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第一章 終わる世界
大人の流儀
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「私の花よ!」
私は両手に白蓮の花を握り、フアニータに向かい合った。
3ヶ月前とは違って、今なら白蓮の花を瞬時に5本出すことができる。
花乙女が持つ花は、電池のようなもの。最初に花にエネルギーを貯めておき、後でそれを色々な武器に変えたり力を発散させたりして敵を攻撃する。
私の両手の白蓮を見て、フアニータは鼻で笑った。
「そんなので私にかなうと思った? おばさん?」
フアニータの、悪意のこもった言葉。
私を軽蔑した瞳。
やっぱ苦手だ、この娘。
「水の壁!」
私は、自分の周りに泥水の壁を作った。
前回のオークランド虐殺の時の経験から改良した、私なりの作戦を試すことにする。
ここは闘技場の中に作られた仮想空間。
仮想空間の中も闘技場と同じ床。同じ壁と天井。
今回はあらかじめ作られた仮想空間があってそこから出てはいけない。だからお互いに自分の仮想空間を使った攻撃の「上書き」も「圧潰」も使えない。
つまり、この勝負を決めるのは仮想空間の中に構築された環境の違い。
私は自分を円筒形に包む泥水でシールドを作り、フアニータに向かい合った。
「こんな子供だましで」
フアニータが私に向かって一歩を踏み出した。
「私を止められると思った? 舐められたものね」
フアニータの頭の上に、金色に輝く太陽が見える。
あれは、狂った太陽。
フアニータが持つヒマワリの花から生まれる、光と熱の球体。エネルギーの塊。
前に見た時は、フアニータはケダモノにぶつけて攻撃してた。
でも今は違う。
フアニータは上に向かって開いた左手の掌の上に「狂った太陽」を浮かべたままこちらに近付いてくる。
そしてその太陽を私に向かって投げる気配はない。
たぶん、それを受けたら私が大怪我するから。
少し離れた場所で私達を見守る、審判役の校長が試合を止めてしまうから。
フアニータが私に近付くにつれ、「狂った太陽」の熱も押し寄せてきた。
この光と熱には圧倒される。
私達の力の差を実感する。
残念だけど、私の白蓮ではフアニータに対抗できない。
だけど、私には彼女にはないアドバンテージがある。
人生経験の長さに裏打ちされた、アドバンテージ。
それは、容易に他人を信じないという習慣。
年齢相応に無邪気で純粋なフアニータとは違って、私はまず疑ってみる癖がある。
例えば校長がこの試合の前に説明したルール。
私もフアニータも、校長に言われたルールは同じように理解してる。
でも多分、言われてないルールの理解に差がある。
そうだ。
校長は私の倍以上生きてる。
だからその分、色々と考えた上で言葉を発する。
校長が何も考えずにこの闘技場を用意したとは思えない。
「そっちから来ないなら、こっちから行くよ」
フアニータが一歩ずつ近付いてくる。
熱と光とエネルギーの塊も一歩ずつ近付いてくる。
まだ。
まだ遠い。
私を取り巻く泥水の壁。
その水温がみるみる上昇する。
フアニータの太陽の影響を受けて、どんどん熱くなっていく。
まだ遠い。
攻撃するには、まだもう少しだけ遠い。
熱くなった泥水の、あちこちで小さなあぶくが、上がり始めた。
やばい。
沸騰し始めた!
もうあんまりもたない。
「こんなチャチな壁で私を防げると思った?」
回せ!
水の壁を回せ! 蒸発するより速く回して冷ませ! もっと速く!
私を囲む泥水の壁が、あちこちで蒸発して無数の穴が開いていく。
やばい!
このままじゃ、フアニータに泥水を全部蒸発させられちゃう!
野球バットを構えてその場に立つ。
背中に隠したのは蓮から作ったロータスシルク。
それ自体に攻撃力はないけど、彼女の顔に絡みつけば、一時的に戦闘力を奪うことができる。
「かくれんぼは、もうおしまい」
私の姿を隠してくれていた泥水の壁は、一瞬で全て蒸発させられた。
私の、無防備な姿がフアニータの前にさらされた。
今がチャンス!
「ロータスシルク!」
私は、ありったけのロータスシルクをフアニータの顔面に投げつけた。
「なにこれ!?」
狙い通り、フアニータは顔をこすってロータスシルクを払い落とした。
チャンス!
一気に間合いを詰める。
「…とでも言うと思った?」
彼女の顔。冷静そのもの。え?
