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ミナリ見参
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彼女の名前はミナリ
美鳴と書いてミナリ
29歳独身彼氏なし
都立某高校の体育教師である
その日も帰りが遅くなり、いつものように終電間際の電車で帰宅する
高校から自宅のアパートまでは電車で二駅
本来であれば高校まで徒歩五分の物件もあったのだが
近過ぎるのも何だか公私混同になりそうで嫌だったので二駅離れた場所を選んだ
駅からは直線の小高い丘の上にある古アパートで、女性が住むにはちょっと不安になるセキュリティだったがミナリにとっては初めての一人暮らしだった事もあってそんな事は気にしなかったし、胸が高鳴った
彼女は名前の如く、美しかった
初めて彼女を見た人はそう、雷鳴が響き渡るかのように衝撃が襲う
しかしながら話してみるとまるで男と間違うかのようなサバサバとした言葉遣いでそのギャップはとても親しみやすい
彼女をよく知る同僚達はこう言う
「ああ、ミナリさん?綺麗だよねぇ。それに親しみやすいし。付き合う?そんなの死んでも無理だろうなあー」
「え?付き合ったり結婚?いや、無理無理。あんな美人と付き合っうなんて想像しただけでストレスになっちゃうよ」
「あー、ミナリさん。きっと彼氏いるんじゃないの?俺?バカ言わないでくれよ。釣り合うわけないじゃないか。告白したヤツもいたみたいだが、なんか親衛隊にぼこぼこにされたみたいだぜ。」
とまあ、その美しさ故に男性は全くと言って良い程近寄ってこない有様
まあ、当の本人はいつも周りに
「あー好きな人いるからさ。え?昔死んだお兄ちゃんが好き」
と言っていたせいもあるだろうが
既に29歳。
いい加減結婚しなさいと親、親戚周りからはお見合い話が毎月の様に送られて来るようになっていた
「でも私は結婚する気なんてないんだけどねぇ」
アパートへの帰り道にあるコンビニの前で、時季外れのおでんをつつきながら電話で話している
さらりと長い黒髪は、さして手入れはしていないのに色艶は良くしっとりとしている
スタイルもテレビに出ている様なモデルが裸足で逃げ出す程には良い
だがファッションセンスは壊滅的だ
仕事中はもちろん、通勤も全て上下ジャージである
ハイヒールなども持っておらず、スニーカーだ
彼女のクローゼットの中はスーツとジャージしかないと言っても過言ではない。
いや、最近趣味で始めた猟師のまねごとー
雑誌やなんやかんやから取材がきまくっているが全て断っている
「美人すぎる猟師」
と銘打たれた事もあるが、猟師にとあつらえた作業着も増えた
およそ女性らしからぬクローゼットの中がさらにおっさん臭くなってきた。
大学時代だって、九州の農大に行って4年間したサークル活動は「自給自足サークル」しかも部員はミナリ1人であった
やっていたのは農家の手伝いである、もちろん、その容姿に性格は誰にでも気に入られて幾度となく息子の嫁にと誘われたが断っていた
携帯電話のスピーカーから割れるような声が聞こえる
それにミナリはうんざりといった感じで静かに答えていた
「私はさぁ、自分一人の力で死ぬまで生活したいんだ」
『そりゃあんたは昔からー』
「あ、ごめん!うちの生徒がこんな時間にウロチョロしてやがるから注意してくるわ」
そう言って通話をぶちりと切り、携帯をポケットにしまう。無論今どき珍しくなったガラケーだ
コンビニから出てきた女生徒に声を掛けようとする
見覚えがあるー確かーカグラザカ・ユキ
不登校で工事現場で警備員のバイトをしている姿を幾度も見かけられていた少女だ
噂では飲酒していたとの証言もある。かなり問題視されて先日はついに強制退学の話も出ていたー
ミナリは自分と何だか似た雰囲気も感じて、嫌いになれない娘だったから気にかけていた
「ちょっとカグラザカさん!」
そう言ってミナリは彼女の肩に手を伸ばし、触れようとしたその時だった
ぐらりと視界が暗くなる
手に持っていたおでんの器が地面に落ちたのを感じた
◇
眩暈がして、倒れそうになってー
持ち前のバランス感覚でもって、なんとか踏みとどまって前を見ると
そこにカグラザカ・ユキの姿は無く、その代わりに見たことも無い風景が広がっていた
「あ、あれ?」
すうっと深呼吸をする
空気はとても澄んでいた
気温も初春とは思えないほど暖かく快適である
ジャージの上着が若干邪魔かなと思ってしまう
落ち着いてー
辺りを見回すが、やはり覚えがない
頭をポリポリとかいて
「ここ、どこなのよ??」
独り言を言ってみる
先程までは夜だった
だが今はまだ夕暮れ前の明るさがある
まあ、第一に気温が違うわね
今日は確かに暖かかった
もう直ぐ春が来るとわかるほどに
だが、ここまでの暖かさは無かった
ミナリは落ち着いていた。十分なほどに
だが頭からカグラザカ・ユキの事がぽっかりと抜け落ちているくらいにはパニックだ
「さて、どうしようか」
普段は言わない独り言だって言っているのにミナリは気づかない
ほんの少しばかり考え事をしていたら
「お主は誰だ?ヒトか?」
「ひっ!」
思わず声が出た
ぞくりと背中を何かが這うような感覚が流れる
恐る恐る声の方を振り向くとそこには1人の女性が立っていた
赤色のドレスを着ている
見たことも無い程に美しい女性
まるで映画やアニメの中から抜け出てきたような、そんな女性
「問に答えよ。もしくは我が言葉が分からぬのか?」
怪訝な表情を、その人はしている
何かー答えないと。いや、聞きたい事はこちらにもある。ここはどこなのかとか
「ここは南の山脈の中腹になるか、まあ人里などはないよ」
「え?何でわかっー」
「なんだ、喋れるではないか。喋れないかと思い頭の中を直に覗いてしまった。許されよ。グレンの奴に散々言われたのだがついな、癖は治らん」
そう言ってその人は笑う
笑った顔も妙に色気があるのに幼くも感じてしまう
「えっと、」
「ああ、グレンとは我の良い人だ。今は少しばかり長い眠りについておるので我が傍で起きるのを待っているのだ」
んと、寝すぎている?
