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よもぎスプレー~虫対策はコレで決まり!~
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「キース様にオリバー様……凄い恰好でございますわね」
キースさんは防護服のように全身を布で覆っており、オリバーは頭まですっぽりと甲冑を着こんでいる。私が森に『ラベンダー』を探しに行くと言うと、二人がどうしても一緒に行くと言ってきかなかったのだ。
「この森は虫が凄いんだ。グレイスこそ、そんな薄着で大丈夫?」
森に行くというので両手足が隠れるような服を着用しているが、彼らのように特別防護しているというわけではない。
「一応、虫よけスプレーを作って参りましたので。よかったら使ってくださいませね」
私はヨモギから作った虫よけスプレーを全身にふりかける。
「凄い色だな……」
オリバーは甲冑越しに虫よけスプレーのボトルを一瞥する。確かに炭を溶かしたような色をしており、爽やかなビジュアルではない。
「ヨモギの葉を度数が高いアルコールに漬けて作った原液を水で五倍に薄めておりますの」
分量としては生のヨモギの葉1kgに対して、アルコールは200ml。漬ける期間は一ヶ月ほどだが、半年以上寝かせるとより効果があるといわれている。この診療所に来た時、近くの土手にヨモギが群生していたので、『絶対虫がでる』と思い作っておいたのだ。
「じゃあ、俺は使ってみようかな……」
おそるおそるキースさんはスプレーを使うが、難しい表情を浮かべる。
「当たり前なんだけど薬ってわけじゃないから、効果があるのかないのか分からないね」
「そうですわね。でもきっと大丈夫ですわ」
おばあちゃんの家は山の側にあったこともあり、子供の頃はよく山に入って遊んでいたが、その時いつもこの虫よけスプレーを使っていた。体温が高い子供は蚊に狙われやすいが、このスプレーを付けていると寄ってくる蚊が心なしか少ない気がする。
「オリバーも……って、それだけ着込んでいたら大丈夫か」
「でもオリバー様、さすがに虫ごときにその重装備はやりすぎじゃありませんこと?」
「虫だけじゃない」
そう言って森の奥を睨むオリバーの視線は鋭かった。そんな彼にキースさんは苦笑しながら『森』の事情について説明してくれた。
「この森には一角獣が出るって言われているんだ」
「城壁の中なのに?」
「伝説……って言われているみたいだけどね。で、その一角獣が凄い狂暴らしい。目が合った瞬間蹴り殺されたって人もいるって噂だ」
一角獣でなくても野生の馬が森で生息していたら、確かに危険に違いない。だから最初に私が「森に行く」と言った時、二人が猛反対したのか……。
「それでリタがよく来ていたんですね」
「そうだね。危険が伴うから、ここに来る人は少なくて、素材や食材が集めやすかったんだろうね」
少し切ないが逆に考えると、一般的に知られていない『ラベンダー』が見つかる可能性も高そうだ。案の定、そこは『おばあちゃんの知恵』ユーザーとしては宝の山だった。『決して奥には行かないこと』と目を光らせているオリバーを横目に、私はヨモギ、ミント、ドクダミなど様々な植物に夢中になった。
どれくらい経った頃だろう。顔を上げると空は暗くなっており、周囲にはオリバーもキースさんもいなかった。夢中で採取するうちに彼らからはぐれてしまったのだろう。
「これは怒られますわね……」
慌てて戻ろうと思ったが、野草を集めるため道なき道を歩いてきたこともあり、どちらから自分が来たのかも分からなくなっていた。
「困りましたわね」
さすがにアウトドア知識までは、おばあちゃんに教わっていなかったな……とキョロキョロしていると、背後でガサリと草を踏みつける音がした。
「き……」
『キース様』と言いかけた言葉が途中で失われる。振り返ったその視線の先には、目が合った瞬間に蹴り殺される……という一角獣がいたのだ。
キースさんは防護服のように全身を布で覆っており、オリバーは頭まですっぽりと甲冑を着こんでいる。私が森に『ラベンダー』を探しに行くと言うと、二人がどうしても一緒に行くと言ってきかなかったのだ。
「この森は虫が凄いんだ。グレイスこそ、そんな薄着で大丈夫?」
森に行くというので両手足が隠れるような服を着用しているが、彼らのように特別防護しているというわけではない。
「一応、虫よけスプレーを作って参りましたので。よかったら使ってくださいませね」
私はヨモギから作った虫よけスプレーを全身にふりかける。
「凄い色だな……」
オリバーは甲冑越しに虫よけスプレーのボトルを一瞥する。確かに炭を溶かしたような色をしており、爽やかなビジュアルではない。
「ヨモギの葉を度数が高いアルコールに漬けて作った原液を水で五倍に薄めておりますの」
分量としては生のヨモギの葉1kgに対して、アルコールは200ml。漬ける期間は一ヶ月ほどだが、半年以上寝かせるとより効果があるといわれている。この診療所に来た時、近くの土手にヨモギが群生していたので、『絶対虫がでる』と思い作っておいたのだ。
「じゃあ、俺は使ってみようかな……」
おそるおそるキースさんはスプレーを使うが、難しい表情を浮かべる。
「当たり前なんだけど薬ってわけじゃないから、効果があるのかないのか分からないね」
「そうですわね。でもきっと大丈夫ですわ」
おばあちゃんの家は山の側にあったこともあり、子供の頃はよく山に入って遊んでいたが、その時いつもこの虫よけスプレーを使っていた。体温が高い子供は蚊に狙われやすいが、このスプレーを付けていると寄ってくる蚊が心なしか少ない気がする。
「オリバーも……って、それだけ着込んでいたら大丈夫か」
「でもオリバー様、さすがに虫ごときにその重装備はやりすぎじゃありませんこと?」
「虫だけじゃない」
そう言って森の奥を睨むオリバーの視線は鋭かった。そんな彼にキースさんは苦笑しながら『森』の事情について説明してくれた。
「この森には一角獣が出るって言われているんだ」
「城壁の中なのに?」
「伝説……って言われているみたいだけどね。で、その一角獣が凄い狂暴らしい。目が合った瞬間蹴り殺されたって人もいるって噂だ」
一角獣でなくても野生の馬が森で生息していたら、確かに危険に違いない。だから最初に私が「森に行く」と言った時、二人が猛反対したのか……。
「それでリタがよく来ていたんですね」
「そうだね。危険が伴うから、ここに来る人は少なくて、素材や食材が集めやすかったんだろうね」
少し切ないが逆に考えると、一般的に知られていない『ラベンダー』が見つかる可能性も高そうだ。案の定、そこは『おばあちゃんの知恵』ユーザーとしては宝の山だった。『決して奥には行かないこと』と目を光らせているオリバーを横目に、私はヨモギ、ミント、ドクダミなど様々な植物に夢中になった。
どれくらい経った頃だろう。顔を上げると空は暗くなっており、周囲にはオリバーもキースさんもいなかった。夢中で採取するうちに彼らからはぐれてしまったのだろう。
「これは怒られますわね……」
慌てて戻ろうと思ったが、野草を集めるため道なき道を歩いてきたこともあり、どちらから自分が来たのかも分からなくなっていた。
「困りましたわね」
さすがにアウトドア知識までは、おばあちゃんに教わっていなかったな……とキョロキョロしていると、背後でガサリと草を踏みつける音がした。
「き……」
『キース様』と言いかけた言葉が途中で失われる。振り返ったその視線の先には、目が合った瞬間に蹴り殺される……という一角獣がいたのだ。
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