銭湯エルフと恋の夏

（２８）エルフと水着

水着を探しに商店街を歩いたものの、見つかるのは中高生向けのスクール水着ばかり。さすがにそれは違うだろうということで、美駅直結の大型店舗へ向かうことにした。商店街の親しみやすい雰囲気とは打って変わって、明るいライトが煌めく駅前の店舗群は、俺にとってどこか場違いに感じる空間だ。特に女性用の水着コーナーなんて、妙に緊張してしまい、まるで下着売り場に迷い込んだような居心地の悪さがあった。周囲の視線を勝手に意識してしまい、不審者に間違われないかとそわそわしてしまう。

そんな俺の横で、夏菜は水着を手に取っては「これどうかな？あっちの色もいいよね」と楽しそうに選んでいる。俺にはどれがいいのかさっぱり分からないが、夏菜は明らかに慣れている様子だ。そして、「これならフィリアちゃんにぴったりだね！」と自信満々に水着を選び、フィリアを試着室へと送り込んだ。

数分後、試着室のカーテンがゆっくりと開き、フィリアが現れた瞬間、俺は思わず言葉を失った。淡い水色のワンピースタイプの水着は、胸元から腰にかけて白いフリルが波のようにあしらわれていて、その柔らかなデザインが彼女の清楚な雰囲気を際立たせている。細い肩紐に添えられた小さなリボンも控えめで愛らしいアクセントになっていた。

さらに、フィリアが頭に被っている麦わら帽子が全体の雰囲気をさらに引き立てている。広めのつばとリボンがついたその帽子は、まるで夏の日差しを和らげるだけでなく、彼女を海辺に佇む天使のように見せていた。

一週間前、ぶかぶかの服を身にまとい、銭湯に現れたフィリア。その彼女が、こんなにも明るく可愛らしい姿を見せるなんて、正直、想像もしていなかった。眩しい光に包まれるようなその姿が、どこか夢の中のワンシーンのようで、俺の胸がざわつくのを感じる。

「ど、どうですか…？」フィリアが恥ずかしそうに聞いてくる。顔を少し俯かせ、頬をほんのり赤く染めたその仕草がまた、たまらなく絵になる。俺は不器用な言葉しか浮かばず、それでもなんとか声を絞り出した。

「すごく…似合ってる。めちゃくちゃ可愛いよ。」

その一言にフィリアの顔はさらに赤くなり、恥ずかしそうに目を伏せながら小さく微笑んだ。「あ、ありがとうございます…」

横で夏菜が満足げに腕を組み、「ほらね、やっぱりアタシのセンス、最高でしょ？」と得意げに笑う。その自信に、今回ばかりは反論の余地がなかった。確かに、夏菜が選んだ水着はフィリアにぴったりだった。

会計を済ませるためにレジに向かうと、夏菜が店員と何やら親しげに話している。すると、店員がふと笑顔で言った。「お客様、またこの水着を試されるんですね。」その瞬間、夏菜の顔がみるみる赤く染まり、「き、気のせいじゃない？」と早口で返していた。その慌てた様子からして、どうやらこの水着を試すのは初めてではないらしい。

その反応に、俺は内心で「なるほど、そういうことか」と納得した。夏菜がフィリアに水着を選ぶついでに、自分の“本番用”も狙っていたのだろう。その周到さに、なんとも言えない感心と呆れが入り混じった感情が湧いてきた。

「さて、次は夏菜の番か。」俺は心の中で苦笑しつつ、これからの展開を静かに見守ることにした。