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 部屋の中がしんと静まりかえる。
 まるで時が止まったかのように誰も動かない。
 静寂を破ったのは、正面で仁王立ちする少女の唸り声だった。
 彼女は燃え盛る琥珀の瞳でグリンバルドを睨み、ぎりぎりと歯ぎしりし両の拳を震わせる。背後にいた少女のひとりが慌てて彼女の腕に縋った。
「お姉さま、落ち着いて」
 彼女の周りに一人一人と姉妹たちが集まり、口々にグリンバルドを責めた。
「貴方こそ、スノウ様のことを知らないのよ」
「貴方のことをお話になるスノウ様はとても苦しそうだったわ」
「あの家からスノウ様を追い出そうとしているくせに」
 グリンバルドは顎を上げ威圧的に見下ろす。少女たちは怯みながらも果敢に言い続けた。
「私たちはスノウ様の望みを叶えて差し上げるの!」
「あの方はいつまでも美しくありたいと願っている。私たちならそれができる!」
「そうよ、本当なら今日にでも実行できたわ。……あの小指の傷がなかったら……」
 しっと隣からたしなめられ目を泳がせる少女に、グリンバルドは近づく。
「傷がなかったら、何をしたというのです?」
「……なんでもないわ」
「お嬢さん方、度を過ぎた火遊びは破滅を招きますよ。いくら高貴な身分だとて、神の裁きからは逃れられない」
 令嬢たちは再び黙り込み、ひとりを除き怯えたようにこちらを見上げた。
「スノウ様はお返しいただきます。二度とこちらの屋敷には来させませんので、悪しからず」
 グリンバルドは踵を返し扉へと向かう。しかし、背後から金切り声が追ってきた。
「お前たち、捕まえなさい! スノウ様を取り上げられてなるものですか!」
 少女たちが弾かれたように動き出しグリンバルドへと手を伸ばす。グリンバルドはちっと舌を鳴らした。
 相手は大人数とはいえか弱い女子である。振り切るなど造作ない。しかし、怪我でもさせたなら厄介だ。あることないことをでっち上げて公爵に訴え、グリンバルドを陥れる可能性もある。奇怪な姉妹であるが、そういった方面での悪知恵は働きそうだ。
 迷うグリンバルドの服のそこかしこを小さな手が掴む。まるで落ちた果実に虫がたかる様のようであった。
 怖気が足元からせりあがり、グリンバルドは後退る。背中に当たる扉の感触を得て、グリンバルドは急いでノブに手を伸ばした。しかし、それはぐるりと回転し掌を滑っていく。
 やがて扉が後方へと引かれ、支えるものをなくしたグリンバルドは咄嗟に戸枠を掴み、なんとか踏みとどまった。
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