2 / 62
婚約破棄から始まる異世界生活
しおりを挟む
私が『どきどきプリンセスッ!2』の悪役令嬢に転生したことを知ったのは、なんと第二王子に婚約破棄された瞬間だった。
「グレイス、そなたとの婚約を正式に破棄させてもらう」
そう高らかに宣言され、私は目を白黒させた。婚約破棄が衝撃だったのではない。前世の記憶が次から次へと蘇ってきたからだ。
「ちょっとお待ち下さいませね。頭の中を整理致します」
前世の私は平凡な女子大生。実家が貧乏だから奨学金とバイト代でなんとか学校に通っていたが、大学四年目にして親による奨学金の使い込みが発覚したのだ。学生課から呼び出されて、内定が出ているのに卒業できないかも……と悩んでいるうちに車に跳ねられ、気付いた時には公爵令嬢・グレイスとして生を受けていた。
「お時間をいただきありがとうございます。それでは失礼させていただきますわね」
王子の顔も見ず私は彼らにクルリと背を向け、パーティ会場を後にしようとした。だってこの展開知っているんだもん!ゲームでは王子が悪役令嬢である私の罪状をここで暴露して、ヒロインと婚約することを発表する。
「婚約破棄なんだぞ?」
拍子抜けた様子で王子はそう言うが私は気にしない。だって何十回とクリアしてきたゲームだ。彼が次に言う言葉は聞かなくても分かる。決して耳に心地よい言葉ではないから敢えて聞くまい。
「かしこまりました。えっと……ティアナ様とお幸せに」
王子の後ろで、やはり訝しげな表情を浮かべるティアナにも笑顔を送った。個人的に悪役令嬢であるグレイスも美人だが、あのホワホワした王子にはホワホワした男爵令嬢のティアナの方がピッタリだ。何も未練はない。不幸中の幸い、今日でこの学園も卒業で彼らと顔を合わせることも当分ないだろう。
「婚約破棄しただと?!!」
自宅に帰ると烈火のごとく怒りを露わにする父が出迎えてくれた。
「あら、お父様、婚約破棄『された』ですわよ。それより卒業をお祝いして下さいませ」
「何が卒業だ!!国王陛下に直訴してくるぞ」
「それはお勧めいたしません。冷静にお話ができない状態で直訴されましたら、逆に手討ちにあいましてよ」
そう悪役令嬢は卒園パーティー後、父親と共に王宮に乗り込むが、勢いあまって剣を抜き手討ちにされてしまう。親バカとは本当に怖い。
「ではどうするのだ……」
妙に冷静な私に何か考えがあるのを察したのか、父親のテンションがグッと下がる。
「一方的な婚約破棄ですから……慰謝料をいただきたいですわね。王家の名に恥じない金額をご用意いただけるかと」
日本の場合、一般人の婚約破棄となると五十万円から二百万円の慰謝料が相場だったはずだ。某宮家令嬢の婚約が破談になった場合、相手方に対して一億円の手切金が支払われる……とも噂されたことがあったようなないような。
「といっても、そもそも私が殿下の心変わりに嫉妬して級友を虐めたのがきっかけですからね……。その金額については、期待しないで下さいませね」
思い出したようにそう説明すると、父の烈火のごとき怒りの矛先が再び私へ向けられることになった。
「お前なんぞ、『医者の嫁』にでもなってしまえ!!!!」
「グレイス、そなたとの婚約を正式に破棄させてもらう」
そう高らかに宣言され、私は目を白黒させた。婚約破棄が衝撃だったのではない。前世の記憶が次から次へと蘇ってきたからだ。
「ちょっとお待ち下さいませね。頭の中を整理致します」
前世の私は平凡な女子大生。実家が貧乏だから奨学金とバイト代でなんとか学校に通っていたが、大学四年目にして親による奨学金の使い込みが発覚したのだ。学生課から呼び出されて、内定が出ているのに卒業できないかも……と悩んでいるうちに車に跳ねられ、気付いた時には公爵令嬢・グレイスとして生を受けていた。
「お時間をいただきありがとうございます。それでは失礼させていただきますわね」
王子の顔も見ず私は彼らにクルリと背を向け、パーティ会場を後にしようとした。だってこの展開知っているんだもん!ゲームでは王子が悪役令嬢である私の罪状をここで暴露して、ヒロインと婚約することを発表する。
「婚約破棄なんだぞ?」
拍子抜けた様子で王子はそう言うが私は気にしない。だって何十回とクリアしてきたゲームだ。彼が次に言う言葉は聞かなくても分かる。決して耳に心地よい言葉ではないから敢えて聞くまい。
「かしこまりました。えっと……ティアナ様とお幸せに」
王子の後ろで、やはり訝しげな表情を浮かべるティアナにも笑顔を送った。個人的に悪役令嬢であるグレイスも美人だが、あのホワホワした王子にはホワホワした男爵令嬢のティアナの方がピッタリだ。何も未練はない。不幸中の幸い、今日でこの学園も卒業で彼らと顔を合わせることも当分ないだろう。
「婚約破棄しただと?!!」
自宅に帰ると烈火のごとく怒りを露わにする父が出迎えてくれた。
「あら、お父様、婚約破棄『された』ですわよ。それより卒業をお祝いして下さいませ」
「何が卒業だ!!国王陛下に直訴してくるぞ」
「それはお勧めいたしません。冷静にお話ができない状態で直訴されましたら、逆に手討ちにあいましてよ」
そう悪役令嬢は卒園パーティー後、父親と共に王宮に乗り込むが、勢いあまって剣を抜き手討ちにされてしまう。親バカとは本当に怖い。
「ではどうするのだ……」
妙に冷静な私に何か考えがあるのを察したのか、父親のテンションがグッと下がる。
「一方的な婚約破棄ですから……慰謝料をいただきたいですわね。王家の名に恥じない金額をご用意いただけるかと」
日本の場合、一般人の婚約破棄となると五十万円から二百万円の慰謝料が相場だったはずだ。某宮家令嬢の婚約が破談になった場合、相手方に対して一億円の手切金が支払われる……とも噂されたことがあったようなないような。
「といっても、そもそも私が殿下の心変わりに嫉妬して級友を虐めたのがきっかけですからね……。その金額については、期待しないで下さいませね」
思い出したようにそう説明すると、父の烈火のごとき怒りの矛先が再び私へ向けられることになった。
「お前なんぞ、『医者の嫁』にでもなってしまえ!!!!」
16
お気に入りに追加
2,678
あなたにおすすめの小説
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
聖女ウリヤナは聖なる力を失った。心当たりはなんとなくある。求められるがまま、婚約者でありイングラム国の王太子であるクロヴィスと肌を重ねてしまったからだ。
「聖なる力を失った君とは結婚できない」クロヴィスは静かに言い放つ。そんな彼の隣に寄り添うのは、ウリヤナの友人であるコリーン。
聖なる力を失った彼女は、その日、婚約者と友人を失った――。
※以前投稿した短編の長編です。予約投稿を失敗しないかぎり、完結まで毎日更新される予定。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる