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ポッコチーヌ様のお世話係
目指せ!ポッコチーヌ①
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「ゲルダを俺と共有しようぜ」
朝食と共に現れたニコライに、開口一番、その提案をされたマクシミリアンは首を傾げた。
「どういう事だ?ゲルダがお前の側近も兼ねるということか?」
「まあ、そういうことになるな」
「別に良いだろう。実際、俺の補佐がお前である訳だから、ゲルダの業務内容にさほど影響があるとは思えないが」
「添い寝は一日交代で良いな」
ゲルダは無言で、テーブルに朝食の乗ったトレイを置く。そっとマクシミリアンを窺えば、眉を寄せてニコライに視線を向けていた。
「お前も不眠症だったのか」
「別に。ゲルダと寝たいだけだが?お前だけ狡いだろ」
「ゲルダは抱き枕じゃないぞ。女と寝たいのなら、幾らでも当てがあるだろう」
「ゲルダが良いんだよ」
マクシミリアンはどう返事をするべきか迷っているようだった。縋るように視線を向けられ、ゲルダは困り果てる。ニコライと添い寝などしたくはない。それは完全なる職務範囲外労働である。
「ゲルダは……」
「勿論、嫌です」
「では、却下する」
ニコライは口を尖らせた。しかし、めげずにマクシミリアンを挑発する。
「それとお前、ゲルダにキスを強要したらしいな」
「強要はしてない」
「まあ、たかがオデコへのキスだというから、子供をあやすみたいなもんか。たいした意味はもたないな。ちなみに俺はゲルダの手首に口付けた。ついさっきな!」
「手?顔の方が近いし、俺はゲルダからされたんだぞ」
ゲルダは大の男二人が口付けについて競い合う様子を、呆れて傍観していた。
遊んでんのか?真面目に付き合う必要ないよなぁ。
ニコライはフンッと鼻を鳴らすと、得意気に胸を反らす。
「馬鹿だなぁ、マクシミリアンは。手首へのキスはな、親愛より強い求愛、独占だ。つまり、俺はゲルダに好きだと伝えたんだ」
マクシミリアンは息を呑み、再びゲルダに顔を向け、探るような視線を送る。
「そうなのか?!」
「私は本気と捉えておりません。副団長のお巫山戯でしょう」
「俺は本気だ。少なくとも今現在、最も気になっている女性だからな」
マクシミリアンは膝の上で両拳を握り、ふるふると震えた。
「俺だって……」
「お前はゲルダに母親を投影しているだけだ。恋愛対象として見ている訳じゃない。世話役は譲っても良いが、行き過ぎた行為は今後静観出来ない。おおいに抗議させてもらう」
「副団長、それは……」
あまりに一方的な主張に、ゲルダは思わず声を上げる。しかし、ニコライは止めるどころか更に追い打ちをかけた。
「それに、お前のチンコポリンヌではゲルダを満足させられない」
「ちょっ……!あんた、何言ってんですか?!」
恐る恐るマクシミリアンを見れば、顔面蒼白で唇を噛んでいる。ゲルダは血の気が引き、直後、激しい怒りが込み上げた。
「副団長、いくらなんでも許せません。団長を傷付けるような言動は即刻止めてください」
「でも、真実だ」
「はっきり言っておきますが、私は騎士、単なる貴方がたの部下です。それでも、お二人のお役に立ちたいという気持ちからこうやって騎士としては甚だ逸脱した要求も受け入れている。出来ることはやろうと思って真摯に取り組んで参りました」
ゲルダはニコライを睨む。これほどの憤りに支配されるのは久しぶりだ。ずっと押し込めてきた感情だから。
「副団長はそれを全部台無しにするおつもりですか?あんた、いったい何がしたいんです?」
「俺?俺は自分が好きなようにやりたいだけだよ。マクシミリアンが過去のトラウマから解放されて、楽になれれば良いと思うけど、ゲルダも欲しい」
「私は団長の安定を望んでいます。そんでもって、副団長はどうでも良いです!」
「はっきり言うなぁ……でも、俄然やる気が湧いてきた。多少手強い方が燃えるよな」
飄々とした態度を崩さないニコライに、ゲルダは言葉を失う。この男には何を言っても通じない気がしてきた。
ニコライは、見るからに様子がおかしいマクシミリアンに平然と問いかける。
「それで、マクシミリアンはどうしたい?」
マクシミリアンはブツブツと何事かを呟き始めたが、小声で早口なため、聞き取れない。
「何言ってんのかわかんねぇ――」
ニコライは目を細めて十年来の友人を見ている。そのわざとらしいほどに客観的な態度が引っ掛かった。
