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薔薇王子の婚約者

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王子は匂いに過敏に反応する質タチなのだという。
その中でも特に体臭や人から放たれる匂いに対しては顕著で、場合によっては嘔吐や卒倒してしまう程であるらしい。

「僕はこの体質を呪ったよ。相手にも気を遣わせてしまうからね。元々社交的な性格ではなかったけれど、症状が出るようになってからは益々人を遠ざけるようになってしまった」

それでも避けられない事もある。
そのひとつが婚約者であるエカテリーナとの月に一度の会談デートだ。
エカテリーナは毎回精一杯着飾って現れる。
その日も、レースとリボンをふんだんにあしらったピンクのドレスで現れた。
頬を染めてはにかむ少女を少し離れた場所から見つめながら、王子は微笑む。
お人形のように可愛いこの少女を王子は好ましく思っていた。
将来夫婦になる事に異存はなく、楽しみでさえあったのだ。

バラ園の真ん中にあるテラスでテーブルに向かい合って座り、二人でとりとめのない話をする。
まだ幼さの残るエカテリーナの話は微笑ましい。
王立学園での出来事やら飼っている兎が如何に可愛いかなどを木琴のように軽やかに奏でる。
王子はその演奏を楽しんだ。
しかし、それはその最中に起こった。

「その日、テーブルに並んでいたのはスイートポテトと栗のモンブラン、パンプキンパイにずんだ餅」

イブリンはゴクリと喉を鳴らした。
まさか…

「彼女を責めることはできない。緊張もしていたのだろう、僕も配慮すべきだった」

空気が抜けるような音が聞こえた後、そよ風に乗って、王子の鼻先がその匂いをキャッチした。
王子は取り繕うことも出来ずに鼻と口を押さえる。
しかし、防ぎきれず、仰向けに椅子ごと倒れた。
駆け寄るエカテリーナだったが、吹きかかる口臭が更に追い打ちをかけた。

「そして僕は気絶した」

イブリンは唖然とした。
王子はその時のことを思い出しているのか、苦悩の表情を浮かべている。

「僕は許せなかったんだ」
「エカテリーナ様のお…粗相をですか?」
「違う!!」

王子は目を潤ませ声を荒らげた。

「可憐なエカテリーナを、たかが臭いで厭んでしまった自分がだ!!」

イブリンは瞬く。

「可哀想なエカテリーナ!僕の婚約者となってしまったばっかりに、不幸な夫婦生活が約束されてしまった!」
「…それで、エカテリーナ様に薔薇人間になって頂こうと考えたのですね」

王子は顔を覆う。
イブリンは王子の背中にそっと手を置いた。

「なんとお優しいお心でしょう。殿下にそんなに思われてエカテリーナ様はお幸せですわ」
「僕の体質に付き合わせるだけだよ!僕の我儘なんだ!!」
「いいえ。それに私、思うのです。殿下の研究は殿下と同じく臭いに過敏な人々、体臭に悩む人達にとっての希望です。薔薇の雫は多くの国民を救うでしょう」

王子はガバッと顔を上げた。
その青い瞳は濡れて輝いている。

「あと三ヶ月もあるではないですか、諦めずに完成させましょう!」

王子は歓喜に震えながらも力強く頷いた。
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