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アリシア
第5話
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「さぁ行こうかアリシア。」
ミリアンネとお茶をしながら雑談していたアリシアを、正装に身を包んだリィルが迎えにきた。
「おや、もうそんな時間か?もっとアリシアとの時間を楽しみたかったが。」
ミリアンネが名残惜しそうにアリシアの手を優しく握る。アリシアは微笑み返してミリアンネの手の上からもう片方の自分の手を重ねた。
「これからいくらだって話す時間はあるわ。私との雑談よりもあなたの体を休める時間を優先してちょうだい、ミリアンネ。」
「ふふ。君には敵わないね、アリシア。分かったよ、パーティーの時間まで少し体を休めることにしよう。」
ミリアンネの言葉にアリシアは小躍りせんばかりに喜んだ。
「良かった!あなたが休んでくれるなら私も安心してリィルと一緒に行けるわ。ミリアンネが登場するのはパーティーの後半だから、それまで眠っておいてね。」
アリシアはリィルが差し出してくれた手を取って立ち上がる。そしてミリアンネに手を振ると2人で部屋を出て行った。
「…王女たちとは何を話していたんだ?」
パーティー会場の大広間に向かっていると、リィルが尋ねてくる。
「ふふ。あなたと結婚したら幸せになれるって話よ。あなたはか弱い私をきっと守ってくれるって。」
「…もちろん守るよ。どんなものからも君を守ってみせる。君は儚い俺だけの婚約者なんだから。」
「ふふ、ありがとう。強いあなたが守ってくれるなら何の心配もないわね。…私は女で弱いから守ってくれると言ってもらえると本当に嬉しいわ。」
「…アリシア。」
「リィル?」
アリシアがにっこり笑いながら話す。しかし、なぜかリィルは苦しそうな顔でアリシアの頬に手を当てる。
「君は…!」
「…失礼、騎士団長。パーティーの前にお話したいことが。」
リィルが何かを話そうとした時。廊下の影から騎士が声をかけてくる。リィルは大きな舌打ちをして「後にしろ」と命令するが騎士が「今すぐにと、彼の方が。」と食い下がると大きなため息をついた。
「アリシア、すまない。すぐに戻るから、少し待っていてくれるか?」
「えぇ、大丈夫。」
「すまない。…行くぞ。」
アリシアの頭にキスをして、リィルが足早に去っていく。アリシアは廊下に佇んでいたが、手持ち無沙汰になり、長い廊下に点在するバルコニーに出てみることにした。
「わぁ、綺麗な夜空…。」
夜になって満天の星が輝いている。夜に外へ出ることの少ないアリシアは目を輝かせて夜空を眺める。しかし夜の冷えた空気に当てられ、くしゅんと小さなクシャミをしてしまった。
「寒いわね…。いつも夜は部屋にいるから分からなかったけれど。」
冷えた夜を感じるのはこれがはじめてだろうか。
身を刺すような、凍えるような空気をこの体は知っているのに。
「…一体何なのよ!」
ずっと感じる違和感にアリシアはとうとう頭を抱えてうずくまる。
「お嬢様。」
「え?」
突然頭上から声をかけられる。アリシアがしゃがみ込んだまま顔を上げると、バルコニーの手すりに器用に立っている美しい女性がいた。月を背に、それはそれは嬉しそうに笑っている。
「アリアネス様。お久しぶりにございます。」
月が似合うその女性は、美しいカーテンシーでアリシアを魅了した。
ミリアンネとお茶をしながら雑談していたアリシアを、正装に身を包んだリィルが迎えにきた。
「おや、もうそんな時間か?もっとアリシアとの時間を楽しみたかったが。」
ミリアンネが名残惜しそうにアリシアの手を優しく握る。アリシアは微笑み返してミリアンネの手の上からもう片方の自分の手を重ねた。
「これからいくらだって話す時間はあるわ。私との雑談よりもあなたの体を休める時間を優先してちょうだい、ミリアンネ。」
「ふふ。君には敵わないね、アリシア。分かったよ、パーティーの時間まで少し体を休めることにしよう。」
ミリアンネの言葉にアリシアは小躍りせんばかりに喜んだ。
「良かった!あなたが休んでくれるなら私も安心してリィルと一緒に行けるわ。ミリアンネが登場するのはパーティーの後半だから、それまで眠っておいてね。」
アリシアはリィルが差し出してくれた手を取って立ち上がる。そしてミリアンネに手を振ると2人で部屋を出て行った。
「…王女たちとは何を話していたんだ?」
パーティー会場の大広間に向かっていると、リィルが尋ねてくる。
「ふふ。あなたと結婚したら幸せになれるって話よ。あなたはか弱い私をきっと守ってくれるって。」
「…もちろん守るよ。どんなものからも君を守ってみせる。君は儚い俺だけの婚約者なんだから。」
「ふふ、ありがとう。強いあなたが守ってくれるなら何の心配もないわね。…私は女で弱いから守ってくれると言ってもらえると本当に嬉しいわ。」
「…アリシア。」
「リィル?」
アリシアがにっこり笑いながら話す。しかし、なぜかリィルは苦しそうな顔でアリシアの頬に手を当てる。
「君は…!」
「…失礼、騎士団長。パーティーの前にお話したいことが。」
リィルが何かを話そうとした時。廊下の影から騎士が声をかけてくる。リィルは大きな舌打ちをして「後にしろ」と命令するが騎士が「今すぐにと、彼の方が。」と食い下がると大きなため息をついた。
「アリシア、すまない。すぐに戻るから、少し待っていてくれるか?」
「えぇ、大丈夫。」
「すまない。…行くぞ。」
アリシアの頭にキスをして、リィルが足早に去っていく。アリシアは廊下に佇んでいたが、手持ち無沙汰になり、長い廊下に点在するバルコニーに出てみることにした。
「わぁ、綺麗な夜空…。」
夜になって満天の星が輝いている。夜に外へ出ることの少ないアリシアは目を輝かせて夜空を眺める。しかし夜の冷えた空気に当てられ、くしゅんと小さなクシャミをしてしまった。
「寒いわね…。いつも夜は部屋にいるから分からなかったけれど。」
冷えた夜を感じるのはこれがはじめてだろうか。
身を刺すような、凍えるような空気をこの体は知っているのに。
「…一体何なのよ!」
ずっと感じる違和感にアリシアはとうとう頭を抱えてうずくまる。
「お嬢様。」
「え?」
突然頭上から声をかけられる。アリシアがしゃがみ込んだまま顔を上げると、バルコニーの手すりに器用に立っている美しい女性がいた。月を背に、それはそれは嬉しそうに笑っている。
「アリアネス様。お久しぶりにございます。」
月が似合うその女性は、美しいカーテンシーでアリシアを魅了した。
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