「ああ、お寝坊さんと言うやつだよ情けないヤツだが、それもまた良い所だ好いておる。ちょうど暇を持て余していたら人影が見えたので声をかけさせて貰ったという所だ」
ミナリはなんとなくだが、この人は悪い人じゃないなと感じとる
それどころか、助けになると直感したのだ
「すみません、宜しければ貴方のお名前を教えて頂けませんか?私の名前はー」
「ミナリか、聞きなれないが良い響きの名前だ。私の名前はエルーいや、エリザと言う」
エリザさんか、何だか名前も雰囲気も外国の人みたいなのに日本語上手だなぁ
「日本語?何だそれは。まあいい、外国の人か。言い得ておるな。たしかに、外の国の者だしな」
「さっきから考えている事が分かるみたいですが、あのー」
「ほぉ、どうやらミナリは異界から来た様だなそれでは困るだろうな、グレンならきっとミナリを助けるだろうか。よし、我がこの国、世界を生きる。生き抜く術を教えてやろう」
そう言ってエリザはミナリの手を取ったのだった
美鳴と書いてミナリ
29歳独身彼氏なし
都立某高校の体育教師である
その日も帰りが遅くなり、いつものように終電間際の電車で帰宅する
高校から自宅のアパートまでは電車で二駅
本来であれば高校まで徒歩五分の物件もあったのだが
近過ぎるのも何だか公私混同になりそうで嫌だったので二駅離れた場所を選んだ
駅からは直線の小高い丘の上にある古アパートで、女性が住むにはちょっと不安になるセキュリティだったがミナリにとっては初めての一人暮らしだった事もあってそんな事は気にしなかったし、胸が高鳴った
彼女は名前の如く、美しかった
初めて彼女を見た人はそう、雷鳴が響き渡るかのように衝撃が襲う
しかしながら話してみるとまるで男と間違うかのようなサバサバとした言葉遣いでそのギャップはとても親しみやすい
彼女をよく知る同僚達はこう言う
「ああ、ミナリさん?綺麗だよねぇ。それに親しみやすいし。付き合う?そんなの死んでも無理だろうなあー」
「え?付き合ったり結婚?いや、無理無理。あんな美人と付き合っうなんて想像しただけでストレスになっちゃうよ」
「あー、ミナリさん。きっと彼氏いるんじゃないの?俺?バカ言わないでくれよ。釣り合うわけないじゃないか。告白したヤツもいたみたいだが、なんか親衛隊にぼこぼこにされたみたいだぜ。」
とまあ、その美しさ故に男性は全くと言って良い程近寄ってこない有様
まあ、当の本人はいつも周りに
「あー好きな人いるからさ。え?昔死んだお兄ちゃんが好き」
と言っていたせいもあるだろうが
既に29歳。
いい加減結婚しなさいと親、親戚周りからはお見合い話が毎月の様に送られて来るようになっていた
「でも私は結婚する気なんてないんだけどねぇ」
アパートへの帰り道にあるコンビニの前で、時季外れのおでんをつつきながら電話で話している
さらりと長い黒髪は、さして手入れはしていないのに色艶は良くしっとりとしている
スタイルもテレビに出ている様なモデルが裸足で逃げ出す程には良い
だがファッションセンスは壊滅的だ
仕事中はもちろん、通勤も全て上下ジャージである
ハイヒールなども持っておらず、スニーカーだ
彼女のクローゼットの中はスーツとジャージしかないと言っても過言ではない。
いや、最近趣味で始めた猟師のまねごとー
雑誌やなんやかんやから取材がきまくっているが全て断っている
「美人すぎる猟師」
と銘打たれた事もあるが、猟師にとあつらえた作業着も増えた
およそ女性らしからぬクローゼットの中がさらにおっさん臭くなってきた。
大学時代だって、九州の農大に行って4年間したサークル活動は「自給自足サークル」しかも部員はミナリ1人であった
やっていたのは農家の手伝いである、もちろん、その容姿に性格は誰にでも気に入られて幾度となく息子の嫁にと誘われたが断っていた
携帯電話のスピーカーから割れるような声が聞こえる
それにミナリはうんざりといった感じで静かに答えていた
「私はさぁ、自分一人の力で死ぬまで生活したいんだ」
