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ルルーシュ・ラダナトス

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フェアパーの世界観は独特だ。
ゲーム名に「精霊」の名のつく通り、この世界は精霊と人間が共存している。
太古の昔、神様が世界の運営を放棄して、自身の分身である精霊に世界の運営に必要な役割を一つ一つ与え、世界が回るようにした。
そんな精霊と人間はいつしか交わり、人間が精霊の力の源である【マナ】を体内で生成するようになった。
精霊はいつしか無数に増え、人間はマナを使い精霊に力を分けてもらうことで魔法を使えるようになった。それは、神の力の一片であり、【奇跡】でもあった。
そんな奇跡だらけの世界では【バグ】が発生する。
その【バグ】の一つが、【精霊憑き】だ。
力が不安定な中級レベルの精霊が、マナそのものの質や大きな感情が生み出したマナの波動に惹かれ、安定を得るためにその人のマナと融合し、その人本人と一体化すること。
精霊と人間の【契約】でもなく、マナを介した【貸し借り】でもなく、精霊との【同期】は、精霊が人間になる、もしくは人間が精霊になることそのものであり、不安定だった中級レベルの精霊の力を一気に押し上げ、【契約】が可能な上級精霊を遥かに凌ぐ強力な力を得る。
その力は、かつて一国を滅ぼしたり、魔王となって世界を制圧したりなんだりした、とても危険な存在である。
だがしかし、それは精霊憑きの暴走の結果であり、逆に言えばしっかりコントロールさえできて仕舞えば、剣にも盾にもなる協力な魔法使いなのである。
フェアパーは、そんな精霊憑きたちが保護されている【真珠塔】を舞台にした物語だ。

話は長くなったが、つまり。
その【真珠塔】に入ったルルーシュももちろん精霊憑きなのだ。
で、ピィはその融合した精霊だと。
そういえばなんかお助けキャラみたいなポジで茶髪ショタの精霊がいたなぁ。ピィの姿なんて一度も見たことないけど。
あれ?本当に私ルルーシュか?

『茶髪?あぁ、トラバのことかしら。あいつじゃあんたの魂を入れるのに力不足だったから退いてもらったわよ。今頃ルルーシュの精神を探して回ってるんじゃないかしら?随分とルルーシュに執着していたみたいだし』

なんてこった。
しかも聞き捨てならない言葉がきこえたぞ?
ルルーシュの精神?
『そ。ま、あたしってば天才だから?あんたの魂とルルーシュの魂を共存させることくらい朝飯前なのよねー♪ってことでそろそろルルーシュを起こすわよ?あ、体の主導権はあんただけど、これから同じ肉体で過ごすんだから、女三人、仲良くしましょうね!』

どういうことだってばよ。

『ん、え、あれ?これはどういう……?』

突然、頭の中で私だけど私じゃない声がした。
もしかして、ルルーシュさん……?

『え、はい。あれ?え?なに?どういうこと?わたし?だけどわたしじゃない?だれ?なに?あとどこ?』

大変混乱されていらっしゃる。わかる。とてもわかる。突然自分の体になんかよくわからない思念が二つも入ってたらびっくりするよな。しかもピィ曰く主導権は私にあるらしいし、自分の体が自力で動かせないってどんな状態なんだ。

『おはよう、ルルーシュ?戸惑うかもだけど、落ち着いて?あたしは光の精霊、ピィ。死にかけだったあんたを助けてあげたわ。でも、あんたを助けるの、結構難しくてね?それでできた副産物が、あんたの体を制御してるそいつ。ルーって呼んでやって』

ピィの声が響く。私、副産物だったんだ……

『え、えと、それってつまり、ピィ様が憑くことで、わたしを助けてくれて、その代わりにルー、さんが私の体を操ることになったってことですか?』

『ええ、そうよ!ルルーシュ、貴女、生きたいって願ったでしょう?ルーはね、自分が死んだことにも気づかず、あんたを助けたいっていったの。ふふ、変でしょ?』

『え……?ルー様は、お亡くなりになられたのですか?』

そうだね。そういうことになるね。まだ全く実感がないけどね。

『……わかりました。お二人とも、ありがとうございます。生きていることに感謝を。……ピィ様。この身体が傷一つなく痛みを感じないのは、ピィ様のおかげですか?』

『ええ、そうよ。あたしは光の精霊だもの。それも、とびきりのね』

そういって、ピィはふふんと笑った。
よくわからないけれど、私はルルーシュみたいに、すぐにわかりましたなんて言えるほど理解できないけれど、でも、頬を撫でる風が、先程ジュリさんに撫でられた頭の感触が、脳内で響く2人の声が、この世界が現実であると、認識せざるを得なくさせていた。


ピィとルルーシュと脳内会議を繰り広げ、どうしてルルーシュがこんなところにいるのかを考えていたところ、ジュリさんが部屋を訪れた。

「ルー、ご飯ができたよ。もってこようかい?」

「あ、いえ。もう動けますから、自分で運びます」

脳内会議は寝ながらでもできたし、ルルーシュの話曰く、傷だらけで骨折だらけだった体はピィが魔法で全て治してしまったらしい。ジュリさんがそれを知ってるかどうかはわからないけど、私は一刻も早くこの体を動かさないと今後うまく動けない気がした。

「おや、もう動けるのかい?……ってそうだったな。じゃ、こっちへおいで」

ジュリさんの後をついていく。ジュリさん曰く、ここは孤児院らしい。さっきまで横になっていたベットも小さめだったし、私を興味深そうにドアの隙間から見つめてくる子たちはみんな随分と小さい。といっても、ルルーシュの体も、由美の体と比べれば随分と小柄なんだけれど。
ところでルルーシュは今何歳なんだ?

