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ポッコチーヌ様のお世話係

団長は可愛い③

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 ゲルダは苦笑いすると通りに視線を移す。なるほど、若い娘達がそこかしこに集まり、こちらを見て騒いでいる。美貌の白騎士団長は街でも大人気らしい。

「団長のファンクラブですか」
「そんなものはない」
「手でも振ってさしあげれば?彼女たち喜びますよ」
「何故そんな事をする必要がある」
「サービスです。騎士団の印象が良くなるかも」
「いやだ。誰かれ構わず愛嬌を振りまくのは疲れる。もうやりたくない」

 眉を寄せるマクシミリアンの背中をそっとさすれば、一際高い声が方々から上がった。

「何ですか?私、何かまずいことをしました?」

 背後のニコライと団員に小声で問えば、二人はニヤニヤ笑って返す。

「ほーらな、予想通り」
「お前らは目立つんだよ」
「は?じゃあ、場所を代わってください」
「駄目だ、ゲルダは俺の横にいるのだ」

 マクシミリアンはムウと口を結び、ゲルダの袖を引く。
 するとまた、うぎゃあーっという乙女らしからぬ声が耳に飛び込んできた。戸惑うゲルダに、ニコライが提案する。

「ゲルダ、手を振ってみろよ」
「は?私がですか?」

 訳も分からないまま、ゲルダは沿道に向けて手を振ってみる。すると、娘たちが叫び、抱き合ってぴょんぴょん跳ねだした。ゲルダはギョッとして振り返る。

「な、何ですかあれ?」
「ゲルダのファンだな」

 団員は得意げに胸を張った。

「言っただろうよ。美貌の団長に寄り添う長身美女騎士、そりゃあ観衆の目を攫うってもんよ!」
「並ぶだけで白騎士団の看板だなぁ、こりゃ」

 ゲルダは目を瞬いた。確かに自分は女にしては背が高すぎる。騎士になるにあたっては有利に働いた特徴ではあるが、美女というのはどうなのか。女としては容姿よりシャンピニであることが注目されてきたこれまでの人生である。プライベートでは同族以外との交流が殆どなかったから、自分が肌の白い人々にどう見られているかなど気にしたことが無かった。
 呆けるゲルダの袖をマクシミリアンが再び引っ張る。

「ゲルダ、手など振らなくて良い。それより不審な者や諍いがないか目を光らせろ」
「あ、はい。そうですよね」

 ゲルダは慌てて再び街を見渡した。通り過ぎる人々の視線がやたらと気になったが、懸命に集中する。その内、まったく目に入らなくなった。




「今のところ問題は無いようですね」

 メインストリートの終着地である公園で、四人は一旦足を止め、この後のルートを話し合う。

「五番町で輸入禁止のエールを出す店があるらしい。悪酔いするらしく、医院に担ぎ込まれた者もいるとか」
「西端の工場跡地にはゴロツキが住み着いていると聞きました。今のところ実害はないようだけど」
「酒場は現場を押さえるのが望ましい。夜間担当に任せよう。先日の団長会議によれば、西端は隣国から流れ込んだ難民の溜まり場になっているようだ。外交省の管轄なので下手に手は出せんな」

 何の情報も持たないゲルダは、先輩騎士の話を黙って興味深く聞いていた。マクシミリアンを見れば、顔色も良く落ち着いている。
 ゲルダはホッとして公園に視線を向けた。柔らかな日差しの中で多くの人々が笑顔で寛いでいる。まるで、この国の平和を象徴しているかのような長閑な光景である。

 その時、ふと目の端に映ったものがあった。
 ゲルダはその二人連れにたちまち意識を囚われる。ストールを深く被った少女と、その手を引く労働者風の男。一見親子に見えるが、掌を合わせるのではなく手首を掴む手の繋ぎ方が気になった。
 ゲルダの視線に気付いたマクシミリアンが問う。

「どうした?」
「あれは、親子だと思われますか」

 三人はゲルダの目線を追う。

「駄々こねる娘を引っ張ってんじゃねぇの」
「あのように厚着をしているのも気になります。今日は暖かいし、日除けをするほど日差しは強くない」
「何かを隠していると?」
「話を聞こう」

 ニコライが団員を呼び、二人の元へと向かう。マクシミリアンもゆっくりと後を追う。ゲルダもそれに続いた。
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