリーゼが猛抗議しているが、二人はお構いなしに実験データについて話し始めようとする。収拾が付かなくなり始めたところで、静かに様子を見ていた言乃花が口を開く。
「アルさん、お久しぶりです。ところで、森の入り口で私たちはいつまで待たされているのでしょうか? 副会長、急を要する報告でしょうか? 初めてこちらの世界に来た方々もいることをお忘れではないでしょうね?」
「言乃花様、失礼致しました。その突き刺さる視線はまさに……」
「アルさん、どうもっす。そろそろ待つのも飽きたっすけど……もう良いですよね?」
ニッコリと笑顔を浮かべる言乃花とすぐ後ろに控えていたレイスの目が細くなる。殺気を乗せたその視線は騒いでいた三人を射貫き、即座に沈黙させる。
(この殺気はイノセント家の……なるほど、今はうまく合わせておきますか)
「さて……アルさん? 私たち生徒会メンバー以外に三名の新入生をお連れしました。ご紹介してもよろしいですか?」
「も、もちろんです。言乃花様、大変失礼いたしました」
壊れた人形のように何度も首を上下させ、全身から冷や汗が噴き出している。それを見た言乃花は小さくため息をつくと紹介を始める。
「今年の新入生の天ケ瀬 冬夜さん、メイさん、ソフィーさんです。メイさんとソフィーさんは特殊な事情があることは学園長から連絡が来ていると思います。まずは所長さんにご挨拶に伺いたいのですが問題ないですね?」
「そのような報告を聞いていたような気がしますが……」
「問題ないですよね?」
「は、はい……問題はないですよ……」
完全に圧倒されるアル。その様子を見た冬夜はまだ気がついていなかった。本当に怒らせてはいけない存在に……
「それでは、研究所に皆様をご案内いたします。迎えの車をご用意いたしましたので、こちらへどうぞ」
案内され、森を抜けるとそこには大人数が乗れる車が止まっていた。
「冬夜くん、これに乗っていくの?」
「そうだよ。メイは初めて乗るんだっけ?」
「うん、どんな感じなのか楽しみ! ソフィーも初めてだからすごく目がキラキラしているよ」
二人は初めて見るものばかりで本当に楽しそうにしている。後ろからレイス、芹澤、言乃花、2列目に冬夜、メイ、ソフィーが座る。助手席にリーゼが座り、アルの運転で研究所へ向かった。そして、走り出してすぐに違和感を覚える。エンジンの音が聞いたことのない音を奏で、タイヤが着いているのにも関わらず、まるで浮いているような体感なのだ。
「なあ、リーゼ。この車どんな仕組みで動いているんだ?」
「基本的な構造は向こうの車と一緒よ。違うのは魔力を動力源にしていることかしら」
「魔力を動力源? そんなことができるのか?」
「できるわよ。詳しいことはよくわからないけど、魔力を通さないと動かない仕組みになっているらしいわ」
魔力回路の構造はすごく複雑でごく一部の人間しかわからないとのこと。ふと窓の外に目を向けると、住宅が見えてきており、その数がどんどん増えていく。街に近づいてきたようだ。全体的に学園に似た洋風な建物が多く、道行く人々に変わった様子はない。ペットを散歩させたり、子供たちが公園で楽しそうに遊んでいたりする。
(でも、どこか違うんだよな……)
見慣れた光景のはずなのに何か違和感が拭えない。ボンヤリと考えを巡らせていると、先ほどまであった住宅がなくなり、突如大きな壁が現れた。その壁に沿って進んでいき、しばらくすると厳重な門の前に到着する。守衛らしき人物が立っているが、その奥は何の変哲もない小さな事務所が見えるだけである。
「少しお待ちください」
車からアルが降り、門に手をかざすと見えていた景色が一変し、数々の建物が姿を現す。そのまま門の中に入っていき、正面に見える建物の入り口付近に車を止める。
「お疲れさまです。無事に到着いたしました」
建物の大きさと敷地の広さに圧倒される。学園よりもはるかに大きな敷地に何棟もビルのような建物が立っているのだ。正面の建物から白衣を着た背の高い銀髪の男性が出てきた。
「皆さんのことをお待ちしておりました。研究所の所長をしている、ハワード・アズリズルです」
拠点となる研究所に無事到着した一行。
挨拶をした男性を見つけるなり、嫌悪感たっぷりな表情を浮かべるリーゼ。
この表情の意図するところとは……?
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