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魔王城での療養④

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「だ、ダメです!お、お風呂に一緒に入るなんて!」

「えー、いいでしょ?お風呂ぐらいみんな入ってるよ。」

「入りません!!!」

 私は横抱きのまま、ライヤードさんと空中散歩を楽しんでいた。大きな大きな月を横目に、少し上にあるライヤードさんの整った顔に手を伸ばす。そして、思いっきり頬を引っ張ってやった。

「私言いましたよね!そんなにすぐに次の男の人って切り替えられないって。」

「いだだだだ!分かってるよ。でもアヅキを可愛がっちゃいけないとは言われてないからねぇ。そこは僕の好きなようにさせてもらうよ。だってアヅキを世界一幸せな女の子にするって約束したからねぇ。」

「それも誤解ですって!そもそも私は意識が朦朧としてたから覚えてなくて。」

「僕が覚えてるから大丈夫!」

「ライヤードさんの馬鹿!」

 ライヤードさん、全く人の話を聞いてくれない。

「ほら、そろそろ僕の部屋だよ。お散歩も終わりだ。」

 ライヤードさんの大きくて力強い羽が羽ばたくと、城の最も高い部屋のベランダに降り立った。

「はい、到着。」

「着いたなら降ろしてください!」

「駄目。このままお風呂に行くよ。」

「いや!」

「わがまま言わないの。」

「どっちがわがままなんですか!あのねぇ、さっきから言ってますけど私は!」

「アヅキ。」

「っ!」

 体を降ろされたかと思うと、そのまま抱き寄せられる。顎を親指で優しく撫でられたかと思うと、そのままクイっと上にあげられる。

「僕は魔王だ。魔王はわがままで横暴な存在なんだよ。魔物はね、自分の欲望や快楽のためならなんだってやる生き物なんだ。」

「ひぃん!」

 ベロリと耳を舐め上げられて甲高い悲鳴が口からこぼれでる。慌てて両手で口を塞ぐが、ライヤードさんにはもちろん聞こえてしまっているようで、ニヤリと笑っていた。

「そんな残酷な生き物である魔物が人間たちを襲わないのはね。僕が命令しているからだよ。人間たちに手を出すなって。単に戦争するのがめんどくさかっただけなんだけど。アヅキに会ってから考えが変わったんだ。君を手に入れるために、勇者たちが邪魔になるんだったら僕は容赦なく殺すよ。」

「あっ…。」

 ライヤードさんの緑色の瞳がギラリと輝く。

「一目惚れだよ、アヅキ。魔王である僕に惚れられたんだ。もう諦めてくれ。君が僕のものになるまで、僕は絶対に諦めない。僕の奥さんになってくれるって言うまで、1人ずつ人間を殺していくことだってできるんだ。」

「ライヤードさん…?」

「初恋で最後の恋にしたいんだよ、アヅキ。基本的に魔物は一目惚れしかしないし、たった1人しか愛さない。君が僕を選ばないのなら、僕は一生一人で生きないといけない。」

「一人?」

 一人は駄目だ。悲しくて辛くて死にたくなる。一緒にいて、寄り添って、支え合うような人がいないと。でないと、一人で生きるには人生はあまりにも長いから。



「…私、平凡で何の取り柄もなくて無価値な女ですよ?」

「誰が君にそんなことを言ったのかは後で聞き出すとして。僕に乗っては特別で取り柄ばっかりで価値のある女の子だ。お願いだから僕を選んで。きっと君を幸せにするよ。」

「…まだ選べません。でもそばにいてもいいですか?一人は…つらいから。」

「ありがとう、アヅキ…。」





「あ、キスは駄目。」

「けち。」

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