上 下
38 / 97
ポッコチーヌ様のお世話係

目指せ!ポッコチーヌ①

しおりを挟む
「ゲルダを俺と共有しようぜ」

 朝食と共に現れたニコライに、開口一番、その提案をされたマクシミリアンは首を傾げた。

「どういう事だ?ゲルダがお前の側近も兼ねるということか?」
「まあ、そういうことになるな」
「別に良いだろう。実際、俺の補佐がお前である訳だから、ゲルダの業務内容にさほど影響があるとは思えないが」
「添い寝は一日交代で良いな」

 ゲルダは無言で、テーブルに朝食の乗ったトレイを置く。そっとマクシミリアンを窺えば、眉を寄せてニコライに視線を向けていた。

「お前も不眠症だったのか」
「別に。ゲルダと寝たいだけだが?お前だけ狡いだろ」
「ゲルダは抱き枕じゃないぞ。女と寝たいのなら、幾らでも当てがあるだろう」
「ゲルダが良いんだよ」

 マクシミリアンはどう返事をするべきか迷っているようだった。縋るように視線を向けられ、ゲルダは困り果てる。ニコライと添い寝などしたくはない。それは完全なる職務範囲外労働である。

「ゲルダは……」
「勿論、嫌です」
「では、却下する」

 ニコライは口を尖らせた。しかし、めげずにマクシミリアンを挑発する。

「それとお前、ゲルダにキスを強要したらしいな」
「強要はしてない」
「まあ、たかがオデコへのキスだというから、子供をあやすみたいなもんか。たいした意味はもたないな。ちなみに俺はゲルダの手首に口付けた。ついさっきな!」
「手?顔の方が近いし、俺はゲルダからされたんだぞ」

 ゲルダは大の男二人が口付けについて競い合う様子を、呆れて傍観していた。

 遊んでんのか?真面目に付き合う必要ないよなぁ。

 ニコライはフンッと鼻を鳴らすと、得意気に胸を反らす。

「馬鹿だなぁ、マクシミリアンは。手首へのキスはな、親愛より強い求愛、独占だ。つまり、俺はゲルダに好きだと伝えたんだ」

 マクシミリアンは息を呑み、再びゲルダに顔を向け、探るような視線を送る。

「そうなのか?!」
「私は本気と捉えておりません。副団長のお巫山戯でしょう」
「俺は本気だ。少なくとも今現在、最も気になっている女性だからな」

 マクシミリアンは膝の上で両拳を握り、ふるふると震えた。

「俺だって……」
「お前はゲルダに母親を投影しているだけだ。恋愛対象として見ている訳じゃない。世話役は譲っても良いが、行き過ぎた行為は今後静観出来ない。おおいに抗議させてもらう」
「副団長、それは……」

 あまりに一方的な主張に、ゲルダは思わず声を上げる。しかし、ニコライは止めるどころか更に追い打ちをかけた。

「それに、お前のチンコポリンヌではゲルダを満足させられない」
「ちょっ……!あんた、何言ってんですか?!」

 恐る恐るマクシミリアンを見れば、顔面蒼白で唇を噛んでいる。ゲルダは血の気が引き、直後、激しい怒りが込み上げた。

「副団長、いくらなんでも許せません。団長を傷付けるような言動は即刻止めてください」
「でも、真実だ」
「はっきり言っておきますが、私は騎士、単なる貴方がたの部下です。それでも、お二人のお役に立ちたいという気持ちからこうやって騎士としては甚だ逸脱した要求も受け入れている。出来ることはやろうと思って真摯に取り組んで参りました」

 ゲルダはニコライを睨む。これほどの憤りに支配されるのは久しぶりだ。ずっと押し込めてきた感情だから。

「副団長はそれを全部台無しにするおつもりですか?あんた、いったい何がしたいんです?」
「俺?俺は自分が好きなようにやりたいだけだよ。マクシミリアンが過去のトラウマから解放されて、楽になれれば良いと思うけど、ゲルダも欲しい」
「私は団長の安定を望んでいます。そんでもって、副団長はどうでも良いです!」
「はっきり言うなぁ……でも、俄然やる気が湧いてきた。多少手強い方が燃えるよな」

 飄々とした態度を崩さないニコライに、ゲルダは言葉を失う。この男には何を言っても通じない気がしてきた。
 ニコライは、見るからに様子がおかしいマクシミリアンに平然と問いかける。

「それで、マクシミリアンはどうしたい?」

 マクシミリアンはブツブツと何事かを呟き始めたが、小声で早口なため、聞き取れない。

「何言ってんのかわかんねぇ――」

 ニコライは目を細めて十年来の友人を見ている。そのわざとらしいほどに客観的な態度が引っ掛かった。
 ゲルダは少し冷静になる。やはり、ニコライは何処かおかしい。わざと煽ってマクシミリアンを追い詰めているとしか思えない。
 ゲルダは意を決し、口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【完結】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

