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類似品は甘い夢を見るのか?

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「こちらがご所望の梅だ」
 
 今回の梅肉エキスビジネスで最大の問題が材料だった。オリバーからもらった梅は最初のサンプルを作った時点でなくなっており、市場でようやく見つけて購入したが、それでも量産できる量はなかった。

「凄い量!!こんなにたくさん。ある所にはあるんですね」

 しかしディランに相談したところ、次の日には二箱分の梅を持って診療所まで持ってきてくれた。

「あのな……、これでも王城一のラッセル商会だぞ?揃えられない商品はないって」

 エマとはクラスメイトとして普通に接していたが、冷静に考えると貴族と対等に渡り合えるだけの財力を持っている――という時点で想像を絶する規模の商会なのだろう。

「で、これが商品というわけか。できはどうなんだ?」

「えぇ、リタのお兄さんは元々冒険者と言っても、大手パーティー専属の料理人だったんです。なので私より上手に作られていますわよ」

 梅肉エキスを煮詰める工程が一番難しいのだが、屋外で料理をしていただけありリタ兄は難なくこなしている。

「よし、じゃあ、さっそく俺がこれを全部買わせてもらおう」

 机に並べられた十個の梅肉エキスを指してディランはそう言った。リタ達から一斉に歓声が上がる。二つ目の問題として、この貧民街でこの価格の商品が売れるか心配ではあったが難なくクリアできたようだ。

「あら、随分、健康に気を使われていらっしゃいますのね」

 一日にティースプーン三分の一ずつ欠かさずに食べてもおそらく半年以上、消費するのにかかるだろう。

「俺は言っただろ?買うし『売る』って。これを使って売り込みをかけるんだ」

「そうでしたわね。それでおいくらでお売りになるつもりですの?」

「お前、公爵令嬢のくせに意外に鋭いよな。まぁ、上流階級に売りつけるから倍の銀貨六枚ってところだろうな。その代わり材料、資材なんかはタダで提供してやる。オヤジさんの許可が下りれば、ちゃんとした場所も用意してやるよ」

「ねぇ、そしたらうちの父ちゃんも働かせてもらえる?」

 レオは私にそう聞くが、それは私が答えるべきではない。視線をリタ兄に向けると、それに気づいて慌てて口を開いた。

「量産できる場所が確保できれば、レオのおやっさんにも働いてもらおう」

 本日二度目の歓声が上がり、にわかに明るい未来が見え始めていた。




「責任者を出してもらおうか!!」

 新工場が建つ……という朗報を受け取る前に、私は二人の柄の悪い男に診療所の受付で絡まれることになってしまった。

「こっちとらぁ~、百年前からこの製法を受け継いで作り続けているんだ。真似して販売するってぇのは、どういう了見だ?あぁ?!」

 彼らの言い分はこうだ。自分達も梅肉エキスをかねてから作っており、リタ達が作った梅肉エキスは類似品だという。そのため即刻販売を中止し、賠償金を支払って欲しいのだとか。

 しかもその金額は金貨三十枚。

 払えるようで払えない……微妙なラインだ。明らかに老舗の薬師で働く人間には見えない彼らを前に、どう対応していいものか悩んでいた。私が説明するのが一番早いが、私はあくまでも場所を無償で提供している一般人にしか過ぎない。かといってリタ兄をこの場に出して対応させることができるか……大いに疑問だった。

「こっちも無慈悲な魔物ってわけじゃねぇ。本当に同じもんか確認してやる。材料、作り方を書面で出してもらおうか」

 なるほど、それが目的か……ならば、と反論しようとした時、彼らが持っている黒い液体が入った瓶が取り上げられた。

「失礼。あなた方が販売しているこちらの商品と、この診療所で売っている商品……本当に同じ商品なのでしょうか?」

 爽やかな声にピッタリのグリーンの髪にグリーンの瞳のイケメンがそこにいた。眼鏡をクイっと上げた姿……あぁ……名前を名乗られなくても分かる。彼は元第四王子のユアンだ。
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