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アリシア

第16話

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「くそっ!こんなことになるとは!」

 ミリアンネが顔を歪ませて舌打ちをする。抵抗するように体を揺らすが、セレーナに「それ以上動いたら喉を掻き切ります。」と低い声で囁かれ、ピタリと動きを止めた。

「よし、いい判断だ女王。さてと、アリアネス。悪いがこれを外してもらえるか?」

「あっ!そうでしたわ。申し訳ありません!」

 アリアネスがギロチン台の固定具を引きちぎる。

「あーー!体が痛ぇわ。地下牢で過ごしたのなんて何十年ぶりだった。」

 ラシードがグンっと背伸びをしてニカッと笑う。いつもは軍服を着て、髪もしっかりと整えているラシード。今は髪も乱れ、服も粗末なものを着ている。しかし、そんな粗野な姿に、アリアネスは逆にときめいてしまった。

「ラシード様、かっこいいですわ…。」

 ポーッと顔を赤くしてラシードに見惚れるアリアネス。ラシードはニヤリと笑ってそんなアリアネスを抱き寄せた。

「んー?子猫ちゃんはワイルドな俺の方が好きなのか?」

「いえ、ワイルドなラシード様もフォーマルなラシード様もどちらも素敵です。」

「随分も素直だなぁ。ご褒美だ…。」

 ラシードの顔がアリアネスに近付いてくる。アリアネスはうっとりとして目をゆっくり閉じる。









「こんなところでイチャイチャしている場合か!」

 そんなアリアネスの頭に鋭い手刀がお見舞いされた。

「きゃっ!だ、誰ってキウラ!?」

 頬を赤くしながら怒っているのはキウラだった。前会った時よりも髪型伸びていて、少し女らしくなったような気がする。しかし、その腕前は衰えておらず、ギロチン台に登ってこようとする騎士たちを何人も下に吹き飛ばしている。

「全く!やっと元に戻ったと思ったら早速ラシード様とイチャイチャしおって!そんなことをさせるために私は命を賭けてこんな所まで来たわけじゃないんだぞ!」

 そう吠えながら、キウラがアリアネスに剣を放り投げる。それを難なく受け取ったアリアネスだったが、豪華なドレスに足が引っ掛かり顔を顰める。それひ気付いたセレーナが「お待ちください、お嬢様。」と声をかけるも時すでに遅し。

「邪魔ね、これ。」

 ドレスの裾を持ち上げると剣を使って長さを短くし、さらにビリビリの太ももの辺りまで引き裂いた。

「…これも、邪魔。」

「そうか?俺は長いのも好きだぞ?」

 緩く巻かれた自分の長い髪を束ねて持ったアリアネスの手にラシードの手が重ねられる。

「あら、こんな髪だとこの難局を乗り切れませんわ。」

「ははっ!そうだな。どんな髪でも俺の子猫ちゃんは綺麗だ。短い髪型似合うウェディングドレスを仕立てよう。」

 そう言ってラシードがアリアネスを再び抱き寄せる。


「愛してるぞ、アリアネス。国に帰ったら結婚してくれ。」

 アリアネスが目尻に涙を浮かべながら頷く。それを見て、ラシードが優しくキスをしながらアリアネスの長い髪を自分の剣で切り落とす。

 ハラハラとアリアネスの美しい髪が風に飛ばされた。




「さぁ、ここが正念場だ。踏ん張れよ、お前ら。」


 ラシードの声に、アリアネスたちは威勢の良い声で返事をしたのだった。
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