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第一部
第13話
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瀬尾君が作ってくれた朝御飯を食べた後、シャワーを浴びさせてもらった。脱衣場には、自分が昨日着ていた服が洗濯されてきれいに畳まれて置かれていた。今度、瀬尾君にお礼として菓子折のひとつでも渡そうと心に決めて、服を身につけた。
リビングに入ると、瀬尾君はすでに出かける支度を終わらせていた。オフホワイトのシャツにブラックジーンズ。シャツのポケットにはブランドもののサングラスが掛けられている。日本人には似合わない外国人向けのファッションなはずなのに、日本人離れした体格と顔立ちの瀬尾君はまるでモデルのようにきまっている。
「あぁ、ちょうど呼びに行こうと思っていたところでした。俺も準備が終わったのでそろそろでかけませんか?」
「うん、俺ももう大丈夫だから。あと、服洗濯してくれてありがとう。」
ついででしたからと瀬尾君はなんてことはないというように笑う。その朗らかな笑顔が可愛らしい。
「この近くに有名な牧場があるんですよ。馬とか牛とか、山羊とか。乗馬体験もできるみたいです。それにそこの生乳で作ったソフトクリームが絶品だって遠方からでも買いに来るみたいです。ソーセージとか肉類も充実してるみたいですよ。」
いいお土産が買えるといいですねと瀬尾君が話しながら玄関へと促してくれる。
もしかしたら監禁されるかもなんて思っていたこの部屋。おそらくもう二度と来ることはないだろう。せめて目に焼き付けておこうと思い、一度だけ部屋を振り返った後、先に外へと向かった瀬尾君を追った。
瀬尾君の車にまた乗せてもらって出発した。瀬尾君には言わなかったが、実は牧場は大好きなのだ。もともと動物が好きなので、一人で動物園や牧場に行ったことが何回もある。それに加えて牧場でソーセージなどを買うのも堪らなく好きのだ。毎回買いすぎてしまい、実家に持って帰っては「なんで毎回こんなに買うの!」と母親に怒られていた。
本当は瀬尾君が牧場に行くと言った時点で小躍りしたいくらいにうれしかったが、これ以上醜態をさらすのは止めようとなんとか堪えたのだ。
車に乗ってからはソワソワしながら外を眺めている。
「それで、今はどちらにお勤めなんですか?」
「へっ?」
突然瀬尾君が尋ねてきたので、間抜けな返事をしてしまった。
「うちを辞められてからの話ですよ。今はどんなところで働かれているんですか?」
「あー、えーっと、だいたい似たような業界で…。」
似たようなと言ったために瀬尾君が同業他社の会社を何社か挙げてきた。最初は正直に違うと答えていたが、ふと考えて、ここは適当に嘘をついておいた方がいいのではないかと思い付く。彼には自分がまだ同じ会社で働いていることは知られたくない。それに、今日彼と別れたらもう二度と会うつもりはない。
「へぇ、そんなところで働いてたんですか。さすがにそことは思いませんでした。」
「あはは。まぁ、色々あったからね。ところで、牧場ってあとどのくらいかな?」
これ以上この話に突っ込まれるとボロが出てしまうのでら話題を変えることにした。少し急すぎたかなとも思ったが、彼はそれには気づかなかったようで「あと20分ぐらいですよ」と答えてくれた。
「…そんなに楽しみなんですか?」
「いや!そんなことない!そんなことないぞ!」
まだかまだかと待っているのがバレてしまったのか、信号で止まった瀬尾君が口角を少しだけ上げてこちらを見てくる。晴天のためにサングラスを着けた瀬尾君に見つめられるのは心臓に悪い。
「…山口さん、可愛いですね。」
「ひゃっ!」
瀬尾君の手が自分の頬をするりと撫でる。指の背で頬をスリスリと撫でられ、その気持ちよさにビクッと震えてしまう。
「あの、せお、くん…?」
「頬、赤くなってる。」
「っぁ!」
いきなり車内が淫らな雰囲気へと様変わりした。瀬尾君の指が頬から首筋へとおりていく。鎖骨を一撫でしたと思えば、耳の裏をカリカリと擦っていく。大したことをされている訳ではないのに、身体が大きく跳ねる。
「ひいっ!!」
そして、止めと言わんばかりに瀬尾君から濃厚なふぇろもんがあふれでてきた。身体全体を撫で回すように感じるほどの濃い香りが、身体を無理やり発情させてくる。
「やっ、やめて、瀬尾君!」
「ん?何がですか?俺は何もしてないですよ?」
「その、匂い!やだ、やめて!!」
「匂い?あぁ、フェロモンですか?でも山口さんはβなんだからフェロモンの影響はそれほど受けないでしょ?…ほら、こうやっても大丈夫でしょ?」
「いやぁ!!!」
女性のような甲高い悲鳴をあげてしまった。身体の奥深いところから、ドロッと熱い何かが溢れてできた。今まで感じたこともない感覚に、思わず涙が滲んでくる。
「な、なにこれ?やだ、いやぁ!」
意思に関係なく身体が瀬尾君に無理矢理発情させられる。自分でコントロールできず、暴走する自分自身が恐ろしくて堪らない。頭は嫌なのに、身体は欲を求めているのだ。
なすすべもない自分が怖く、瀬尾君の手にすがり付く。
「ははっ、大丈夫ですよ。ほら、もう青ですから。」
「あっ…。」
あんなに濃かったフェロモンか一瞬で霧散する。それと同時に身体の主導権も戻ってきた。あんなに怯えていた恐ろしさもあっという間に消えてしまった。
「今のは…?」
「…きっと疲れてて性欲がたまってるのかもしれませんよ。俺もたまにありますから。」
「そ、そっか!ご、ごめんね!」
「いいですよ。さぁ、着きました。」
