終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

決着

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シガル校長の細剣レイピアが、ものすごいスピードで王子の身体を襲う。
王子はその攻撃を軽々とかわしつつ、カウンターのパンチを校長の顔に放った。
レイピアでそれを防ぎながら更に踏み込む校長。

目にも止まらない攻撃の応酬。
王子は右手で攻撃しながら左手で背中側の泥水を集め、それを大きな腕の形にして、巨大な拳で校長を殴った!

バチィィン!

校長の背中からも薄紫色の泥水の腕が生え、その大きな掌で止めた。

「なら、これでどうだ?」

次の瞬間、王子の背中から大きな泥水の腕が百本以上生え、それで一斉に校長に殴りかかった。

「まだまだ!」

校長の背中からも百本以上の大きな泥水の腕が生え、王子の泥水の腕を受け止めたり払ったりした。

バババババババババッ!

巨大な腕同士の殴り合いとしのぎ合い。
同時に、レイピアを突き出す校長と拳で反撃する王子。
今まで見たことがない、ハイレベルな闘い。

「ね、アヤ。校長はあんなに強いのに、何で入学式の日にファニータ相手に苦戦したのかな?」
今の校長の強さからしたら、自称最強のファニータなんて勝負にもならない。
「そりゃ分かるでしょ。相手はファニータだからだよ」
ファニータ? どういうこと?」

入学式の時の校長は、ファニータに超接近戦を挑んで、勝ったけど大火傷を負った。

「ファニータはお子様だからね。ま、実際10歳だし」
「お子様…」
「手加減しないよね、彼女フアニータ。いつでも力任せで、周りにどんな被害が出ても気にしない」
「あ…」
「あの日は周りに学生や先生がいっぱいいたから、校長は相当気を使ってたと思うよ。周りに怪我人や死人を出さないように。あと、ファニータも傷つけないように」
「…大人だね、校長。でも私なんかのためにあんなにムキにならなくても良かったのに」
「わかってないな、ジェニファー」
「わかってない?」
「校長にとっては、生徒がきちんと自己尊厳プライドを持って生きることが何より大切なのよ。時には自分の命以上に」
「プライド…?」
「そう。だからあなたも私なんて言っちゃ駄目よ」
「…」
「ここの生徒たちはみんな、子供の頃から自分を大事にできない経験をいっぱいしてきてるからね」
「え? それってどういう…?」

「あ! 校長、負けないで!」
見ると、校長は王子の拳を首をひねってかろうじて避けたところだった。
すぐにレイピアで反撃する校長。

校長は、生き生きしてる。
そう。今は最大限の力を発揮できてる。でもそれに対抗してる王子もすごい。

校長が闘技場の地下に、3ヶ月かけて作った仮想空間と迷宮の環境。
そうやって万全の態勢を整えて王子を迎え撃った校長。なのに今の二人の闘いは簡単に決着が付かない。

二人は接近戦を続け、大きな拳がぐわんぐわんと音を立ててぶつかりあった。
そして。

「やはり、な」
「そうね」
二人は同時に頷き、闘うのをやめた。
「やめよう」
「やめましょう」

エンリケ王子は静かに言った。
「想像通りだ。やはり我々は実力が伯仲していて、すぐには決着が付かないようだ。それよりジェニファー!」
「は、はぁ?」
急に呼ばれて挙動不審になった私に、王子は言った。
「強い相手と言うのはケンタウルの娘のことじゃない。他にいないのか? 何ならジェニファーが相手でもいいぞ」

王子は仮想空間を抜け出し、第一講義室にいる私達の目の前に姿を現した。
(ジェニファーもこの3ヶ月の間に強くなったろう。久しぶりに私と闘ってみないか?)
スピーカーからではなく、直接心に語りかけてくる王子の声。

私の実力が校長の足元にも及ばないことは自分でもわかってる。なのに王子はなぜか私の実力を高く買っている。
そして、校長が強いことを知っている。闘ったのは初めての筈なのに。

仮想空間から第一講義室にあらわれた校長。
「エンリケ王子。私はあなたがどんな友好的な態度を取ろうと、地球人を虐殺したことを絶対に許しません。あなたは謝り、償うべきなのです」
(またその話か? 殺したらいけない理由が分からない)
「王子!」
(ああ。駄目な理由はわからないが、地球人を殺すのは当分控える。ジェニファーと約束したからな)


「ほう! 役者がお揃いだな!」
第一講義室に現れた男性を見て、私達は腰が抜けるほどびっくりした。

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