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番外編 5
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私からの小さな口づけは、そのまま奪われるように深い口づけになった。
ガレスの大きな舌が、口腔内を我が物で動き回り、私の舌を絡め取っては啜る。逃さないと後頭部を押さえられ、息苦しいのに、与えられる感覚に私は陶然となった。
「・・・っ、・・っあ、・・・んんっ・・・」
抑えられない喘ぎが口の端から漏れると、ガレスの手がいまだに夜着の私の体の上を這い回り始めた。背筋をすっと撫で下ろされ、体が大きく震え、反動で外れた二人の舌と舌の間に、一瞬、透明に光る筋が繋がって消えた。
「ココ様、・・・このまま貴女を、」
「ガレス・・・」
ぐぅ~~~~~~~~~!
「「・・・・・・」」
お腹の音が。私から。
「ぷぷっ」
呆然と顔を赤らめる私にガレスがこらえきれず吹き出した。
「お昼にしましょう」
「う、うん・・・」
ガレスの瞳からは激情が去り、幼い子供を見るように優しく細められた。
言い訳させてもらえるなら、今朝は食欲がなくて飲み物しか口にしていない。そうだ、昨夜もあまり食べれなかった。
人の心と体は密接に繋がっていて、ガレスが私を抱かなかった理由に納得した途端、食欲が猛烈に湧いてしまったのだ。こんな時に。
「さぁ、つかまって」
抱き上げて食堂まで運んでくれるガレスに何度も言おうとしたが、止めた。恥の上塗りになりそうだ。
「まぁ、まぁ、お嬢様!どうなさいました!?」
階下に降りると、いつも午後から家事を手伝いに来てくれてるジーナさんがいて、声を掛けられた。夜着のままで、ガレスの抱っこで移動する私を見て具合が悪いと思ったらしい。
「症状はどんななんです?今すぐ医者を呼んでまいります!」
「い、いえ、大丈夫なの」
「食欲が出てきたからもう大丈夫そうだ。夜は俺がノッシーのシチューを作るよ」
「あら、そうですか。・・・ノッシー?」
ジーナさんもノッシーを知らないらしい。
「ああ、魔獣でね。ここらにはいないんだが、ココ様に精をつけてもらいたくて少し足を延ばして狩って来たんだ」
「・・・精を?」
あらま、と目をキラリとさせ、ジーナさんが私たちを見た。これはなんかやらしい誤解されたヤツだ。コレットならこの後、むふ、と変な笑い方をするヤツだ。
誤解だ、と言いたい。まだ致してません、と。
ガレスは私を食堂の椅子に下ろし、いい子いい子と頭を撫でた後、ノッシーの説明をしながら隣のキッチンにジーナさんと入っていく。血抜きをしたノッシーの肉をおすそ分けしたいようだ。扱い方は牛のスジ肉の要領で、とかなんとか聞こえる。
どうして私はこうも決まらないのか。壁際に置かれたワゴンからカトラリーを出して並べながら、鳴らしてる場合ではないのよ?と自分のお腹を睨むと、またぐぅ、と鳴った。
昼食はガレスが作った卵のサンドイッチを頂き、その後は、今さらだが身なりを整え、ガレスと湖畔を散歩することにした。
整えられた散歩道を手をつないで歩く。
木漏れ日が降り注ぐが、湖からの風で暑さを感じず、心地いい。
「ねえガレス、ノッシーはどの辺りにいるの?」
「山の奥深くですよ」
「この山の?私、魔獣って見たことない。本当にいるの?」
「この国には神官たちが結界を張っているんです。魔獣は結界の中に入れませんからね、見たことのない人がほとんどでしょう」
結界が張られているという話は本当だったのか・・・。学生の時、そんな噂がまことしやかに流れたことがあった。結局真偽を確かめる術はなく、なんとなく立ち消えていったが。
太古、人も獣も魔力を持っていたと言われるのも本当のことだったのかしら。
「ん?ならガレスは国外でノッシーを捕まえたの?」
「・・・ココ様、声が大きいですよ」
しーっ、と指を口に当てる。
確かに手続きもなしに国外に出るとか、それはなんていうか、・・・違法だね、うん。
「ん?でも帰って来るの早かったよね」
「実は大王イカを倒した褒美の一つに、一度行った場所なら瞬時に再訪できるという珍しい魔道具を頂いたんです」
「魔道具!?」
思わず大声を出してしまい、またもガレスにしーっ、とされる。
「おとぎ話の中の話みたいね」
獣人だったり、勇者だったり、魔獣に結界に魔道具。
子供の頃憧れた世界にガレスはいた。
「俺も自分の頭に生えた耳を鏡で見た時そう思いましたよ」
「・・・・・」
穏やかに微笑み、きらめく湖面に目をやるガレスを遠く感じてしまった。
さっきまでワクワクして聞いていた話が、嫌なものに感じる。
どこにも行かないで欲しい。
ずっと私の側にいて欲しい。
繋いだ手を握り直すと、ガレスも優しく力を込めてくれた。
今夜。
今夜。
私は一つの決心をした。
お夕飯にガレス特製のノッシーの煮込み料理が出た。
長時間煮込まれ、その後デミグラスソースで野菜と共に煮込まれたそれはクセがなく、肉自体にほのかに甘みがあり、とても美味しかった。
夕食後のことを考えて緊張で上の空の私だったが、何度も美味しいと口にし、スープ皿いっぱいに盛られたそれを見事完食したのだった。
ガレスの大きな舌が、口腔内を我が物で動き回り、私の舌を絡め取っては啜る。逃さないと後頭部を押さえられ、息苦しいのに、与えられる感覚に私は陶然となった。
「・・・っ、・・っあ、・・・んんっ・・・」
抑えられない喘ぎが口の端から漏れると、ガレスの手がいまだに夜着の私の体の上を這い回り始めた。背筋をすっと撫で下ろされ、体が大きく震え、反動で外れた二人の舌と舌の間に、一瞬、透明に光る筋が繋がって消えた。
「ココ様、・・・このまま貴女を、」
「ガレス・・・」
ぐぅ~~~~~~~~~!
「「・・・・・・」」
お腹の音が。私から。
「ぷぷっ」
呆然と顔を赤らめる私にガレスがこらえきれず吹き出した。
「お昼にしましょう」
「う、うん・・・」
ガレスの瞳からは激情が去り、幼い子供を見るように優しく細められた。
言い訳させてもらえるなら、今朝は食欲がなくて飲み物しか口にしていない。そうだ、昨夜もあまり食べれなかった。
人の心と体は密接に繋がっていて、ガレスが私を抱かなかった理由に納得した途端、食欲が猛烈に湧いてしまったのだ。こんな時に。
「さぁ、つかまって」
抱き上げて食堂まで運んでくれるガレスに何度も言おうとしたが、止めた。恥の上塗りになりそうだ。
「まぁ、まぁ、お嬢様!どうなさいました!?」
階下に降りると、いつも午後から家事を手伝いに来てくれてるジーナさんがいて、声を掛けられた。夜着のままで、ガレスの抱っこで移動する私を見て具合が悪いと思ったらしい。
「症状はどんななんです?今すぐ医者を呼んでまいります!」
「い、いえ、大丈夫なの」
「食欲が出てきたからもう大丈夫そうだ。夜は俺がノッシーのシチューを作るよ」
「あら、そうですか。・・・ノッシー?」
ジーナさんもノッシーを知らないらしい。
「ああ、魔獣でね。ここらにはいないんだが、ココ様に精をつけてもらいたくて少し足を延ばして狩って来たんだ」
「・・・精を?」
あらま、と目をキラリとさせ、ジーナさんが私たちを見た。これはなんかやらしい誤解されたヤツだ。コレットならこの後、むふ、と変な笑い方をするヤツだ。
誤解だ、と言いたい。まだ致してません、と。
ガレスは私を食堂の椅子に下ろし、いい子いい子と頭を撫でた後、ノッシーの説明をしながら隣のキッチンにジーナさんと入っていく。血抜きをしたノッシーの肉をおすそ分けしたいようだ。扱い方は牛のスジ肉の要領で、とかなんとか聞こえる。
どうして私はこうも決まらないのか。壁際に置かれたワゴンからカトラリーを出して並べながら、鳴らしてる場合ではないのよ?と自分のお腹を睨むと、またぐぅ、と鳴った。
昼食はガレスが作った卵のサンドイッチを頂き、その後は、今さらだが身なりを整え、ガレスと湖畔を散歩することにした。
整えられた散歩道を手をつないで歩く。
木漏れ日が降り注ぐが、湖からの風で暑さを感じず、心地いい。
「ねえガレス、ノッシーはどの辺りにいるの?」
「山の奥深くですよ」
「この山の?私、魔獣って見たことない。本当にいるの?」
「この国には神官たちが結界を張っているんです。魔獣は結界の中に入れませんからね、見たことのない人がほとんどでしょう」
結界が張られているという話は本当だったのか・・・。学生の時、そんな噂がまことしやかに流れたことがあった。結局真偽を確かめる術はなく、なんとなく立ち消えていったが。
太古、人も獣も魔力を持っていたと言われるのも本当のことだったのかしら。
「ん?ならガレスは国外でノッシーを捕まえたの?」
「・・・ココ様、声が大きいですよ」
しーっ、と指を口に当てる。
確かに手続きもなしに国外に出るとか、それはなんていうか、・・・違法だね、うん。
「ん?でも帰って来るの早かったよね」
「実は大王イカを倒した褒美の一つに、一度行った場所なら瞬時に再訪できるという珍しい魔道具を頂いたんです」
「魔道具!?」
思わず大声を出してしまい、またもガレスにしーっ、とされる。
「おとぎ話の中の話みたいね」
獣人だったり、勇者だったり、魔獣に結界に魔道具。
子供の頃憧れた世界にガレスはいた。
「俺も自分の頭に生えた耳を鏡で見た時そう思いましたよ」
「・・・・・」
穏やかに微笑み、きらめく湖面に目をやるガレスを遠く感じてしまった。
さっきまでワクワクして聞いていた話が、嫌なものに感じる。
どこにも行かないで欲しい。
ずっと私の側にいて欲しい。
繋いだ手を握り直すと、ガレスも優しく力を込めてくれた。
今夜。
今夜。
私は一つの決心をした。
お夕飯にガレス特製のノッシーの煮込み料理が出た。
長時間煮込まれ、その後デミグラスソースで野菜と共に煮込まれたそれはクセがなく、肉自体にほのかに甘みがあり、とても美味しかった。
夕食後のことを考えて緊張で上の空の私だったが、何度も美味しいと口にし、スープ皿いっぱいに盛られたそれを見事完食したのだった。
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