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第一部

第23話

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 「おーい、3人で何やってるの?」


 瀬尾君も三目君も、そして自分も何も言うことができずに黙り込んでいると、井上君がひょっこりと顔を出した。そして顔をしかめる瀬尾君とにっこりと笑っている三目君を見て首をかしげる。

「なになに、喧嘩?こんなところで良くないですよ。さぁ、席に戻りましょう。あとの2人も待ってますよ。」


 早く早くと促す井上君に観念したのか、三目君と瀬尾君は渋々後をついて行く。自分もその後について行かないといけないとも思ったが、なんだか今は彼らと顔を合わせたくない。嫌というよりも恥ずかしいという気持ちが勝る。こんな年になってあんなに真っ正面から愛の告白を受けるなんて思ってもいなかった。それにその相手が三目君だなんて。

「ちょっとトイレに!」

 井上君にそう声をかけて、返事も聞かずに急いでトイレの個室へ隠れた。そしてその場にズルズルと座り込む。今になって顔が熱くなってきた。三目君の真剣なまなざし、伝えてくれた思いがだんだんと身体を熱くしていく。

 あんなに瀬尾君に夢中だったのに。瀬尾君のことだけを思って、そして涙を流すくらいに瀬尾君に傷つけられたのに。今では瀬尾君の事は頭の隅にあるだけで、思考は三目君の事で埋め尽くされている。Ωとかβとか関係なく、三目海里として山口尚幸を好きになってくれた。


「あー、こんな年になって情けない・・・。」


 口ではそう言うのに、心はうれしくてたまらないのだ。

 

 

 顔を冷水で洗ってなんとか顔の火照りを冷ました後、笑顔を貼り付けて席に戻った。瀬尾君は相変わらず無言でこちらをじっと見つめてくる一方で、三目君は何ごともなかったかのように、桝田君とビールを飲んで騒いでいる。また飲み過ぎると前回のようにぐでんぐでんになるのではないかとハラハラしてしまう。


「・・・山口さん。」


 すると突然瀬尾君が声をかけてきた。しかしその声はか細くて、三目君たちの声にかき消されてしまいそうだ。


「ん?何、どうしたの?」


 聞こえづらいので、少し瀬尾君の方へと身を乗り出した。

 

「んっ!???」

 
 突然胸元を捕まれて身体を引っ張られる。気付けば自分の唇に瀬尾君のそれが重なっていた。何が起きているのか分からず、固まっていると「おい!」という大きな声とともに後ろに引っ張られる。


「何してんだよ、お前!!」


 引っ張ってくれたのは三目君のようで、鋭い目つきで瀬尾君をにらみつけている。

 

「・・・好きです、幸尚さん!俺の方が、ずっと幸尚さんのことを好きだ!三目なんかよりもずっと!ずっと俺の方が大好きです!あなたの頑張りだってずっと見てきた!俺だけが分かってたのに!俺だけしか知らなかったのに!」

 

「瀬尾君・・・?」

 

 これは夢だろうか。瀬尾君の目尻にうっすらと涙がにじんでいる。顔を真っ赤にしてわめくように告白してくる彼はまるでお気に入りのおもちゃを誰かにとられまいと必死な子供のようだった。

 瀬尾君の豹変ぶりに井上君と持永君は慌てていて、桝田君は今にも瀬尾君に殴りかかろうとする三目君を大きな身体で押しとどめている。初めての合コンだったのに、カオスな状況になってきたなぁなんて現実逃避をしてみるも、現状は変わらない。


「幸尚さん!」
 

「ふぶぅ!」


 視線を遠くに向けていた自分が気に入らないのか、瀬尾君が両手を伸ばしてきて顔を彼の方に向けさせた。涙を流して真っ赤になった瀬尾君の顔を見て、相変わらずイケメンだなぁなんて緊張感のないことを考える。

 

「俺、負けません。三目なんかに負けませんから!あんな俺よりも年下で、俺よりも小さくて、俺よりもお金がない奴になんか負けません!絶対に俺のΩになりたいって幸尚さんの口から言わせて見せますから!」

 

「誰が若造でチビで貧乏だぁ!!」

 

 三目君が瀬尾君に飛びかかろうとするも、必死な形相の桝田君に「落ち着いて!!」と羽交い締めにされて相変わらず動けない。
 恋愛初心者の自分がこんなハーレム状態になったって対応はできない。こんな時はもうどうにでもなれ精神でいこう。目の前にあった先ほど店員さんが持ってきてくれたビールジョッキを手に取る。

 

「あ、ちょ、それビールですよ山口さん!」

 

 三目君の慌てた声を無視して一気にあおった。口いっぱいに苦みが広がって咳き込むと同時に、アルコールで頭がクラクラする。もう酔っ払ってしまおう。争いを繰り広げている三目君と瀬尾君の仲裁なんかできないくらいに。

 

「ビールもう一杯おかわり!!」

「は、はい・・・。」

 自分の勢いに気おされたのか、持永さんと井上君がどもりながらも頷いてくれた。ビールは苦いから味も苦手だし、何より酔いが回りやすいのだ。少し飲んだけで足元がおぼつかなくなってしまう。でも今日はもういい。そう思いながら、二杯目のビールを受け取った。




「ちょっとーーー!いつまれやってるの!!!」

 

「山口さん?」


 そうして案の定、べろんべろんに酔っ払ってしまったのだった。

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