銭湯エルフと恋の夏

（７９）エルフと石集め

フィリアが帰るまで、あと7日。

水曜日の朝。ばあちゃんをショートステイに送り出し、ほっと一息ついた後、俺はフィリアを自転車の荷台に乗せて河川敷を目指して走り出した。石を集めるのにぴったりの場所だ。

フィリアは麦わら帽子をかぶり、俺の後ろで少し緊張した様子だったが、川沿いの景色を見て目を輝かせている。

「風が気持ちいいですわね！」
楽しそうに声を上げるフィリアの笑顔に、俺も少しだけ安心した。

河川敷に到着すると、俺たちは川辺で石を探し始めた。丸くて平らな石を見つけてはフィリアに見せ、「これどうだ？」と聞く。フィリアは目を輝かせながら「とても良さそうですわ！」と何度も頷く。そのたびに、俺のやる気も少しずつ湧いてきた。

途中、俺は手に取った石を川に向かって投げてみた。石は水面を数回跳ね、やがて沈む。

「おお、水切りってやつだな。フィリア、やってみるか？」

「わ、私にもできますの？」
戸惑いながらも興味津々なフィリアに、俺は手本を見せながらコツを説明した。

「石を水平に投げるんだ。手首のスナップを効かせる感じで。」

フィリアは慎重に石を選び、「なるほど…こうですの？」と投げてみる。最初は跳ねずに沈んでしまったが、何度か挑戦するうちに水面で二回跳ねるようになった。

「できましたわ！見ましたか、ユウトさん！」
嬉しそうに振り返るフィリアに、俺も自然と笑みがこぼれる。

「ああ、見た見た！上手いじゃん。」
俺が褒めると、フィリアは少し照れくさそうに微笑んだ。その笑顔を見ていると、なんだか胸が温かくなる気がした。

お昼を少し過ぎた頃、陽射しが強くなってきたので、俺たちは木陰にレジャーシートを広げた。バッグから弁当箱を取り出し、蓋を開けて得意げに見せる。

「じゃーん！今日のランチは特製弁当です！」

「わあ…とても美味しそうですわ！」
フィリアの目がぱっと輝く。弁当箱の中には、カリッと揚げた照り焼き風唐揚げ、レモンペッパーの香り漂うハーブ炒め野菜、そしてふんわり巻いた卵焼き。海苔で巻かれたおにぎりが見た目にも食欲をそそる。

「唐揚げはね、タレに漬け込んでから揚げたんだ。外はカリカリ、中はジューシーを目指してみたけど、どうかな？」

フィリアが唐揚げを一口食べて目を輝かせる。
「とても美味しいですわ！外がサクサクで中が柔らかくて…甘辛いタレが絶妙ですの！」

「そっか、良かった！」
褒められて思わず顔が緩む。朝早くから頑張った甲斐があった。

弁当を食べ終えた後、しばらく休憩してから再び石集めを再開。フィリアが珍しい形の石を見つけて「これ、可愛らしい形ですわね」と嬉しそうに見せてくる。その純粋な喜びに、俺もつられて笑顔になる。

気づけば夕方になっていた。「そろそろ帰ろうか」と声をかけると、フィリアはうつむいたまま黙り込む。川のせせらぎだけが静かに響き、その沈黙がどこか重く感じられた。

風が草を揺らす音の中、フィリアがぽつりと口を開く。

「ユウトさん…あの…私のことを、どう思ってくださっていますの？」

その一言は、静かな河川敷に石を投げ込むように、俺の心に大きな波紋を広げた。驚きと動揺で胸が締め付けられる。何か答えようとするが、喉が詰まったように声が出ない。

夕焼けに染まる空がさらに深い赤に変わる中、俺はただフィリアを見つめることしかできなかった。