上 下
138 / 171

世界喰い

しおりを挟む

カンザキは世界樹の種となる、虹の実を3つほど腰に付けている魔法の袋に詰め込むと自室を出る

そして1階に降りると、閉店したままの店内に出た
いつの間にかシアはどこかに行ったようだった
もしかしたらミナリと飲みにでも出たのかもしれないと、カンザキは考えながら店内を通り抜けて外に出と、そのまま街の外へ向けて歩き出した






さて、カンザキがエイランと飛び出したあとミタニは一度城へと戻って元よりの目的の交流を話し合う
そこにはウルグインの王へと舞い戻っていたアイエテスが居て、面会予定であったキャサリンの姿もあった

それと、エルマと言う女の子が1人居たのだがまるで親子のようだと思った
ミタニは公務の間を縫って、猫さんの店へと舞い戻る
ふと、思ったことがあったのだ

猫さんから聞かされたエイランのことである。
その目的は世界樹の復活だという話だった。ダンジョンのどこかにあるという世界樹を見つけ、苗木を手に入れることがらしいが
そもそもカンザキはずいぶん以前から世界樹と関りがあったという。だからこそ、今回あのAIルーンとも呼ぶべき物を復活させる協力をするのだとか
それにはエイランの大切にしているものを使う必要があるが、それ以上に苗木を求めているらしいー


「ってのはわかったんだけどさ、そもそものその世界樹がなんで枯れた?か、無くなった理由が分かんないとまた失敗するんじゃないのかなー?」

ミタニは店に入るなりそう叫んだ
気持ち良さそうにカウンターの上に設置されたカゴの中で丸まって寝ていた猫さんは耳をピクリとさせて頭を持ち上げて大きく口を開けてあくびした

「確かに世界樹について、ダイダロスにも残された資料があったし、なんなら枝葉は実物がありました。でもですよ、その世界樹が無くなった理由については、全く、一切合切その全てが、文献も口伝もなんもかも無いんですよ!私がお世話になったエルフの村ですら何も知らない。あの寿命が長いエルフですら、ですよぉ」

「よく調べたんにゃぁ」

欠伸をもう一度してから、猫さんは言う

「エイランもその辺の事は考えて対策してるみたいにゃ。本来は神の領域の話だけどにゃ」

「神の、領域?」

「にゃ。しかしここに住まう人である以上、どんな対策をしようと無駄にゃ。だからこそエイランはこの機会が巡ってくるのを待ってたんだろうにゃ」

この機会とは、カンザキが訪ね、頼ってくる機会だろうと猫さんは言う
それはエイランの対策の中で最も重要なポイントなのだから







「お待たせーって、どうした?」

カンザキは再びエルフの廃国にやって来ていた
そこで何故か殴りあっているエイランとアイが居たからだ
口を開いたのはエイラン

「気にしないでいい。ちょっとだけ意見の相違があっただけだ」

「そ、そうか?とりあえず、コレでいいか?」

カンザキが袋から取り出したのは虹色に輝く果実
とてもでないが美味そうには見えない
見る角度で色が変わるどころか、まるで液体のように揺らめくその表皮にエイランの目は奪われる

「それは?」

「世界樹の木の実。随分前に貰ったやつだが、多分大丈夫だろう?」

カンザキの言う事が頭に入ってこない
その後も入手元の話をしているのだが、エイランはその実から微かに匂いがしていることに夢中になっている

「食べなければ……?食べたい…」

思わず口からそんな言葉がこぼれた

「ん?ああ、いいけど硬いぞ?剥こうか?」

「いいや、構わない」

エイランは奪い取るようにカンザキの手から虹の実を奪い取ると

シャリ

噛み付いた

それにカンザキは驚いた。実はカンザキもかじろうとしたが、歯が通らなかったからだ。
その時は剥いて食べたのだが、美味くはなかった

「ちょ、エイラン!?カンザキくん、これどうしたの?!なんでエイランは」

「わ、わかんねえよ!?この皮、めちゃくちゃ硬い筈なんだが…」

ゆっくりと咀嚼するエイランの手元、よく見ればふるふると柔らかそうに震えている虹の実があった
カンザキはカバンからもう1つ取り出すと、握りこぶしにした手でコンコンと叩いて硬さを確かめる

