終わる世界と、花乙女。

まえ。

文字の大きさ
上 下
2 / 70
第一章 終わる世界

太陽のフアニータ

しおりを挟む
特殊砲艦「歌姫」の薄暗い船内。しんと静まり返っている。
私は両手を前に構えた。
早く仮想空間を構築して、私の「花」を開かなきゃ。

だって。
もうすぐ、がこの船の中に乗り込んでくるから。
「最強」のフアニータが。

花乙女CCF」は「花を持つ少女たちLas chicas con flores」の略。人類の中で私たちだけが「花」と呼ばれる「超」能力を持っている。
フアニータは、その花乙女の中でも最強と呼ばれる、13歳の女の子。
最弱に近い私を仕留めるなら、多分仲間と協力なんてしない。恐らく、彼女が一人で来る。
それこそが、狙い目。
それこそが私の勝機。

コツ、コツ、コツ。
廊下の向こうからかすかに靴音が聞こえてきた。
聞き慣れた、あの靴音。
あれは間違いなく、フアニータ。
いつも自信に満ちあふれている女の子。

恐怖に震える膝を叩いて震えを無理やり止め、私は両手から「仮想空間」を展開した。
イメージは、全ての指先から見えない空間を開く感じ。

「仮想空間」は、通常の三次元世界から半歩ほど外れた、異空間。
異星人のケダモノと、花乙女だけが展開できる異次元の世界。

通常兵器がケダモノに一切通じないのは、この仮想空間内で行動するから。
例えば三次元内だけを移動できるミサイルは、仮想空間内のケダモノに絶対に届かない。
逆にケダモノは、通常空間にいる人間を好きなときにこの空間内に引きずり込める。
だからケダモノは無敵。
だから、人類はケダモノに勝てない。

私たち「花乙女」は、「超」能力で仮想空間を展開してケダモノと同じ世界に入り、「花」の力で彼らを倒すことができる。
だから人類にとって「花乙女」は最後の希望。

なのでこうやって、「花乙女」同士が殺し合うなんて、あっていいことじゃない。
いいことじゃない、けど。
私は、絶対に

通路の曲がり角に、まばゆい金色の光が見えてきた。
あれは、フアニータが放つ光。
太陽のフアニータフアニータ=デル=ソル

彼女が左手に持っているのはヒマワリ。
ヒマワリと言っても本物の花ではなく、花乙女が想像力と創造力で仮想空間内に出現させた、超物理的な力。

フアニータの持つヒマワリは真夏を象徴する、あの花のイメージそのもの。
黄金色きんいろの強烈な光と熱で、相手の視界を奪い、焼き尽くし、蒸発する。
どんな相手でもフアニータに近づけば、まばゆい光と強烈な熱に圧倒され、ひれ伏す。
どんな小細工も通じない。
だから、最強。

「花乙女」を育てる養成機関「学校La escuela」で、私はフアニータと何度も花を使って、模擬戦をした。
けど、彼女とは力の差があり過ぎて、勝つどころか、近付くことさえできなかった。

それを覚えているからこそ、怖くて怖くてたまらない。
心が自然に、下を向くのがわかる。
だめだ。
だめだだめだだめだ。
ここで頑張らなきゃ、私はみんなを守れなくなる。

「出力最大!」
私は目を閉じ、自分が出せる最大の力で両手から花を展開した。
私の体を中心に、冷たい水が吹き出した。
同時に水の下に、底なしの泥土を敷き詰める。
私は、その泥の中に根を伸ばし茎を伸ばし、獲物が私の領域に踏み込んでくるのを待ち構える。

水面に無数の芽と葉と花を出し、そこにまぎれた、私自身が相手を攻撃する。
いや。
あのフアニータを相手に「攻撃」までは望めない。
目標は「フアニータに触れる」とこまで。それで充分。
それなのに。

うあああああああ!
ジュジュン!

フアニータの、太陽そのもののが、私の作った池を一瞬で蒸発させた。

半分以上、私の領域が消えた。
え? ええっ!?
模擬戦の時のフアニータってもしかして、手を抜いてた?

まだフアニータは廊下の曲がり角。
視界にも入ってないのに、なんでこんなに力が強いのよ。
怖い!

ついに、曲がり角からフアニータが現れた。
同時に、金色のまばゆい光と人影が視界いっぱいに溢れる。
どうしよう!
どうしたらいい? 私。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫カフェを異世界で開くことにした

茜カナコ
ファンタジー
猫カフェを異世界で開くことにしたシンジ。猫様達のため、今日も奮闘中です。

HEAD.HUNTER

佐々木鴻
ファンタジー
 科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。  其処で生きる〝ハンター〟の物語。  残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。 ※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。  大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

逃げる以外に道はない

イングリッシュパーラー
ファンタジー
ある夜、偶然通り掛かった児童公園でこの世ならぬものを目にした小夜は、「従者」と呼ばれる異形に命を狙われてしまう。彼女は邪神から人間を守る青年たちと知り合い、やがて絶望的な邪神との戦いに巻き込まれていく。 クトゥルフ神話をベースにした自作乙女ゲームの小説版。TRPGではありません。ホラー味は薄いです。

転生悪役令嬢は、どうやら世界を救うために立ち上がるようです

戸影絵麻
ファンタジー
高校1年生の私、相良葵は、ある日、異世界に転生した。待っていたのは、婚約破棄という厳しい現実。ところが、王宮を追放されかけた私に、世界を救えという極秘任務が与えられ…。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...