『15です』

なるほど一つ下。……にしては胸がでかいなぁ。さすがヒロイン。
一本道の廊下を突っ切って、奥の扉を抜けると、天井の高い、長い机がある部屋に着いた。気がつくと私の後ろに子供たちがたくさん着いてきていたようで、子供たちは部屋に入るとわぁーっとそれぞれの席についた。

「はは、ルーの席はここだな。アミ、ララ、このお姉さんがそこに座ってもいいかい?」

「「いいよ!」」

ジュリさんは一番ジュリさんに近い椅子を引いて、その隣と正面に座る少女たちに声をかけた。満面の笑みで答える2人が、めっちゃくちゃに可愛い。

「ありがとう、アミちゃん、ララちゃん」

「ねえねえ、お姉ちゃんの名前は?」

「ルーだよ」

「ルーお姉ちゃんね!」

「ルーお姉ちゃんはジュリ先生のスープは初めて?」

「うん。さっき目が覚めたばかりだから。美味しいの?」

「美味しいよ!とびっきり!」

きゃらきゃらと笑う2人は、本当に可愛くて、それを穏やかに見つめるジュリさんがえげつなく美人で、私は心の中でひたすら「尊い……」と唱え続けていた。頭の中でルルーシュが疑問符を浮かべていたがすぐにその意味を理解したらしく『わかります……わかります……』と呟いていた。
もちろん、その後に出てきたジュリさんお手製というスープもコクがあって、まあ日本人として舌のこえている私にはちょっと物足りないものがあったけれど、美味しかった。
脳内のルルーシュは感激してたしあんまり感動しない私に対して信じられないとか言ってきた。
なんか早いけど私もルルーシュも慣れてきたなこの状況に。人間慣れって大事。
全て食べ終わって、せっかくだから子供たちの器やらなんやらをジュリと共に洗うことにした。

「ありがとな、ルー。しかし、本当に大丈夫なのか?ルーが精霊に憑かれたのはここに運び込まれてからだ。まだ安定してなかったりするんじゃないのか?痛いところとかはないか?」

お皿を洗いながらジュリさんが心配そうに尋ねてくる。

「ありがとうございます。でも、大丈夫みたいです。精霊さん曰く、自分は優秀だから全く問題ない、だそうで」

「はっはっは、そりゃ強気な精霊さんだな。運び込まれた時はここで看取るのかと思ったけど、案外平気そうだな。よかったよかった」

頭の中でピィがプンスコしているがまぁ置いといて、私はジュリさんにありがとうございます、と返した。
そんな私に、ジュリさんは突然、気まずそうに声をかけた。

「なぁ、ルー。起き抜けのさっきはどこからきたか、どうして倒れていたか、わからないっていってたけど……思い出したか?」

ああ。そういえば、ルルーシュが目覚めたのはジュリさんがくる以前だった。
その後の脳内会議で、ルルーシュが孤児院に来た経緯を教えてもらったのだ。

「あぁ、はい。思い出せました。すみません、ご心配をおかけしました」

「ああいや。そっか。それならいいんだ。……それじゃあ、ジルに会ってくれるか?」

頭の中で、ルルーシュが会いに行けと騒ぐ。もちろんだ。

「はい。是非、行かせてください。助けさせて、ください」

ルルーシュの叫びが、私の口を動かした。

お皿を片付けた後、私はジュリさんに連れられ、元いた部屋と別の部屋にやってきた。
そこには、所々割れた眼鏡がずれたままかかっており、その破片が顔に刺さっているところもあり、血だらけで、顔の至るところが膿み、口から血や、その他吐瀉物と思われる何かが溢れた、見るも無残な青年が横たわっていた。その姿を見たら、ルルーシュは泣き始めた。体からも、涙が出そうになる。

「ルーをここに連れてきたのはこの坊ちゃんだよ。倒れたルーを守りながら、警察を探していたんだと」

ジュリさんは私がジルに触れないように手で押さえながら、話始めた。

「別部屋に移動させたら、ルーにもジルにも精霊がついた。精霊が憑くとこなんざ初めてみたさ。だけど、ルーは目に見えて回復したけど、ジルは起きやしない。……どうにか、なりそうか?」

どうにかなるとかならないとかじゃない。
どうにかしなければならない。
私は泣き叫ぶルルーシュの声と、脳内会議で聞いたルルーシュの状況と、ジュリさんの話と、フェアパーのプロローグ、すべてを思い、左手の甲に棲むピィに願った。

(ねぇ、ピィ。ジルを救おう?私たちならできるでしょう?彼は必要。絶対。ね、ルルーシュ)

『……はぁ。あんたも物好きね。別にあたしに頼まなくてもあんたは力を使えるわよ。でも、ま、お願いされて悪い気はしないし?ちゃっちゃと本気出すわよ』

ピィがそう言ったかと思えば、私の左手から熱を感じた。甲に埋まったピンク色の石が光り始める。柔らかなピンク色の光が当たりを埋め、青年の体を包んだ。

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