上 下
28 / 164
第2章 ワールドエンドミスティアカデミー

第4話 迷宮と言われる由縁

しおりを挟む
何かあるな……)

 迷宮図書館ラビリンスライブラリに入ると冬夜は小さく息を吐いて周囲を見渡した。入口から見て左側には貸出カウンターや机があり、よくある図書館の光景だ。しかし、右側に広がるエリアが否応なしにという現実を突き付けてくる。天井付近まで本で埋め尽くされた本棚、迷路のように入り組んだ先に広がる先の見えない闇。

「何回来ても好きになれないわね……思い出すだけで寒気がするわ」
「そう? 慣れてくると居心地が良いわよ」

 見事なまでに真逆の反応だが、リーゼが嫌悪感を隠そうとしないのは理由があった。


 冬夜が入学する半年前のことである。個人的な調べ物のため、迷宮図書館を訪れたリーゼ。言乃花が一緒に案内する予定だったが、直前に頼まれた急用があり、しばらく席を外すことになった。

「帰ってくるまで! わかったわね?」
「はいはい、大丈夫よ。早く用事終わらせてきてね」

 リーゼに釘を刺し、迷宮図書館を後にした言乃花。出入口の扉が閉まる音がするとリーゼが怪しい笑みを浮かべる。

(ふふふ、行ったわね? 言乃花はダメだって言っていたけど……探したい本はすぐ近くの本棚にあるはずだし、迷子になるわけないじゃん。大丈夫、大丈夫)

 軽い気持ちで『絶対に一人で探さないこと』という言乃花の忠告を無視して足を踏み入れた数分後……

「どうなってるのよ? さっきから同じ景色ばかりだし……まさか迷った……ここから出られないの? 言乃花、早く帰ってきて……」

 一時間後、用事を終えた言乃花が発見したのは迷子になり、半泣きでうずくまっていたリーゼ。この後、しっかりお説教されたのは言うまでもない……


「本当にビックリしたわ。本棚エリアに入ってすぐだったから良かったけど、……」
「ちょっとストーップ! それ以上は何もなかったわよね?」

 慌てて言乃花の口を抑え込むリーゼ。あからさまな慌てようからよほど知られたくないことがあったと推測できる。

「ぷはぁ。そんなに恥ずかしがるようなことでもないと思うけど?」
「私は忘れたいことなの! この話はもうおしまい!」

 二人のやり取りがひと段落したところで、冬夜が口を開く。

「気になっていたことなんだが、図書館内部の見取り図はないのか?」
「一応あるわよ。まったく当てにならないけど」

 さっとカウンターへ向かうと中から一枚の紙を取り出し、皆が集まっている机に広げた。全員で見取り図を見て驚愕する。描かれている配置図と実際の広がる空間を見比べ、全く当てにならないといった言葉の意味がよく理解できる。

「言っている意味が分かった……

 全員が一致した意見だった。
 現在の場所から見えている景色と図に記されている箇所は一見すると整合性があるように見える。
 奥に広がる空間は闇に包まれており、実際にどうなっているか確認することもできない。

「これが迷宮図書館と言われる由縁。どういった仕組みなのかはさっぱりわからないけど……何かしらの要因で空間が歪んでしまったからじゃないかと推測しているわ。目印なしで足を踏み入れたらたどり着けるか定かじゃないの」

 サラッと恐ろしいことを話す言乃花。

「空間の歪みが原因とおっしゃってましたが、私たちがいたことが何か関係しているのでしょうか?」

 今までじっと話を聞いていたメイが遠慮気味に言乃花に質問する。

「否定はできないわ。私自身も管理を任されてはいるけど、把握できているのは多くても半分くらい。あの時はノルンの力も関係しているような気がするし、一概には関係ないとは言えないと思うの」
「この場所で話していても埒が明かない。言乃花、俺たちが遭遇した場所まで行って調べてみようぜ」

 無言でうなずく言乃花。
 右手をすっと上げ、風の魔力をまとわせると一筋の線が暗闇に向かって伸びていく。

「目的の場所までのルートはこれで大丈夫よ。皆ついてきて」

 先頭に言乃花、すぐ後ろにリーゼと並ぶようにメイとソフィー、最後尾に冬夜の順で迷宮図書館の内部へ歩みを進めていく。

(ほんとまっすぐ歩いているはずなのに振り返るとさっきいた場所が全く見えないんだよな……一体どんな構造しているんだ?)

 ふと後ろが気になり振り返ると全く見覚えのない空間へ変わっている。感覚としてはほんの数メートルしか歩いていないはずだがまったく当てにならない。

「ちゃんとついてこないと迷子になるわよ」
「わるい、わるい。ちょっと振り返っただけだ」

 リーゼから小言が飛んできた。気が付くと数メートル進んだところで冬夜のことを待っており、慌てて追いかける。
 メイのいた空間と『箱庭』に関する手掛かりとなるものはあるのだろうか。

 時を同じくして、因縁の相手も動き始めようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

チートも何も貰えなかったので、知力と努力だけで生き抜きたいと思います

あーる
ファンタジー
何の準備も無しに突然異世界に送り込まれてしまった山西シュウ。 チートスキルを貰えないどころか、異世界の言語さえも分からないところからのスタート。 さらに、次々と強大な敵が彼に襲い掛かる! 仕方ない、自前の知力の高さ一つで成り上がってやろうじゃないか!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...