死にかけたらご褒美がありました

第一章

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「な、なんで不破さんがここに！」

　驚きのあまり、少しだけ吹きこぼしてしまったお酒をおしぼりで拭く。すると、さらに不破さんは「ここ、拭けてないぞ。」と言って、私が手に持っていたおしぼりを手に取り、頬を拭いてくれた。

「まさかこんな所で千佳子に会うとは思わなかったな。」

「あははー。」

　それはこっちの台詞だ。まさか、舞のお店で会う事になるなんて想像もしていない。

「千佳子、知り合いなの？」

　私たちのやりとりをしばらく黙って見ていた舞が尋ねてくる。

「挨拶が遅れました。不破と言います。今、俺が千佳子さんにアタックしているところなんですよ。なかなかなびいてくれなくて困ってるんです。」

「ちょ、何を！」

　不破さんが舞に向かって笑顔で話す。舞は「まぁ！」と大げさな程に驚いた後、私の方を向いてニヤニヤしている。

「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ありません。このお店をやってます松田と言います。ちょっと千佳子、そんな人がいたなんて聞いてないわよ。さては不破さんと待ち合わせでもしてたから、そんなオシャレしてきたの？」

「ち、違うってば！」

　自分の服装の話題を持ち出されて、顔が赤くなってしまう。

「照れなくていいわよ。ちょっとお通し出してくるから待ってて。」

「あっ……！」

　ヒラヒラと手を振って、舞は奥の部屋へと消えていき、不破さんと二人っきりになってしまった。

「あ、あの……。」

「……誰か他の男と会う予定だったのか？」

「へ？」

　私の隣の席に腰を下ろした不破さんが、顔を近くまで寄せてくる。しかし、無表情で、まるで怒っているかのようだ。最初は言葉の意味が分からなくてほうけてしまったが、まるでキスできるぐらいまで不破さんの顔が迫ってきて、慌てて上半身を後ろに反らした。

「俺以外の誰かとそんな可愛い格好で会うつもりだったのか？」

「可愛い格好って……。」

　確かに今日はちょっとだけオシャレをしている。舞に久しぶりに会うので、鎖骨まで見えるネイビーのニットにオフホワイトのプリーツスカート、ピンクのパンプスにベージュのカーディガンを合わせ、髪をお団子にまとめている。メイクだってしっかり時間をかけてきた。しかし、それに男性は全く関係ない。

「違いますよ！別に会う予定の人なんかいないです！一人で飲みたくなっただけですよ。友達が店を出したとは聞いていたんですけど、仕事が忙しくてずっと行けてなかったんです。」

「そうなのか？」

「そうですよ！それに私が会いたいって思う男の人は今のところ不破さんだけです！」

「あら！」

「ほぉ……。」

　私の台詞の後に、かわいらしい声が聞こえてくる。声のした方を見ると、舞がわざとらしく口に両手を当てて笑っている。一方で、不破さんは満足げに頬杖をついてにやついてた。

「千佳子がそんな大胆なことを言うなんて……。大人になったのねぇ。」

「俺だけか、それはうれしいなぁ。」

　自分が発した言葉の意味をやっと理解して赤くなる。いつまでたってもからかうことを辞めない二人を前にうつむいていると、「不破さん？」と奥から、一人の男性が出てくる。「あぁ、新名すまん、。すぐに行く。」

　私の隣にいた不破さんが立ち上がる。奥の部屋に行くのかと挨拶しようとした時。

「まだ帰るなよ、千佳子。」

「きゃ！」

　不破さんが耳元で囁いた後、後ろ手に手を振って奥に消えていった。

「うわぁ……、イケメン。」

　それを見た舞は顔を赤くして身もだえていた。