銭湯エルフと恋の夏

（２７）エルフとカレー

異国風のカレー屋に入り、ターバンを巻いた店員さんが片言の日本語でメニューを差し出してくれる。その姿を見て、ふと銭湯でタオルを耳に巻いているフィリアの姿が頭に浮かび、思わず笑ってしまった。どこか異世界に迷い込んだような雰囲気の店内だが、妙に親しみが湧くのが不思議だ。

メニューを開けば、チキン、マトン、ビーフ、ポークと、スパイスが効いた料理がずらり。どれも美味しそうで迷うが、そんな俺の横で夏菜は「激辛チキンカレー！」と迷うことなく即決している。相変わらずの行動力に感心しながら、俺はフィリアのことを考えた。彼女はまだ食器の扱いに不慣れだし、手で食べる方が自然に見える。そこでナンセットを頼むことにした。

しばらくしてテーブルに運ばれてきたのは、湯気を立てるカレーと焼きたての大きなナン。その香りに、フィリアの瞳がキラキラと輝き出す。彼女はそっとナンをちぎり、カレーに浸して口に運ぶと、ふわっと表情が緩み、小さな声で「おいしい…！」と呟いた。その満足そうな顔を見ているだけで、俺の胸にもじんわりと温かい気持ちが広がっていく。

「これ、スパイスっていうんだ。いろんな香りと味が重なって、特別な感じがするだろ？」と説明すると、フィリアは小さく頷きながらまたナンをカレーに浸していく。その仕草がどこか子供のようで、つい俺も微笑んでしまった。隣で夏菜も笑いながら、「フィリアちゃん、意外と食べるの早いのね！」と驚いている。

食事が進むにつれて、テーブルには笑い声と和やかな空気が満ちていった。カレーのスパイシーな香りと、フィリアの無邪気な笑顔が、なんとも心地よいひとときを作り出していた。

食べ終わる頃、フィリアがそっとナプキンで口元を拭い、満足そうに微笑む。その姿を見ていると、俺の胸にも同じような幸福感が広がる。そんな時、ふいにテーブルにラッシーが運ばれてきた。「いつ頼んだんだ？」と思いながら夏菜を見ると、案の定、得意げな顔をしている。支払いが俺だと確信しているのは明らかだ。

「やっぱり夏菜と出かけるとこうなるよな…」と苦笑しつつ、一口ラッシーを飲んでみる。爽やかな酸味とやさしい甘さが口いっぱいに広がり、自然と肩の力が抜ける気がした。

フィリアも興味津々でラッシーを一口飲むと、「わぁ…これも不思議な味ですわね。甘いのに、どこか切ないような…」と感想を漏らす。その瞳の輝きが、一口ごとに新しい世界を発見しているようで、見ているだけで心が和んでいく。

「それ、ラッシーって言うんだよ。ほら、銭湯にある瓶牛乳と似てるけど、これはヨーグルトが入ってるんだ」と説明すると、フィリアが「ヨーグルト？」と首を傾げる。その純粋な反応に少し困りつつも、説明が追いつかない自分に苦笑する。

すると、夏菜が勢いよく声を上げた。「よし、元気もチャージ完了ね！次は水着を買いに行くわよ！」

「えっ、水着？」と驚く俺をよそに、夏菜は話を止めない。「だって、今年はまだ海も川も行ってないし！それに、去年のはサイズが合わないし、さすがにスクール水着ってわけにはいかないでしょ！」自信満々な口調で語るその様子に、俺は軽く頭を抱えた。

さらに、「フィリアちゃんにもぴったりの水着、絶対見つけるから！」と熱弁する夏菜。その勢いには抗う術がなく、（どうせ俺が代金を出すことになるんだろうな…）と苦笑しながら観念するしかなかった。

ラッシーの爽やかな余韻を口に残しつつ、カレーの満足感を胸に、俺たちは商店街を再び歩き出した。次に待つのは、きっとまた予想もつかない展開だろう。でも、こうやってみんなで過ごす時間が、なんだか楽しくて仕方がない。