やっと牧場についたようで、可愛らしい牛のキャラクターが描かれた看板を目印に駐車場にはいる。一気に楽しみな気持ちが戻ってきた自分は、あっという間に先ほどのことを忘れてしまったのだった。
リビングに入ると、瀬尾君はすでに出かける支度を終わらせていた。オフホワイトのシャツにブラックジーンズ。シャツのポケットにはブランドもののサングラスが掛けられている。日本人には似合わない外国人向けのファッションなはずなのに、日本人離れした体格と顔立ちの瀬尾君はまるでモデルのようにきまっている。
「あぁ、ちょうど呼びに行こうと思っていたところでした。俺も準備が終わったのでそろそろでかけませんか?」
「うん、俺ももう大丈夫だから。あと、服洗濯してくれてありがとう。」
ついででしたからと瀬尾君はなんてことはないというように笑う。その朗らかな笑顔が可愛らしい。
「この近くに有名な牧場があるんですよ。馬とか牛とか、山羊とか。乗馬体験もできるみたいです。それにそこの生乳で作ったソフトクリームが絶品だって遠方からでも買いに来るみたいです。ソーセージとか肉類も充実してるみたいですよ。」
いいお土産が買えるといいですねと瀬尾君が話しながら玄関へと促してくれる。
もしかしたら監禁されるかもなんて思っていたこの部屋。おそらくもう二度と来ることはないだろう。せめて目に焼き付けておこうと思い、一度だけ部屋を振り返った後、先に外へと向かった瀬尾君を追った。
瀬尾君の車にまた乗せてもらって出発した。瀬尾君には言わなかったが、実は牧場は大好きなのだ。もともと動物が好きなので、一人で動物園や牧場に行ったことが何回もある。それに加えて牧場でソーセージなどを買うのも堪らなく好きのだ。毎回買いすぎてしまい、実家に持って帰っては「なんで毎回こんなに買うの!」と母親に怒られていた。
本当は瀬尾君が牧場に行くと言った時点で小躍りしたいくらいにうれしかったが、これ以上醜態をさらすのは止めようとなんとか堪えたのだ。
車に乗ってからはソワソワしながら外を眺めている。
「それで、今はどちらにお勤めなんですか?」
「へっ?」
突然瀬尾君が尋ねてきたので、間抜けな返事をしてしまった。
「うちを辞められてからの話ですよ。今はどんなところで働かれているんですか?」
「あー、えーっと、だいたい似たような業界で…。」
似たようなと言ったために瀬尾君が同業他社の会社を何社か挙げてきた。最初は正直に違うと答えていたが、ふと考えて、ここは適当に嘘をついておいた方がいいのではないかと思い付く。彼には自分がまだ同じ会社で働いていることは知られたくない。それに、今日彼と別れたらもう二度と会うつもりはない。
「へぇ、そんなところで働いてたんですか。さすがにそことは思いませんでした。」
「あはは。まぁ、色々あったからね。ところで、牧場ってあとどのくらいかな?」
これ以上この話に突っ込まれるとボロが出てしまうのでら話題を変えることにした。少し急すぎたかなとも思ったが、彼はそれには気づかなかったようで「あと20分ぐらいですよ」と答えてくれた。
「…そんなに楽しみなんですか?」
「いや!そんなことない!そんなことないぞ!」
まだかまだかと待っているのがバレてしまったのか、信号で止まった瀬尾君が口角を少しだけ上げてこちらを見てくる。晴天のためにサングラスを着けた瀬尾君に見つめられるのは心臓に悪い。
「…山口さん、可愛いですね。」
「ひゃっ!」
瀬尾君の手が自分の頬をするりと撫でる。指の背で頬をスリスリと撫でられ、その気持ちよさにビクッと震えてしまう。
「あの、せお、くん…?」
「頬、赤くなってる。」
「っぁ!」
いきなり車内が淫らな雰囲気へと様変わりした。瀬尾君の指が頬から首筋へとおりていく。鎖骨を一撫でしたと思えば、耳の裏をカリカリと擦っていく。大したことをされている訳ではないのに、身体が大きく跳ねる。
「ひいっ!!」
そして、止めと言わんばかりに瀬尾君から濃厚なふぇろもんがあふれでてきた。身体全体を撫で回すように感じるほどの濃い香りが、身体を無理やり発情させてくる。
「やっ、やめて、瀬尾君!」
「ん?何がですか?俺は何もしてないですよ?」
「その、匂い!やだ、やめて!!」
「匂い?あぁ、フェロモンですか?でも山口さんはβなんだからフェロモンの影響はそれほど受けないでしょ?…ほら、こうやっても大丈夫でしょ?」
「いやぁ!!!」
女性のような甲高い悲鳴をあげてしまった。身体の奥深いところから、ドロッと熱い何かが溢れてできた。今まで感じたこともない感覚に、思わず涙が滲んでくる。
「な、なにこれ?やだ、いやぁ!」
意思に関係なく身体が瀬尾君に無理矢理発情させられる。自分でコントロールできず、暴走する自分自身が恐ろしくて堪らない。頭は嫌なのに、身体は欲を求めているのだ。
なすすべもない自分が怖く、瀬尾君の手にすがり付く。
「ははっ、大丈夫ですよ。ほら、もう青ですから。」
「あっ…。」
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「今のは…?」
「…きっと疲れてて性欲がたまってるのかもしれませんよ。俺もたまにありますから。」
「そ、そっか!ご、ごめんね!」
「いいですよ。さぁ、着きました。」
やっと牧場についたようで、可愛らしい牛のキャラクターが描かれた看板を目印に駐車場にはいる。一気に楽しみな気持ちが戻ってきた自分は、あっという間に先ほどのことを忘れてしまったのだった。
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