銭湯エルフと恋の夏

チョコレ

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(20)エルフとお小遣い

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フィリアが銭湯にやってきてから六日目。

月曜日の朝。気づけばカレンダーは八月を迎えていた。ATMの前に立ち、ディスプレイの淡い光が浮かび上がるのを見つめる。冷たい機械音が響き、画面が切り替わると、隣にいるフィリアが興味津々といった様子で俺の操作をじっと見つめているのに気づく。その無邪気な横顔に少し微笑みつつ、画面に映る残高を確認すると、予定通りお小遣いが振り込まれていることを確認した。胸の奥に溜まっていた小さな不安がふっと和らぎ、思わずほっと息をつく。生活を支えるこの金額の存在が、どれだけ安心感を与えてくれるか、改めて実感する。

銭湯に戻ると、フィリアと一緒に掃除を始めた。雑巾を手に、彼女が「こうですか?」と小さな声で俺に確認を取る。その真剣な眼差しとぎこちない動きがなんだか微笑ましくて、「そうそう、いい感じだよ」と声をかけながら俺もモップを動かす。黙々とした作業の中、何気ないこの時間が、少しだけ特別に思える。

掃除の途中、ばあちゃんが俺の前に現れ、小さな封筒を手渡してくれた。「先月分だよ、いつもありがとうね」と微笑むばあちゃんの顔に、つい癒される。封筒をそっと開いて中を確認すると、予想以上に多めの金額が入っているのに驚いた。

「こんなに働いた覚えないけど…」と思わず呟くと、ばあちゃんは少し笑いながら首を振る。「フィリアちゃんのことでいろいろ頑張ってるんでしょ?だから少し多めにしておいたんだよ」と言われ、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。俺なりに頑張っているつもりだったけど、それをちゃんと見ていてくれる人がいる。その事実が、不意に心に染み込んでくる。

ばあちゃんは冗談めかして「海外で仕事ばっかりして呆けてるぼんくら息子に後で請求しとくから、安心しなさい」と軽く笑ってみせる。その無邪気な言葉に、力強さすら感じて、俺の中にさらに安堵感が広がった。

隣を見ると、フィリアが封筒を不思議そうに見つめている。俺は少し中身を見せながら説明を加えた。「これが給料だよ。働いた分の対価ってこと。働くと、こうやってお金をもらえるんだ。」

フィリアはしばらく考え込んだ後、真剣な顔で「それなら、わたくしもこうやって働いているのですから、ユウトからお給料をいただけますの?」と尋ねてきた。その純粋すぎる質問に思わず言葉を詰まらせたが、なんとか笑顔を作りながら答えた。

「うん、そうだね。ただ…フィリアはまだこの世界のお金の使い方に慣れてないだろ?だから、代わりに必要なものを準備するって形にしよう。たとえば、水曜日に夏菜とショッピングに行くから、そのときに服とか揃えようか。」

フィリアは驚いたように目を見開き、それからふっと柔らかい笑みを浮かべて「わたくしのために…ありがとうございます、ユウト」と、控えめに礼を言った。その笑顔に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

そのとき、スマホが振動し、夏菜からのメッセージが届いた。添付されていた写真を開くと、そこには昨日撮ったフィリアと夏菜の笑顔が写っていた。フィリアが少し照れながらも嬉しそうに笑っている姿が、なんだか愛おしくて、自然と頬が緩んだ。この子にはもっと似合う服を着せてあげたいという思いが、さらに強く胸に湧き上がった。

昼を少し過ぎ、銭湯の営業準備をしていると、入り口から「ごめんください」という穏やかな声が聞こえた。その声に胸が軽く跳ねる。聞き覚えのある落ち着いた響きが、いつも以上に心を揺さぶる。

その人が訪れるのは、毎月の初めの月曜日だけ。そして俺が会えるのは、夏休みか冬休みの限られた機会だけだ。遠くて手が届かないけど、だからこそ惹かれる。そんな存在──高嶺の花。その声が聞こえた瞬間、自然と背筋が伸び、息を整える自分がいることに気づいた。胸に広がる期待と緊張が、俺を静かに駆り立てていた。
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