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第一部

第36話

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「えっと…。」

 突然の質問に何も返すことができずに、曖昧な笑みを浮かべていると、三目君が身を乗り出して詰め寄ってきた。

「だーかーらー、僕を選ぶのか、瀬尾を選ぶのかどっちかという話ですよ。幸尚さんがここまでこころをひらいてくれてるんですから、まさかどっちも選ばないなんてことはないですよね?」

 どこからその自信は湧いてくるのかという気持ちではあるが、間違いなく彼の言う通りだった。どちらも選ばないなんてことはできない。2人が離れていくことなんて想像もしたくない。けれど、どちらかを選ぶと言うことも難しい。どちらかを選んでしまえば、どちらかは自分から去ってしまう。そのことが分かっているから安易に選択することができないのだ。
 自分勝手でワガママなことを言っていることは自分自身が一番分かっている。今まで恋愛なんてこれっぽっちもしてこなかった自分が何を偉そうなことを言われるだろう。それでも、自分を受け入れてくれた、そして強く自分を望んでくれている2人を失うことが何よりも怖いのだ。

「お、俺は…。」

 箸をテーブルに置き、俯いたまま黙っていると、膝の上で握りしめた手を大きな手が優しく包み込んでくれた。急いで顔を上げると、瀬尾君が優しく微笑んでくれていた。

「幸尚さん、俺、待ちます。幸尚さんが俺のことを好きなってくれるまで待ちます。でも、俺はあなたをΩにすることを諦めた訳じゃないです。あなたが、本当に俺のつがいになりたいと思った時に考えてくれればいい。…あなたはΩにはなりたくないと言うかもしれないけれど、でも考えて欲しい。あなたがΩになれば、もう他の人に奪われる心配はしなくていいし、俺自身ももうあなたとしかセックスできなくなる。俺は絶対に他の人とそんなことはしませんが、1つの保険にはなる。どうか、考えてください。」

「瀬尾君…。」

「ちょっと、なんか僕が焦ってるやつみたいに思われるだろ!僕だって待てますよ!あなたが手に入るんだったらいくらででも待ってやる。もっと仕事もバリバリできる男になって、幸尚さんのことをメロメロにしてやるんだから。幸尚さん、俺はβであるあなたをそのまま愛せます。どうかそのことを覚えておいてください。」

 2人の強烈なアプローチに頬が赤く染まる。彼らの気持ちは十分に伝わった。次はこちらの番だ。

「…まだどっちかを選ぶことはできない。もちろん2人のことは好きだ。でもまだどちらかを選ぶほど2人を知らないし、何より選ぶ覚悟もないんだ。…だからもう少しだけ待って欲しい。きっと自分なりの答えを出すから。」

 2人の顔をしっかりと見て答える。真剣な顔で聞いていた2人は、自分の言葉を最後まで聞くと笑顔で頷いてくれた。

「そんなに真面目に考える必要なんてないとは思いますけどね。なんなら2人とも選んじゃうなんて選択肢もある訳ですから。でもまぁ、真面目な幸尚さんらしくていいですね。」

「もちろん待ちますよ。俺はあなたのためならなんでもできるんですから。」

 自分を愛してくれた2人のために真剣に考えよう。そしてちゃんと答えを出そう。騒ぎながらご飯を食べている2人を見て強くそう思ったのだった。

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