終わる世界と、花乙女。

まえ。

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外伝 フアニータの憂鬱

嵐の予感

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それは何でもない、普通の朝だった。
ごく普通の、夜明け前の静かな時間。
名前も知らない鳥が鳴いてる。
近所から朝のパンを焼く香りが漂う、平和な風景。

でもその中に、かすかに不穏な雰囲気が家の外から忍び込んできた。
これはもう、言葉では説明できない。
何か今まで感じたこともないような、禍々しい空気がそこにいる。

家族は全員寝てる。
私以外、誰もこの異変に気付いてない。
でも私の勘が、最大限の音量で警鐘を鳴らしてる。

あれは、地球外から来た脅威。
つまり「ケダモノ」の襲来。

このメキシコシティーでは、初めての出来事。
他の大都市にケダモノが襲来して、沢山の人々が犠牲になったことは知ってるけど、それはどこか遠い星の出来事のよう。全然実感がない。
この街には、そういう空気が漂っていた。

「認めさせてやる」
貧民街まちの雰囲気が私に冷たいのは感じてる。
共同で生活をしている住宅。同じく共同で仕事をして、噂話が娯楽の小さなコミュニティー。
私がマフィアの手下を半殺しにしたという噂は、そのマフィアたちの可哀想な出自と併せて、皆の大好物の話題になった。
みんな、私が金色の力を貧民街の「仲間」に向けて使ったことを許せないみたいで、そういう視線を私や家族に向けてきた。

ま、いい。
私のことを悪く言うのは、まだいい。
それでも私の家族のことを悪く言うのは、絶対に許せない。
そういう人は、泣いてわめいてごめんなさいを言うまで、バシバシ叩いてやる。

私のことを認めさせてやる。
この街メキシコシティーに襲来したケダモノを「花」の力で倒して、私のことを認めさせてやる。

ぐんっ!

空中に跳び上がった私は、仮想空間を通って家を飛び出した。
空を飛ぶのに使うのは、実体化した金色の光の粒子。
粒子を空中に固定して足場を作る。
その足場を何度も蹴って、空高く駈けていく。

ある程度上空まで駆け上がったところで、私は現実空間に戻った。
いた。
ケダモノらしき黒い人影が、東の朝日の方向に向かって飛んでいる。
その黒い人影は空中で急に止まって、地面に向かって腕を振り下ろした。

「!?」

ずどおおおん!

すさまじい音がメキシコシティー中に響いた。
見ると、黒い人影の下の地面が、まるで隕石でも落ちたように丸く潰され、大きくえぐれていた。

何?
どういうこと?

郊外の住宅街が丸ごと更地になり、大きな穴になっている。
まるで、元々そこに人は住んでいなかったみたい。
何?
何なの!?
どうやってこんなに簡単に人を殺せるの!

ずどおおん!
また、轟音が響いた。
地面に、大きな穴が開いた。
数え切れない人々の命が失われた。

許せない!

私は、仮想空間に潜ると一気にケダモノがいる空間を目指して空を駆けた。

私のこの、金色の力があのケダモノにどこまで通じるかわからない。
それでもあの大馬鹿者ケダモノの、無防備な背後から私の全力をぶつけてやる。
やらなきゃ、私の気が済まない。

ばあっ!
現実空間に飛び出した。
さっきまでケダモノがいたはずの場所。

え?
いない!?
ケダモノがいない。

はるか下の、西の方にケダモノがいた。
何で?

私が仮想空間を移動している間に、ケダモノは現実空間で予想外の場所に移動していた。
でも私が仮想空間にいる間は、ケダモノの位置はわからない。
もし私がもっと器用なら、半歩だけ仮想空間に踏み入ってケダモノの存在を確認しながら移動できるのに。

一瞬、ためらう。
現実空間の中を正々堂々と通ってケダモノに近付き、金色の力で一気に倒す。
できる?
私に、できる?
そうすると当然、相手に見つかる可能性が大きい。

もし私の力がケダモノよりずっと上なら、問題ない。
でももし互角以外なら?
戦いが長引いたら?

私は自分の「花」を、敵を倒すために使ったことがない。
だから、わからない。だから、怖い。

ずどおおおおん!
ずどおおおおん!

こうして迷っている間にも住宅街が、人々が潰されていく。
もう、迷っている暇なんかない!

金色の力エル ポデール デ オーロ!」
私はありったけの力を足元に集め、それを蹴飛ばしてケダモノに向かって突進した。
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