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魔族救出作戦④

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「ここは…!」

「地下牢だよ。危ないし汚いから僕のそばから離れないでねアヅキ。」

 ライヤードに言われて亜月はそっとライヤードに体を寄せた。


(ひどい。)

 地下牢は酷い有様だった。壁には黒いシミがあちこちに飛んでいて、おそらくそれが血痕であることがわかる。長く続く廊下の両側に檻が並んでいて、人を捕らえるための鎖や食事用の汚い皿などが乱雑に散らばっている。

「ここに、魔族の人たちが…?」

 アヅキが困惑しながら聞くと、ライヤードが困ったように微笑みながら頷いた。

「そうだよ。人間はね、魔族をおもちゃにしてるんだ。あいつらよりも美しくて寿命が長くて体が頑丈な生き物を無茶苦茶にいたぶって悦に入るような醜くて腹立たしい生き物なんだよ、人間は。」

「あっ…。」

 笑ってるけど笑っていない。心の底から溢れてくる怒りを何とか押し留めようと笑っているのだ、この人は。

「もちろん全ての人間がそういう奴らじゃないってことは分かってるよ。…だから今まで我慢してやってたんだ。そんな僕たちの努力を無碍にしたのはこいつらなんだよ。」


「ち、近付くな!近付いたらこの魔族の女を殺すぞ!!!」

 先の地下牢から怯えた声が聞こえてくる。そちらを見ると、モルガーンが無表情でオリの中を眺めていた。

「ライヤードさん、モルガーンさんが!」

「見つけたみたいだね。僕たちも行こうか。」

 ライヤードに促されてモルガーンの所まで急ぐ。

「モルガーンさん、大丈夫ですかっ?、っ!!!」

 檻の中を見て、亜月は言葉を失った。

「お、お前らこの女を助けに来たんだろ!逃がさない!逃がさないぞ!この女は俺のものだ!俺が見つけた!俺のもんなんだ!」

「そんな…!」

 そこにいたのは気が狂ったように自分のものだと繰り返す着飾った男。そして年端もいかない少女。

「酷い!!!」

 美しい。その言葉がこれほど似合う女の子はいないと思った。髪も目も白銀色に輝き、唇は血のように真っ赤に染まっている。深雪のよう真っ白な肌に、同じく真っ白なワンピースを身に纏っている。

 その両手両足は無骨な鈍色の鎖が絡みついていた。鎖が巻かれた場所は肌がめくれて血が滴っている。

「あなた、そんな小さな女の子に何をしてるんですか!!!」

 亜月が思わず怒鳴りつけると、着飾った男が「うるさい!」と大声を出す。

「小さい女の子?こいつは魔族だ!魔族は悪い奴らなんだ!だから好きにしていいんだよ!嬲られて殺される奴らだっているのに、俺はこうやって生かしてやってるんだ!優しいだろ?なぁ、だから俺を見ろ!俺を好きになれ!なぁ!どうして!どうして俺を見ない!俺を見ろぉ!!!!」

 汚く唾を吐きながら男が絶叫する。しかし捕えられた少女はそんな男に一切視線を向けない。ただただ1人を見つめていた。

「モルガーン様。」

「…遅くなった。」

「いいえ。時間ピッタリですわ。」

 蕩けるように笑う少女に、モルガーンも満面の笑みを向けていた。
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