上 下
8 / 171

袋のネズミ、出口なし、泥沼

しおりを挟む
焼肉ゴッドの二階

元々ワンフロアだったその部屋に壁が出来た

布製の壁である。又はただの仕切りとも言う

昔読んだ本で笛を1週間吹き続けると崩れるジェリコの壁というものがあったが、そうならないことを切に願うー


元々焼肉ゴッドの二階はカンザキの自室がある

主に書物やダンジョンでの発掘品があるだけの無骨な部屋だったのだが、昨日より同居人が増えた

まあその同居人と、部屋を割ったのだ。

カンザキは日本にいた時から女性との接点は多い方ではなかった。
唯一、妹分とも呼べる従兄弟がいたが、彼女とも高校に上がる頃には疎遠になっていたし、カンザキも社会人になれば男ばかりの職場に就職している始末だ。

苦手意識がある訳じゃないんだがな

異世界に来てからは多少、女性との接点が増えてはいたがそれでも隣の店のキャサリンにからかわれる程度でしかない

だから今更、女性と同居するなどカンザキにはどうしたら良いのか本当に分からない。

たとえそれが従業員だとしても
付け加えるなら彼女は王女様である。手を出すイコール死刑の可能性を考えてしまう。

熊の様な執事クナトの、

「粗相の無いようお願いします」

あの一言がまるで鉄の楔が如くカンザキを縛り付けるのだった。




どうしようかと考えあぐねて、もういっその事ダンジョンに仕入れにいこうと思い至った
現実逃避である

そうと決まれば準備だ!

今回は店は臨時休業にしてしまおう。
気がふっと軽くなる。
従業員を雇っていきなり休業も悪い気がするがちょうど昨日肉のストックが切れた。
また大物狙いで行くか。
なにより、彼女と一緒はキツイ。昨夜も寝れた気がしなかったからな

ダンジョンに入ってとりあえず仮眠してから行動しよう、そうしよう。

そんな事を考えながら、準備を続ける。
魔石は多めに持っていくか。
あとは・・気候はいいけど、念のため泊まりを考えて(それが目的)テントを用意
猫印テントセットだ。一通り必要な物をセットにしてある。
そして非常食、現地で調達できなかった時の事を考える


ゴソゴソと用意をしていると声をかけられた

「何をなさっているのですか?」

シアが聞いてきた。
まぁ見たらわかると思うんだけどな。

「ちょっとダンジョンまで仕入れにな。ああ、2日ほど店は閉めるつもりだからすまないが待っていてくれ。部屋と店の中のもの自由につかってもらって構わない」
ウキウキとした感じでカンザキは言った。
シアに話しかけられていることなど気にも留めていない。

「そうですか、じゃあ私も行きますね。準備してきます」
くるりとブロンドをひるがえし、仕切りの向こうに消えた


「ああ、分かった、よろしく頼む」

カンザキは何も思わず準備に夢中で生返事をしてしまう

この時点で断って置けば、まだ救いもあったのに。



それにそもそもカンザキにシアが同行するだなんて発想はない
今まで女性に好かれたこともなければ、誘ったことがないのもカンザキだ。
先日ダンジョンに同行したキトラやシルメリアはまだ子供だと思うし、女性としてみていない面もある、キャサリンが推薦したから同行したという理由もある。
だからこそカンザキにはシアが同行するという考えには及ばない

一方、シアは男性慣れしていると言っていい。
これは今まで王族が故、王女が故、姫が故に様々な男性が言い寄ってくるといったことも少なからずあった
さらに飛竜部隊だと軍事に関わっていたことも大きい。周りに男性がいる環境など、いつものことだったし、そしてダンジョンに付いていくといったことも日常茶飯事だった。
父について80層までいつも一緒に行っていた、実際のところはこっそりと90層にも足を延ばしていた。

転移の魔石を手に入れたことも大きい。父には内緒にしていたのだが。80層付近のボスモンスターを討伐した際に手に入れていた。

これがあることで、一気に楽に潜れる様になったためだ。
無論父も転移の魔石を所持している。しかしこれは先祖代々続く王家にあって、至宝とされ、さらにそれは97層まで行き来できるという物だったが、父は決して実力以上の階層にはいこうとせず、自力で到達した層以上の転移はしないこととしていた。過去、己の実力を過信した者もいたようだが、実力以上の階層に行って死んでしまった者がいたこともあり、きつく禁止されていた。
だがシアが手に入れた魔石は自分が到達した階層以上には行けない、そういったものだったのでこれ幸いと己の実力を試す為に使用した。そして90層まではなんとか、到達したのだった。



カンザキは準備を終えると、一階に下りた。
そこには荷物を持ったシアが待っていた。
ああ、一度帰るのかなと、そう思ったのだが・・・

「それじゃあ、ご一緒致しますね」

まばゆい笑顔でそう言うシア。彼女はカンザキと同行できるのが嬉しくて、楽しみで仕方ない

この人は何階層まで到達しているのか、そしていつも何階層で狩りをしているのか、興味はつきないから

「ああ、じゃあ行こうか」

この馬鹿な男はまだ勘違いをしていた

途中までご一緒しますと聞こえたからだ。
自分の都合のいい言葉しか聞こえなくなっている。

そして店を閉め、ダンジョンへ向かう。
カンザキがその異変に気付いたのはなんとダンジョンの隠し通路手前だった



あれ?
シアがいるな・・・王宮ってこっちだったっけ?ってんなわけないわ!
ちょっとまて、そういえばシアは何と言っていたか?

冷静に思い出す

「そうですか、じゃあ私も行きますね。準備してきます」

「それじゃあ、ご一緒致しますね」

と、言っていたのではないだろうか?
そしてそれは、ダンジョンの仕入れに同行する、ということで・・・

背中がぞくりとした。脂汗は止まらない。
やべぇ、手が汗でにじんできやがった。

選択肢1

俺「あれ何でここにいるの?」
シア「話を聞いていいらっしゃらなかったのですか?ご一緒すると申し上げたではありませんか!」

うーん。言い負ける気がする。

選択肢2

俺「すまない、やっぱり危険だ!連れていくわけにはいかん」
シア「私を騙したのですか?」

あ、これもう無理だ。無理ゲー

でもものは試しで聞いてみる
聞くだけはタダだからな!



「なあシア、危険だぞ?」

あああ違う!・・・しまった、ダメだ、これ行く前提のセリフじゃないか?

「はい、大丈夫です。私自身SSSクラスの冒険者ですし、大体のモンスターならば遅れは取りません。王族は、ウル・グインの一族は遺伝的に強いのです」

そう言われてしまった

ソウデスヨネー噂で王族は強いと聞いたことありましたー!

カンザキにはもはや逃げ場はない。
彼は今いっぱいいっぱいで、まだ思い至ってはいないが、これから行く先では1泊しなければならない階層

それはつまり一つしかないテントを使う必要がある。 

さらにカンザキは寝不足であるから、寝ないと死に関わる為に寝ないと言う選択肢はないのだ

それら全てを、直感してカンザキは冷や汗いっぱいになっているのであった







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...