「カンザキくん…なんで君それもう一個持ってるのよ…」

「ああ、3つばかり貰っていたからな」

「貰ったって、誰に?」

「『エミリオ』に貰ったものなんだよ」

「え?誰って……」




風が吹いた
魔力を含んだ強い風だ
カンザキとアイは風の吹いてきた方向を見る

エイランが、土に虹の実から出てきた種を植えていた所だった
そこに、エイランが手をかざして魔力を流し込んで居るようだった

風は色づいて、翠の風となりまるで竜巻のようにうねり上げた

翠の風は優しい森の香りとともに収束していき

そこに、1本の大きな木が生えていた


「嘘でしょ!?成長促進魔法?!そんなの、ただの魔力だったわよあれ!」

アイは叫んだ
それはただの魔力ではない。虹の実を食べたエイランの魔力だ
母が子に乳を与えるが様に、エイランは木に魔力を注いだ


注ぎ終わると、その木はもう10メトル程になっていた
エイランの虚ろだった目に光が戻る

「信じられない…世界樹とは、これ程のものなのか」

既に力強く根付いた世界樹を見上げてエイランは言った

渦巻いていた魔力は全てその世界樹が飲み込んだ
そしてこの場ではエイランだけが分かっていた

これが、世界樹の苗木なのだと理解していた





時を同じくして、ウルグインー

ウルグインはエルフの廃国からわずか、歩いて3時間ほどの距離しか離れていない
ただ、見える距離にはないし、あちらは少しばかり山の上にある

エイランが世界樹を植えた時だった

「にゃ…ん?」

異変を感じ取っていたのは猫さんだけだった

「どうかしましたー?」

ミタニの問いかけに答えることも無く、猫さんは遠くを見つめた

(コレは世界樹?でも変な感じにゃ…何かが決定的に違うにゃ。それに…世界喰いも目覚めたにゃ…どうにゃるのかにゃあ…)







うねうねと動く、白い幼虫があちらこちらの地面よりはい出てくる
目の前に現れた栄養源を食べ尽くさんと這い出てくる

それを予期していたエイランは胸に隠し持っていたルーンを取り出して世界樹の辺りにばら撒く

「こいつが、世界樹を喰った元凶!」

カンザキの動きは早かった
背中に手を回すと、腰にある剣を抜いてその勢いのまま駆け出し振り下ろす

しかし巨大な幼虫は切られた部分がまた一匹として世界樹へ這い向かう

「嘘だろ、死なねえ!?」

エイランの放り投げたルーンは魔法陣を展開し、まるでマシンガンが火を噴くように火炎弾を打ち付けて行く

今ここに現れたその幼虫は5匹、その全てを火炎弾が押しとどめる

カンザキは内心凄いなと思いつつ、腰の袋から魔石を取り出し口に放り込む

ガチンッ

ガギギ…

「さて、くらえフレイムショット」

火魔法が効くのだろうと思い発動させる


ドンドドドドドッ

カンザキの放つ魔法が幼虫2匹に当たり、燃やし始めたように見えた途端に幼虫が悲鳴のようなものをあげた

この世のものとは思えない程の音量で泣き叫んだかと思えば、その声に釣られるように幼虫がモコモコと土から這い出て来る

「おいおい、倒した数より増えたじゃねえか」

エイランのルーンは正直足止めにしかなっていない
それも分かっているのか、エイランは魔法を唱えているようだった
アイは先程から歌声を響かせ始めている

「はあ…『エミリオ』のやつ、こんな事言ってなかったじゃねえか」

エミリオからは、好きなように使ってくれと渡された世界樹の実である
もしかしたら、彼らの食事にもなっていたのかも?と、カンザキはおもっていた
ただカンザキは美味いと感じなかった為に、しまい込んでいたのだが先程のエイランを見る限り、エルフには美味いものなのだろうと思った

「しっかし、キリがねぇぞ」

カンザキも先程から火魔法を放っているし、エイランのルーンもフルバーストしている
だと言うのに、そもそも燃えにくい、切っても無駄で幼虫の耐久能力はカンザキの想定を超えている

キャサリンやミナリとかなら、こう言った多勢相手は得意そうだよなぁと思っていた時だった

キキキン

ガラスの弾ける様な音がした
エイランのルーンが弾けたのだ。それにはやはりというか、限界があった

「マズ、どうする!?」

カンザキが焦ると同時だった
ルーンと言う枷の消えた場所から、幼虫が押し寄せる!
その中の1匹が世界樹の根に噛り付いた


世界樹が危険を感じたのか、赤く輝いて

そこに天使が現れた

「はっはっはー!エミリオ参上!」

そらに浮いているエミリオはぐるりと見回して

「なるほど!世界喰い共がまだこれ程いるのか!」


そう言い放ちながら、両手を広げる
そこから黒い闇が溢れ出て幼虫を全て捕まえて漆黒に引きずり込んだ

「すげ」

カンザキは思わず言った
驚嘆に値する、そんな魔法に思えた

「はっはぁ!これはこいつらを喰うためだけの奇跡だ!それにしてもカンザキ、何を遠慮している?」

空に浮いたままのエミリオはカンザキを見て言った

「遠慮?なんの話だ?」

「先ほどの魔法だよ、君はあれかい、こいつらに同情でもしているのかい?」

エミリオは空をくるりと回ってから

「君は想像力だけで魔法を使うだろう?世界樹がこの世界に根付いた今、魔法力はかつての世界に戻った!であれば、君は自由になれているだろう!あーっはっは!」

そういうとふわりと降りてくる
とはいえ、状況はすでに決着しているのではとカンザキは思った
さきほどのエミリオの魔法で、すべて片付いたと

「さてカンザキ、アレを残しておいた。今一度遊んでくればいい」

そういってエミリオは、先ほど世界樹の根に食いついていた一匹を指さした

「うそだろ・・あの一瞬でこんなことになんのかよ」


この幼虫が世界樹を喰うという意味はどういう意味になるのか
世界樹が無くなった意味というのは

それらはもう終わっている話だったはずだった

だがエイランが望んだ。世界樹を育てることを







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...