ワケありのわたしでいいですか

キムラましゅろう
恋愛
ワケありのわたしが、 魔石採りの元騎士様の家の住み込み家政婦になった。 元騎士のご主人サマは 魔物が多く棲む山で魔石を採取して生計をたてている。 家政婦ギルドのマスターはあんな辺鄙で危険な 場所が職場なんて気の毒だと言うけれど、わたしには丁度良かったのだ。 それにご主人サマとの共同生活はとても穏やかで心地よかった。 二人だけの静かな暮らし。 いつまでも続くわけがないとわかっているからこそ、 愛おしく大切なものだった。 そんな暮らしもやがて終わりを迎える。 ご主人サマの本当に大切な方が帰ってくると 知らせを受けたから。 彼には幸せになってほしいと心から願っているから。 5話で完結の短いお話です。 謀略も胸くそ王女も何もないシンプルなお話を書きたいと思った作者が心の赴くままに書きましたので、この上なくご都合主義です。

なかった事にいたしましょう

キムラましゅろう
恋愛
生家の懐事情により 自ら第ニ王子の婚約者候補を辞退したその夜に、 何の因果かその第ニ王子ヴィンセント殿下と体の関係を 結んでしまったわたし。 お互い、不可抗力だったとしてもこれはまずい、 これはいただけない。 もうこうなったら……全てなかった事にいたしましょう。 え?そんなわけにはいかない? いいえ!わたし達には何も起こらなかったんです!そうなんです! わたしはこれから借金返済で忙しいんです! だからどうかもう、なかった事にしてください! なのに何故か、ヴィンセント殿下が執拗にわたしに絡んでくるようになった…… 何故?殿下はわたしの事を嫌っていたはずなのに。 完全ご都合主義のゆる過ぎ設定です。 性描写はありませんが、性的表現を思わせる表現やワードが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方でも投稿してます。

お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。

有川カナデ
恋愛
憧れのお義姉様と本当の家族になるまであと少し。だというのに当の兄がお義姉様の卒業パーティでまさかの断罪イベント!?その隣にいる下品な女性は誰です!?えぇわかりました、わたくしがぶっ飛ばしてさしあげます!……と思ったら、そうでした。お兄様はお義姉様にべた惚れなのでした。 微ざまぁあり、諸々ご都合主義。短文なのでさくっと読めます。 カクヨム、なろうにも投稿しております。

【完】婚約者には好きな人がいるようなので身を引いて婚約解消しようと思います

咲貴
恋愛
「…セレーネ、大事な話が…」 「ヴァルフレード様、婚約を解消しましょう」 「…は?」  ヴァルフレード様はプレスティ伯爵家の嫡男で、モルテード子爵家の娘である私セレーネ・モルテードの婚約者だ。  精悍な顔立ちの寡黙な方で、騎士団に所属する騎士として日々精進されていてとても素敵な方。  私達の関係は良好なはずだったのに、どうやらヴァルフレード様には別に好きな人がいるみたいで…。  わかりました、私が悪役になりましょう。 ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています    

懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい

キムラましゅろう
恋愛
ある日突然、ユニカは夫セドリックから別邸に移るように命じられる。 その理由は神託により選定された『聖なる乙女』を婚家であるロレイン公爵家で庇護する事に決まったからだという。 だがじつはユニカはそれら全ての事を事前に知っていた。何故ならユニカは17歳の時から突然予知夢を見るようになったから。 ディアナという娘が聖なる乙女になる事も、自分が他所へ移される事も、セドリックとディアナが恋仲になる事も、そして自分が夫に望まれない妊娠をする事も……。 なのでユニカは決意する。 予知夢で見た事は変えられないとしても、その中で自分なりに最善を尽くし、お腹の子と幸せになれるように頑張ろうと。 そしてセドリックから離婚を突きつけられる頃には立派に自立した自分になって、胸を張って新しい人生を歩いて行こうと。 これは不自然なくらいに周囲の人間に恵まれたユニカが夫から自立するために、アレコレと奮闘……してるようには見えないが、幸せな未来の為に頑張ってジタバタする物語である。 いつもながらの完全ご都合主義、ゆるゆる設定、ノンリアリティなお話です。 宇宙に負けない広いお心でお読み頂けると有難いです。 作中、グリム童話やアンデルセン童話の登場人物と同じ名のキャラで出てきますが、決してご本人ではありません。 また、この異世界でも似たような童話があるという設定の元での物語です。 どうぞツッコミは入れずに生暖かいお心でお読みくださいませ。 血圧上昇の引き金キャラが出てきます。 健康第一。用法、用量を守って正しくお読みください。 妊娠、出産にまつわるワードがいくつか出てきます。 苦手な方はご注意下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...