「この技、オークランドで第三王子相手に使ったんでしょ? 知ってる」
「あ…」
そう。あの時、自分が王子に泥水の底に沈められている間に私が王子に勝ったと聞いて、フアニータは地団駄を踏んで悔しがった。で、周りに何が起こったか根掘り葉掘り聞いてた。
「おばさんだから、忘れっぽいってことかな?」
フアニータは狂った太陽と一緒に、完全に無防備になった私に向かって一歩踏み出した。
私は両手に白蓮の花を握り、フアニータに向かい合った。
3ヶ月前とは違って、今なら白蓮の花を瞬時に5本出すことができる。
花乙女が持つ花は、電池のようなもの。最初に花にエネルギーを貯めておき、後でそれを色々な武器に変えたり力を発散させたりして敵を攻撃する。
私の両手の白蓮を見て、フアニータは鼻で笑った。
「そんなので私にかなうと思った? おばさん?」
フアニータの、悪意のこもった言葉。
私を軽蔑した瞳。
やっぱ苦手だ、この娘。
「水の壁!」
私は、自分の周りに泥水の壁を作った。
前回のオークランド虐殺の時の経験から改良した、私なりの作戦を試すことにする。
ここは闘技場の中に作られた仮想空間。
仮想空間の中も闘技場と同じ床。同じ壁と天井。
今回はあらかじめ作られた仮想空間があってそこから出てはいけない。だからお互いに自分の仮想空間を使った攻撃の「上書き」も「圧潰」も使えない。
つまり、この勝負を決めるのは仮想空間の中に構築された環境の違い。
私は自分を円筒形に包む泥水でシールドを作り、フアニータに向かい合った。
「こんな子供だましで」
フアニータが私に向かって一歩を踏み出した。
「私を止められると思った? 舐められたものね」
フアニータの頭の上に、金色に輝く太陽が見える。
あれは、狂った太陽。
フアニータが持つヒマワリの花から生まれる、光と熱の球体。エネルギーの塊。
前に見た時は、フアニータはケダモノにぶつけて攻撃してた。
でも今は違う。
フアニータは上に向かって開いた左手の掌の上に「狂った太陽」を浮かべたままこちらに近付いてくる。
そしてその太陽を私に向かって投げる気配はない。
たぶん、それを受けたら私が大怪我するから。
少し離れた場所で私達を見守る、審判役の校長が試合を止めてしまうから。
フアニータが私に近付くにつれ、「狂った太陽」の熱も押し寄せてきた。
この光と熱には圧倒される。
私達の力の差を実感する。
残念だけど、私の白蓮ではフアニータに対抗できない。
だけど、私には彼女にはないアドバンテージがある。
人生経験の長さに裏打ちされた、アドバンテージ。
それは、容易に他人を信じないという習慣。
年齢相応に無邪気で純粋なフアニータとは違って、私はまず疑ってみる癖がある。
例えば校長がこの試合の前に説明したルール。
私もフアニータも、校長に言われたルールは同じように理解してる。
でも多分、言われてないルールの理解に差がある。
そうだ。
校長は私の倍以上生きてる。
だからその分、色々と考えた上で言葉を発する。
校長が何も考えずにこの闘技場を用意したとは思えない。
「そっちから来ないなら、こっちから行くよ」
フアニータが一歩ずつ近付いてくる。
熱と光とエネルギーの塊も一歩ずつ近付いてくる。
まだ。
まだ遠い。
私を取り巻く泥水の壁。
その水温がみるみる上昇する。
フアニータの太陽の影響を受けて、どんどん熱くなっていく。
まだ遠い。
攻撃するには、まだもう少しだけ遠い。
熱くなった泥水の、あちこちで小さなあぶくが、上がり始めた。
やばい。
沸騰し始めた!
もうあんまりもたない。
「こんなチャチな壁で私を防げると思った?」
回せ!
水の壁を回せ! 蒸発するより速く回して冷ませ! もっと速く!
私を囲む泥水の壁が、あちこちで蒸発して無数の穴が開いていく。
やばい!
このままじゃ、フアニータに泥水を全部蒸発させられちゃう!
野球バットを構えてその場に立つ。
背中に隠したのは蓮から作ったロータスシルク。
それ自体に攻撃力はないけど、彼女の顔に絡みつけば、一時的に戦闘力を奪うことができる。
「かくれんぼは、もうおしまい」
私の姿を隠してくれていた泥水の壁は、一瞬で全て蒸発させられた。
私の、無防備な姿がフアニータの前にさらされた。
今がチャンス!
「ロータスシルク!」
私は、ありったけのロータスシルクをフアニータの顔面に投げつけた。
「なにこれ!?」
狙い通り、フアニータは顔をこすってロータスシルクを払い落とした。
チャンス!
一気に間合いを詰める。
「…とでも言うと思った?」
彼女の顔。冷静そのもの。え?
「この技、オークランドで第三王子相手に使ったんでしょ? 知ってる」
「あ…」
そう。あの時、自分が王子に泥水の底に沈められている間に私が王子に勝ったと聞いて、フアニータは地団駄を踏んで悔しがった。で、周りに何が起こったか根掘り葉掘り聞いてた。
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