ゲルダは少し冷静になる。やはり、ニコライは何処かおかしい。わざと煽ってマクシミリアンを追い詰めているとしか思えない。
ゲルダは意を決し、口を開いた。
朝食と共に現れたニコライに、開口一番、その提案をされたマクシミリアンは首を傾げた。
「どういう事だ?ゲルダがお前の側近も兼ねるということか?」
「まあ、そういうことになるな」
「別に良いだろう。実際、俺の補佐がお前である訳だから、ゲルダの業務内容にさほど影響があるとは思えないが」
「添い寝は一日交代で良いな」
ゲルダは無言で、テーブルに朝食の乗ったトレイを置く。そっとマクシミリアンを窺えば、眉を寄せてニコライに視線を向けていた。
「お前も不眠症だったのか」
「別に。ゲルダと寝たいだけだが?お前だけ狡いだろ」
「ゲルダは抱き枕じゃないぞ。女と寝たいのなら、幾らでも当てがあるだろう」
「ゲルダが良いんだよ」
マクシミリアンはどう返事をするべきか迷っているようだった。縋るように視線を向けられ、ゲルダは困り果てる。ニコライと添い寝などしたくはない。それは完全なる職務範囲外労働である。
「ゲルダは……」
「勿論、嫌です」
「では、却下する」
ニコライは口を尖らせた。しかし、めげずにマクシミリアンを挑発する。
「それとお前、ゲルダにキスを強要したらしいな」
「強要はしてない」
「まあ、たかがオデコへのキスだというから、子供をあやすみたいなもんか。たいした意味はもたないな。ちなみに俺はゲルダの手首に口付けた。ついさっきな!」
「手?顔の方が近いし、俺はゲルダからされたんだぞ」
ゲルダは大の男二人が口付けについて競い合う様子を、呆れて傍観していた。
遊んでんのか?真面目に付き合う必要ないよなぁ。
ニコライはフンッと鼻を鳴らすと、得意気に胸を反らす。
「馬鹿だなぁ、マクシミリアンは。手首へのキスはな、親愛より強い求愛、独占だ。つまり、俺はゲルダに好きだと伝えたんだ」
マクシミリアンは息を呑み、再びゲルダに顔を向け、探るような視線を送る。
「そうなのか?!」
「私は本気と捉えておりません。副団長のお巫山戯でしょう」
「俺は本気だ。少なくとも今現在、最も気になっている女性だからな」
マクシミリアンは膝の上で両拳を握り、ふるふると震えた。
「俺だって……」
「お前はゲルダに母親を投影しているだけだ。恋愛対象として見ている訳じゃない。世話役は譲っても良いが、行き過ぎた行為は今後静観出来ない。おおいに抗議させてもらう」
「副団長、それは……」
あまりに一方的な主張に、ゲルダは思わず声を上げる。しかし、ニコライは止めるどころか更に追い打ちをかけた。
「それに、お前のチンコポリンヌではゲルダを満足させられない」
「ちょっ……!あんた、何言ってんですか?!」
恐る恐るマクシミリアンを見れば、顔面蒼白で唇を噛んでいる。ゲルダは血の気が引き、直後、激しい怒りが込み上げた。
「副団長、いくらなんでも許せません。団長を傷付けるような言動は即刻止めてください」
「でも、真実だ」
「はっきり言っておきますが、私は騎士、単なる貴方がたの部下です。それでも、お二人のお役に立ちたいという気持ちからこうやって騎士としては甚だ逸脱した要求も受け入れている。出来ることはやろうと思って真摯に取り組んで参りました」
ゲルダはニコライを睨む。これほどの憤りに支配されるのは久しぶりだ。ずっと押し込めてきた感情だから。
「副団長はそれを全部台無しにするおつもりですか?あんた、いったい何がしたいんです?」
「俺?俺は自分が好きなようにやりたいだけだよ。マクシミリアンが過去のトラウマから解放されて、楽になれれば良いと思うけど、ゲルダも欲しい」
「私は団長の安定を望んでいます。そんでもって、副団長はどうでも良いです!」
「はっきり言うなぁ……でも、俄然やる気が湧いてきた。多少手強い方が燃えるよな」
飄々とした態度を崩さないニコライに、ゲルダは言葉を失う。この男には何を言っても通じない気がしてきた。
ニコライは、見るからに様子がおかしいマクシミリアンに平然と問いかける。
「それで、マクシミリアンはどうしたい?」
マクシミリアンはブツブツと何事かを呟き始めたが、小声で早口なため、聞き取れない。
「何言ってんのかわかんねぇ――」
ニコライは目を細めて十年来の友人を見ている。そのわざとらしいほどに客観的な態度が引っ掛かった。
ゲルダは少し冷静になる。やはり、ニコライは何処かおかしい。わざと煽ってマクシミリアンを追い詰めているとしか思えない。
ゲルダは意を決し、口を開いた。
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