終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

艦長 レクシー

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「ええっ!? どの船の、どの花乙女ですか!?」
「ふふ…2つに1つだけど、多分、あっちはないかな…?」
 アニータさんは、嬉しそうに微笑んだ。

「そんな楽しそうに…教えてくれてもいいじゃないですか?」
「ジェニー、簡単なことよ。グラン司令は優秀な花乙女空中船が大好きなの」
「つまり…?」
「『草原の歌姫この船』は艦隊最強って言われてる。とすれば、司令はこの船の演習の相手に普通の船は選ばない。
最強の船に当てるのは最強の船。だから…」
「だから…黄金の皇帝エンペラー、ですか?」
 歌姫以外で「艦隊最強」と言われてるのは、司令の座乗艦、エンペラー。

「私も一瞬、そうかな?って思ったの。でも、さすがにあり得ないわね」
 アニータ副長が肩をすくめた。
「エンペラーは旗艦よ。スペック上は確かに艦隊最強だけど、さすがに演習に出てくるとは思えないわ」

 確かにその通り。
 旗艦の役割は艦隊の指揮だから、最前線に出てくることはない。つまり、演習の相手としては、あり得ない。
 その場の皆が納得しかかったその瞬間、後ろから声が上がった。
「私はエンペラーと闘ってやってみたいよ」

 ええっ!?
 勢いよく幹部の輪の中央に出てきたのは、レクシー・メントール艦長。勢い余って、立体映像の「歌姫」を踏んづけてる。

 それにしても。
 レクシー艦長は、背は低いのにスタイルが抜群!
 声も大きくて威厳があって、魅力的な女性。
 まだ20代に見えるけど、不思議な貫禄がある人。

「エンペラーなら、相手に不足はないわ。それにグラン司令あの人は、相手の意表を付くのが得意だから、案外本当に出てくるかも」
「司令なら、あり得るわね」
 アニータ副長は、くすくす笑った。
「でも、第三夫人あたりが止めるでしょうね。万が一負けたらカッコ悪いじゃない?」
「確かに…」

アニータが静かに言った。
「私は、今回の演習相手は『舞姫』だと思う。ということは、花乙女はアレハンドラ…」
「まさか…」
 クルー皆がしん、と静まり返った。
「舞姫」は「歌姫」級の2番艦で、正式名称は「天空の舞姫」。
 ネームシップの「歌姫」と全く同じ大きさ、同じスペック、同じ装備で「歌姫」と同じく「艦隊最強」と呼ばれている。
 相手が「舞姫」となると、船そのもので強弱は決まらない。
 私を含めた、乗組員クルーの質が強弱を決める。

 特殊砲艦「歌姫」は、今回の演習に設定された空域に近付いた。
 演習空域はアルゼンチン沖の大西洋、100マイル×100マイルの狭い範囲。
 空域は海面から10マイル上空までで、それより上空に上がったり、海に潜ったりするのは禁止。

「各自、持ち場に付け! 第一種警戒態勢!」
 レクシーが命令して、幹部の皆は艦橋や機関室など、それぞれの持ち場に戻った。

「歌姫」は、光学迷彩と電波撹乱で自分の存在を消し、エンジン出力を最小に絞りながらそろそろと演習空域に侵入した。

「対象空域に敵対反応なし!」
認識装置リコグナイザー担当の報告が艦橋ブリッジに響いた。
「対象空域に敵対反応なし、了解!」
レクシー艦長は復唱しながら呟いた。
「そりゃそうね…」
アニータ副長も呟いた。
「そうね。同じ時刻に演習空域に入ってる筈だから、反応がないわけないよね。とすれば…」
「入った瞬間…いや、入る前から隠れてた」
「そうね」
「でもそれはこっちも同じ」
レクシー艦長は、長いため息をついて、それから命令した。
「総員、索敵モードを強化! あとエンリケ王子、天気と気圧配置に注意を払って!」

今まで他人ごとのような顔でブリッジにいた第三王子は、あんぐりと口を開けた。
「地球人よ、私が誰か分かってるのか?」
「私は『地球人』じゃなくてレクシー。
セクシーでいい女フォクシーなレクシー。あなたがケダモノのお偉いさんだってことは知ってるわよ。その上で司令がこの船に『特別扱い』で乗せたのも分かってる」
「じゃ、何で!?」
「ヒマそうだから!」
「あぁ!?」
「ヒマそうだから、あなたの仕事をあげたの。やって。今すぐ!」
「…分かったよ」

しぶしぶ手元の認識装置を触ってチェックを始める王子。
あの偉そうな王子が、レクシー艦長に逆らえないのが新鮮。それにしても、何で気圧配置と天気に気を配るんだろう?

そう思った瞬間、指令本部から演習状況の連絡が入った。
合成音声の女性の声がこう告げた。

「たった今、『草原の歌姫』が敵艦に探知されました」
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