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第二章 うけもち様との出会い
第三話
しおりを挟む「あ、あの…。」
眉が濃くて、鼻筋が通り、身長も高い。世間一般で言う男前という感じなんだろうけど、あまりの目つきの悪さににらみ付けられると、恐怖が襲ってくる。
「あぁ?何だよ、はっきり言わねーと聞こえないんだよ。」
咥えていた煙草を人差し指と中指で挟んで、口からふーっと煙を天井に向かって吐く。
「僕は…。」
「あぁ?声が小せぇなぁ。聞こえねーって言ってんだよ!」
「ひぃっ!」
顔を眼前まで寄せられた。その時、男の人の瞳が燃えるような深紅に染まった気がして、僕は小さな悲鳴を上げて、視線を下にそらした。恐ろしいのに、まるで炎のように揺らめいていて、引きずり混まれそうになるほど綺麗だった。
(赤い目の人なんている訳ないよね?なんで!?)
海外の人は目が青いけど、赤なんて聞いたことがない。それはアニメや漫画だけの世界の話だ。
「おいおい、人の顔見て下向いてんじゃねーよ。こーんな男前、そうそういないだろぉ?」
男の人が上から言ってくるけど、怖くて顔を上げられない。またあの目を見てしまったら、目がそらせなくなるような気がするから。
小さく震える僕を見て、興が冷めたのか、男の人がドシンと荒々しい音を立てて僕の横に座る。
「んー?なんだぁ、お前なんか変だなぁ。この村のやつじゃないだろ?どっから来た?」
「ぼ、僕は…。」
顎を捕まれて、うつむきがちな顔を上げさせられた。
「あ、あれ?」
しかし、もう一度男の人の顔を見ると、その目は僕と変わらない黒だった。
「あぁ?なんだよ、人の顔見て表情クルクル変えやがって。変なやつだなぁ。」
「いや、あの目が…。」
「…何て言った?」
「ひぃぃ!」
僕の言葉を聞いて、男の人の雰囲気が一変した。怖いと思っていた先ほどの様子は可愛いもので、今ではまるで化け物のように髪が逆立っているように見える。
「瞳が?何だって?さぁ、言ってみろ。」
「あ、あの、僕は…。」
「お前に、どう見えたか、俺に、教えろ。」
「あ…。」
また男の人の瞳が赤く輝く。至近距離で見つめられ、ぼーっと意識が遠くなっていく。
「なぁ、お前…。」
「おぉ、速!やっと見つけた。なんだ、どっかに行っちょったとか?」
赤い瞳のことを伝えようとした時、奥の部屋からお祖父ちゃんがひょいと顔を出した。その瞬間、無表情だった男の人が一瞬で笑顔に変わった。
「なーんだよ、篤じぃ。来とったとか?」
「おぉう。買い物しようち思っとったら、お前がおらんから探しちょったとよ!いつもここで寝とるから。」
「俺もいつも寝ちょる訳じゃないわ!」
お祖父ちゃんと男の人が2人でゲラゲラと笑い合った。今まで僕と普通に話していたはずなのに、お祖父ちゃんと喋る時はすぐに方言へと切り替わった。
「んじゃ、こいつは篤じぃの子どもか?」
「馬鹿ぁ言うな。俺にこんな小さい子どもがおる訳ないやろ?孫じゃ孫!俺の所でしばらく預かることになったとよ。朝穂、この柄の悪りぃ、男がこの店やっちょる佐野速(さの・はやみ)っていう奴じゃ。何かほしいもんある時はここに来ればええぞ。」
「ほぉ、じぃの孫ねぇ。」
「あ、朝穂です。よろしくお願いします。」
僕は速さんの顔を見ないようにして頭を下げて挨拶をした。すると速さんはその大きな手を僕の頭に乗せてわしゃわしゃとかき乱す。
「あ、ちょっと!」
「よろしくな。いつでも来い。待ってる。」
「ひっ!」
声を聞いて顔を上げると、速さんは凶悪な笑みを浮かべていた。
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