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第一章 終わる世界
ナオミ
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艦橋の真ん中、何もない空間から黒髪の女の子が突然現れた。
年はフアニータよりちょっと上くらい。15~6歳くらいかな?
一応、艦隊のグレーの軍服を着てるけど階級章や肩章とかがない。
軍隊なんだから「階級がない」なんて、ありえないはずなんだけど。
とか言いながら、私にも階級がない。
あえて言うなら「花乙女」という階級。花乙女は自分の船で一番上の権限を持ってる。
緊急時を除いて艦長より上の権限。
ま、だからと言って、私が例えば操艦に口を出すわけないんだけど。
そして、その女の子の体は半透明に透けていた。
つまり…立体映像…?
クルーのみんなは当たり前のようにその女の子を受け入れていて、誰も驚いた様子がない。
女の子は眠そうに目をこすりながらあくびをして、大きく伸びをした。
「呼んだ~?」
「呼んだよ。ミヒャエルがね…」
「艦長!」
ミヒャエルが、情けない顔で後ろのレクシーを振り返った。
「艦長、それは言わない約束でしょう…」
さっきまでののろけっぷりが嘘のように、ミヒャエルは静かになった。
何でかな? シャイなのかな?
「ジェニー、紹介するね。歌姫の「心」を担当してるナオミ」
「え…心…!?」
船の心って、どういうこと?
「ナオミ、こちらは新しい花乙女のジェニファー」
「初めまして~ ナオミです!」
ナオミは、ぱあっと周りを明るくする笑顔で私と握手した。
体は半透明に透けているけど、それ以外はどこにでもいる女の子。そう見える。
「うん…だって、体が透けて見えるし…」
「そういうのは気にしないで。大丈夫。見た目はこんなのだけど、私は普通の人間だよ」
「どう見ても違うけど…もしかして、あなたは自分を人間だと思ってる認識装置なの?」
「まさか! 人間だってば」
ナオミは私の言葉をさらっと否定した。
ずっと昔、認識装置の進化が人を幸せにすると信じられていた時代に、人格を持った認識装置を作るのが流行ったことがあった、らしい。
らしい、と言うのはその結果、一部の認識装置が組織を作って人類に対して反乱を始めたから。
慌てた人間が、認知装置に人格を持たせることを禁止したから。
「そうね、ナオミはこの船の『心』みたいなもんだね。一人で操艦して、地球一周だってできるし」
アニータ副長の解説。
ますます分からない。
人間? 機械? 何なの?
「で、ナオミ。今回の敵の正体はどう思う?」
「たぶん、この船と同じ『歌姫』級の『舞姫』と思う」
たぶん? 思う?
機械なら、そんな曖昧な言葉は使わないはず。敵が舞姫である確率が何%とか、そんな感じ。
じゃあ、ナオミは人間?
「その根拠は?」
「飛んできた模擬ミサイルの数と種類から。
皇帝級か歌姫級相当の攻撃だから」
「アニータはどう思う?」
「私も同意見。あの積乱雲はアレハンドラが作ってる。「皇帝」のフアニータなら積乱雲を作れない。
だから舞姫だと思うわ」
「アレハンドラ…」
クルーの皆が、くすくす笑った。
「あの、先任のワガママ女王が…」
ワガママ女王という言葉で思い出した。
昔、ルームメイトのサブリナが、どうしても透明なアジサイを作りたくて先輩のアレハンドラに教えて貰いにいったことがあった。
女王様みたいなドレスを着たアレハンドラは、とんでもない大雨を降らせて私たちに力を見せびらかし、ついでにびしょ濡れにした。
嫌な記憶…ていうか…
「先任ってことは、アレハンドラは歌姫にいたの!?」
「いたよ、ワガママ放題の要求をして、すっごく大きな顔をしてたよ」
レクシー艦長は、楽しそうにあっはっはと笑った。
「それでいつも艦長と喧嘩してたわね」
アニータ副長も微笑んだ。
「この船は元々、艦隊の他の船を追い出された厄介者が集められた吹きだまりだけどさ、こんな船にも居場所がなかったのよ。あのワガママ女王は」
ワガママ女王…確かに。
命令絶対の軍隊には、一番合わない感じだし。
それにしても…
「歌姫が吹きだまりって…なんで? だってこの船は艦隊最強なんですよね? 優秀な人材を集めたいとこですよね」
「そうよ。そうなんだけどね。でもね、艦隊一の爆弾が絶対にこの船を離れないの。
だから司令も普通の人員配備を諦めて、他の船に居場所のない厄介者ばかり集めたと思う。多分」
「艦隊一の爆弾? 何が?」
艦橋のみんなが、黙って第三王子をじっと見つめた。
それに気付いた王子は、ふんぞり返って言った。
「何だ? この船は、この第三王子の座乗艦だ。私がこの船を降りる筋合いはないぞ」
いや、良く分かりました。
私に負けて船を奪われた筈なのに、王子はどういうわけか自分の船に居座って離れず、そのまま今に至るってことだ。
待てよ。
この船に厄介者ばかり集めたって、もしかして私も…?
