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ポッコチーヌ様のお世話係

側近様の誘惑①

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 馬車に数時間揺られ、たどり着いたのは素朴な宿屋だった。
 ゲルダは通された部屋を見回しながら、背後のマクシミリアンに問う。

「団長、本当にここでよろしかったんですか? もっと高級なところもあったでしょうに」

 マクシミリアンは少ない荷物を床に置きつつ訊き返した。

「なんだ? 不満なのか?」
「と、とんでもない、私にとっては充分すぎるほどですが、団長は……」

 つかつかとベッドに歩み寄り、マクシミリアンはその真新しいシーツを撫でる。

「ベッドは清潔、掃除は行き届いている。窓の外の景色も良い。……壁もしっかりしている」

 マロンクリーム色の塗り壁をコンコンと叩きながら、マクシミリアンは満足げに頷く。この先予約している宿も庶民向けのものだと聞き、ゲルダは戸惑いながらも窓辺に寄る。緑が生い茂る山の斜面を夕日が橙に染めている。その壮大な景色に見入りながら、ゲルダは窓に映ったマクシミリアンの姿を見つけ、慌てて振り返る。

「団長、上着は私が……」

 マクシミリアンは脱いだ騎士服を腕にかけ、こちらを見た。そして上着をベッドの上に放るとこちらへ近づいてくる。

「すいません、副団長。気が利きませんでした。先に上着を脱いでしまって申し訳ございません」

 ゲルダは予想外の言葉に跳び上がった後、後退る。

「お預り致しましょう。上着にブラシをかけさせていただきます。ついでに着衣はすべて洗濯に出してしまいましょう」
「い、いやいや、結構です。自分でやるし、洗濯したって明日まで乾かないでしょう」
「乾いてから出発すればよいでしょう。どうせ急がぬ旅です」

 追い詰められ、窓に背中をつけたゲルダに、夕日を浴びてセピア色に染まったマクシミリアンが妖艶にほほ笑んだ。

「陛下からは、ゆっくりと楽しんでくるようにとのお言葉をいただいています。王都に帰れば慌ただしい日々が待っていることは確実ですので。今のうちにじっくりと親交を深めましょう、副団長」

 わざと丁寧な言葉づかいで、役職名で呼ぶマクシミリアンが、ゲルダにぐっと顔を寄せる。身体中から滲み出す濃厚な色気を隠そうともしない。そうやってグイグイと迫る男から視線を逸らせず、ゲルダはごくりと唾を呑みこんだ。

 誰これ、あの初心で可愛らしい私の団長はいずこへ……いや、充分すぎるほど素質はあったが……

 マクシミリアンは自らの襟元に手をかけ、スタンドカラーのシャツにかかるボタンを外していく。

 あれ? 脱がすんじゃなくて自分から脱ぐのかい。やだ、勘違いしちゃったじゃない。恥ずかしい……

「それでも、俺の世話を焼きたいと言うなら……」

 マクシミリアンは、頬を染め俯きかけるゲルダの手首を掴み、自らの胸元へ突っ込んだ。
 思いもがけぬ行動に狼狽えるゲルダへ熱い吐息を吹きかけ、マクシミリアンは囁く。

「お好きなように」
「うへえあうあ???」
「脱がせたいというならどうぞ。俺は貴女のものです」
「な、なに、なにいってる……」

 マクシミリアンは夕日に染まる瞳を蕩けさせ、更に深くゲルダの手を誘導する。掌に柔らかな突起を感じ、ゲルダはびくりと身体を揺らした。

「触って、ゲルダ」

 欲に掠れた声で強請られ、ゲルダは震えた。
 そして、改めて悟るのである。

 ……この人には敵わない。一生。

 自由になり、有り余る魅力と欲望を解放することを己に許したマクシミリアン。
 ……これは危険過ぎる。
 こんなの放っておけるわけがない。
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