『そりゃあんたは昔からー』
「あ、ごめん!うちの生徒がこんな時間にウロチョロしてやがるから注意してくるわ」
そう言って通話をぶちりと切り、携帯をポケットにしまう。無論今どき珍しくなったガラケーだ
コンビニから出てきた女生徒に声を掛けようとする
見覚えがあるー確かーカグラザカ・ユキ
不登校で工事現場で警備員のバイトをしている姿を幾度も見かけられていた少女だ
噂では飲酒していたとの証言もある。かなり問題視されて先日はついに強制退学の話も出ていたー
ミナリは自分と何だか似た雰囲気も感じて、嫌いになれない娘だったから気にかけていた
「ちょっとカグラザカさん!」
そう言ってミナリは彼女の肩に手を伸ばし、触れようとしたその時だった
ぐらりと視界が暗くなる
手に持っていたおでんの器が地面に落ちたのを感じた
◇
眩暈がして、倒れそうになってー
持ち前のバランス感覚でもって、なんとか踏みとどまって前を見ると
そこにカグラザカ・ユキの姿は無く、その代わりに見たことも無い風景が広がっていた
「あ、あれ?」
すうっと深呼吸をする
空気はとても澄んでいた
気温も初春とは思えないほど暖かく快適である
ジャージの上着が若干邪魔かなと思ってしまう
落ち着いてー
辺りを見回すが、やはり覚えがない
頭をポリポリとかいて
「ここ、どこなのよ??」
独り言を言ってみる
先程までは夜だった
だが今はまだ夕暮れ前の明るさがある
まあ、第一に気温が違うわね
今日は確かに暖かかった
もう直ぐ春が来るとわかるほどに
だが、ここまでの暖かさは無かった
ミナリは落ち着いていた。十分なほどに
だが頭からカグラザカ・ユキの事がぽっかりと抜け落ちているくらいにはパニックだ
「さて、どうしようか」
普段は言わない独り言だって言っているのにミナリは気づかない
ほんの少しばかり考え事をしていたら
「お主は誰だ?ヒトか?」
「ひっ!」
思わず声が出た
ぞくりと背中を何かが這うような感覚が流れる
恐る恐る声の方を振り向くとそこには1人の女性が立っていた
赤色のドレスを着ている
見たことも無い程に美しい女性
まるで映画やアニメの中から抜け出てきたような、そんな女性
「問に答えよ。もしくは我が言葉が分からぬのか?」
怪訝な表情を、その人はしている
何かー答えないと。いや、聞きたい事はこちらにもある。ここはどこなのかとか
「ここは南の山脈の中腹になるか、まあ人里などはないよ」
「え?何でわかっー」
「なんだ、喋れるではないか。喋れないかと思い頭の中を直に覗いてしまった。許されよ。グレンの奴に散々言われたのだがついな、癖は治らん」
そう言ってその人は笑う
笑った顔も妙に色気があるのに幼くも感じてしまう
「えっと、」
「ああ、グレンとは我の良い人だ。今は少しばかり長い眠りについておるので我が傍で起きるのを待っているのだ」
んと、寝すぎている?
「ああ、お寝坊さんと言うやつだよ情けないヤツだが、それもまた良い所だ好いておる。ちょうど暇を持て余していたら人影が見えたので声をかけさせて貰ったという所だ」
ミナリはなんとなくだが、この人は悪い人じゃないなと感じとる
それどころか、助けになると直感したのだ
「すみません、宜しければ貴方のお名前を教えて頂けませんか?私の名前はー」
「ミナリか、聞きなれないが良い響きの名前だ。私の名前はエルーいや、エリザと言う」
エリザさんか、何だか名前も雰囲気も外国の人みたいなのに日本語上手だなぁ
「日本語?何だそれは。まあいい、外国の人か。言い得ておるな。たしかに、外の国の者だしな」
「さっきから考えている事が分かるみたいですが、あのー」
「ほぉ、どうやらミナリは異界から来た様だなそれでは困るだろうな、グレンならきっとミナリを助けるだろうか。よし、我がこの国、世界を生きる。生き抜く術を教えてやろう」
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