終わる世界と、花乙女。

まえ。

文字の大きさ
上 下
49 / 70
第一章 終わる世界

ナオミ

しおりを挟む
艦橋ブリッジの真ん中、何もない空間から黒髪の女の子が突然現れた。

年はフアニータよりちょっと上くらい。15~6歳くらいかな?
一応、艦隊のグレーの軍服を着てるけど階級章や肩章とかがない。
軍隊なんだから「階級がない」なんて、ありえないはずなんだけど。

とか言いながら、私にも階級がない。
あえて言うなら「花乙女」という階級。花乙女は自分の船で一番上の権限を持ってる。
艦長より上の権限。
ま、だからと言って、私が例えば操艦に口を出すわけないんだけど。

そして、その女の子の体は半透明に透けていた。
つまり…立体映像…?
クルーのみんなは当たり前のようにその女の子を受け入れていて、誰も驚いた様子がない。

女の子は眠そうに目をこすりながらあくびをして、大きく伸びをした。
「呼んだ~?」

「呼んだよ。ミヒャエルがね…」
「艦長!」
ミヒャエルが、情けない顔で後ろのレクシーを振り返った。
「艦長、それは言わない約束でしょう…」
さっきまでののろけっぷりが嘘のように、ミヒャエルは静かになった。
何でかな? シャイなのかな?

「ジェニー、紹介するね。歌姫この船の「心」を担当してるナオミ」
「え…心…!?」

船の心って、どういうこと?

「ナオミ、こちらは新しい花乙女のジェニファー」
「初めまして~ ナオミです!」

ナオミは、ぱあっと周りを明るくする笑顔で私と握手した。
体は半透明に透けているけど、それ以外はどこにでもいる女の子。そう見える。
「うん…だって、体が透けて見えるし…」
「そういうのは気にしないで。大丈夫。見た目はこんなのだけど、私は普通の人間だよ」
「どう見ても違うけど…もしかして、あなたは自分を人間だと思ってる認識装置リコグナイザーなの?」
「まさか! 人間だってば」
ナオミは私の言葉をさらっと否定した。

ずっと昔、認識装置の進化が人を幸せにすると信じられていた時代に、人格を持った認識装置を作るのが流行ったことがあった、らしい。
らしい、と言うのはその結果、一部の認識装置が組織を作って人類に対して反乱を始めたから。
慌てた人間が、認知装置に人格を持たせることを禁止したから。

「そうね、ナオミはこの船の『心』みたいなもんだね。一人で操艦して、地球一周だってできるし」

アニータ副長の解説。
ますます分からない。
人間? 機械? 何なの?

「で、ナオミ。今回の敵の正体はどう思う?」
「たぶん、この船と同じ『歌姫』クラスの『舞姫』と思う」

たぶん? 思う?
機械認識装置なら、そんな曖昧な言葉は使わないはず。敵が舞姫である確率が何%とか、そんな感じ。
じゃあ、ナオミは人間?

「その根拠は?」
「飛んできた模擬ミサイルの数と種類から。
 皇帝エンペラー級か歌姫ディーヴァ級相当の攻撃だから」

「アニータはどう思う?」
「私も同意見。あの積乱雲はアレハンドラが作ってる。「皇帝エンペラー」のフアニータなら積乱雲を作れない。
だから舞姫だと思うわ」

「アレハンドラ…」
クルーの皆が、くすくす笑った。
「あの、先任のワガママ女王が…」

ワガママ女王という言葉で思い出した。
昔、ルームメイトのサブリナが、どうしても透明なアジサイを作りたくて先輩のアレハンドラに教えて貰いにいったことがあった。
女王様みたいなドレスを着たアレハンドラは、とんでもない大雨を降らせて私たちに力を見せびらかし、ついでにびしょ濡れにした。
嫌な記憶…ていうか…
「先任ってことは、アレハンドラは歌姫この船にいたの!?」

「いたよ、ワガママ放題の要求をして、すっごく大きな顔をしてたよ」
レクシー艦長は、楽しそうにあっはっはと笑った。
「それでいつも艦長レクシーと喧嘩してたわね」
アニータ副長も微笑んだ。

「この船は元々、艦隊の他の船を追い出された厄介者が集められた吹きだまりだけどさ、こんな船にも居場所がなかったのよ。あのワガママ女王は」

ワガママ女王…確かに。
命令絶対の軍隊には、一番合わない感じだし。
それにしても…

「歌姫が吹きだまりって…なんで? だってこの船は艦隊最強なんですよね? 優秀な人材を集めたいとこですよね」
「そうよ。そうなんだけどね。でもね、艦隊一のが絶対にこの船を離れないの。
 だから司令も普通の人員配備を諦めて、他の船に居場所のない厄介者ばかり集めたと思う。多分」
「艦隊一の爆弾? 何が?」

艦橋のみんなが、黙って第三王子をじっと見つめた。

それに気付いた王子は、ふんぞり返って言った。
「何だ? この船歌姫は、この第三王子の座乗艦だ。私がこの船を降りる筋合いはないぞ」

いや、良く分かりました。
私に負けて船を奪われた筈なのに、王子はどういうわけか自分の船歌姫に居座って離れず、そのまま今に至るってことだ。

待てよ。
この船に厄介者ばかり集めたって、もしかして私も…?

「敵艦まで20マイル!」
ミヒャエルが叫んだ。
艦内に緊張が走った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...