「敵艦まで20マイル!」
ミヒャエルが叫んだ。
艦内に緊張が走った。
年はフアニータよりちょっと上くらい。15~6歳くらいかな?
一応、艦隊のグレーの軍服を着てるけど階級章や肩章とかがない。
軍隊なんだから「階級がない」なんて、ありえないはずなんだけど。
とか言いながら、私にも階級がない。
あえて言うなら「花乙女」という階級。花乙女は自分の船で一番上の権限を持ってる。
緊急時を除いて艦長より上の権限。
ま、だからと言って、私が例えば操艦に口を出すわけないんだけど。
そして、その女の子の体は半透明に透けていた。
つまり…立体映像…?
クルーのみんなは当たり前のようにその女の子を受け入れていて、誰も驚いた様子がない。
女の子は眠そうに目をこすりながらあくびをして、大きく伸びをした。
「呼んだ~?」
「呼んだよ。ミヒャエルがね…」
「艦長!」
ミヒャエルが、情けない顔で後ろのレクシーを振り返った。
「艦長、それは言わない約束でしょう…」
さっきまでののろけっぷりが嘘のように、ミヒャエルは静かになった。
何でかな? シャイなのかな?
「ジェニー、紹介するね。歌姫の「心」を担当してるナオミ」
「え…心…!?」
船の心って、どういうこと?
「ナオミ、こちらは新しい花乙女のジェニファー」
「初めまして~ ナオミです!」
ナオミは、ぱあっと周りを明るくする笑顔で私と握手した。
体は半透明に透けているけど、それ以外はどこにでもいる女の子。そう見える。
「うん…だって、体が透けて見えるし…」
「そういうのは気にしないで。大丈夫。見た目はこんなのだけど、私は普通の人間だよ」
「どう見ても違うけど…もしかして、あなたは自分を人間だと思ってる認識装置なの?」
「まさか! 人間だってば」
ナオミは私の言葉をさらっと否定した。
ずっと昔、認識装置の進化が人を幸せにすると信じられていた時代に、人格を持った認識装置を作るのが流行ったことがあった、らしい。
らしい、と言うのはその結果、一部の認識装置が組織を作って人類に対して反乱を始めたから。
慌てた人間が、認知装置に人格を持たせることを禁止したから。
「そうね、ナオミはこの船の『心』みたいなもんだね。一人で操艦して、地球一周だってできるし」
アニータ副長の解説。
ますます分からない。
人間? 機械? 何なの?
「で、ナオミ。今回の敵の正体はどう思う?」
「たぶん、この船と同じ『歌姫』級の『舞姫』と思う」
たぶん? 思う?
機械なら、そんな曖昧な言葉は使わないはず。敵が舞姫である確率が何%とか、そんな感じ。
じゃあ、ナオミは人間?
「その根拠は?」
「飛んできた模擬ミサイルの数と種類から。
皇帝級か歌姫級相当の攻撃だから」
「アニータはどう思う?」
「私も同意見。あの積乱雲はアレハンドラが作ってる。「皇帝」のフアニータなら積乱雲を作れない。
だから舞姫だと思うわ」
「アレハンドラ…」
クルーの皆が、くすくす笑った。
「あの、先任のワガママ女王が…」
ワガママ女王という言葉で思い出した。
昔、ルームメイトのサブリナが、どうしても透明なアジサイを作りたくて先輩のアレハンドラに教えて貰いにいったことがあった。
女王様みたいなドレスを着たアレハンドラは、とんでもない大雨を降らせて私たちに力を見せびらかし、ついでにびしょ濡れにした。
嫌な記憶…ていうか…
「先任ってことは、アレハンドラは歌姫にいたの!?」
「いたよ、ワガママ放題の要求をして、すっごく大きな顔をしてたよ」
レクシー艦長は、楽しそうにあっはっはと笑った。
「それでいつも艦長と喧嘩してたわね」
アニータ副長も微笑んだ。
「この船は元々、艦隊の他の船を追い出された厄介者が集められた吹きだまりだけどさ、こんな船にも居場所がなかったのよ。あのワガママ女王は」
ワガママ女王…確かに。
命令絶対の軍隊には、一番合わない感じだし。
それにしても…
「歌姫が吹きだまりって…なんで? だってこの船は艦隊最強なんですよね? 優秀な人材を集めたいとこですよね」
「そうよ。そうなんだけどね。でもね、艦隊一の爆弾が絶対にこの船を離れないの。
だから司令も普通の人員配備を諦めて、他の船に居場所のない厄介者ばかり集めたと思う。多分」
「艦隊一の爆弾? 何が?」
艦橋のみんなが、黙って第三王子をじっと見つめた。
それに気付いた王子は、ふんぞり返って言った。
「何だ? この船は、この第三王子の座乗艦だ。私がこの船を降りる筋合いはないぞ」
いや、良く分かりました。
私に負けて船を奪われた筈なのに、王子はどういうわけか自分の船に居座って離れず、そのまま今に至るってことだ。
待てよ。
この船に厄介者ばかり集めたって、もしかして私も…?
「敵艦まで20マイル!」
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