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アリシア
第2話
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「わぁ、本当に美しく磨き上げてくれたわね。」
アリシアは鏡の前に立ち、メイドたちが着飾ってくれた自分の姿を眺める。ピカピカになった褐色の肌にまとっているのは、真っ白なマーメイドドレス。首元と両腕の部分は総レースになっている。ドレスと同じレースが貼り付けられたヒールとヘッドドレス。まるで花嫁のような美しい姿に、周りにいるメイドたちはほぉっと感嘆のため息をついた。
「リィル様からのプレゼントのドレス、本当に素敵です。これがウェディングドレスでも十分なのに、結婚式のために新しいドレスを作られてるんですよね?アリシア様って本当にリィル様に愛されてますね。」
「そう…ね。」
アリシアが控えめに微笑む。その表情を見たメイド長は「ほらほら、そろそろ夕飯の支度をする時間よ。」と言って年若いメイドたちを部屋から追い出した。そしてアリシアに向き直ると、一礼をする。
「アリシア様は少しお疲れのご様子。リィル様のご到着まで、しばらく時間がございます。…お茶程度ならお腹もそこまで膨れません。準備して参ります。」
メイド長の気遣いに、アリシアは優しく微笑む。
「ありがとう。少し休みたいと思っていたところなの。お願いしてもいいかしら?」
「もちろんでございます。気持ちが落ち着くハーブティーを準備してまいります。」
メイド長が部屋を出ていくと、アリシアは部屋のソファに腰を下ろした。ドレスに皺がよらないように、ピンと背筋を正したまま、窓から外を見る。準備をしている間に、もう夕方になってしまっている。あと1時間ほどすれば婚約者であるリィルが馬車で迎えにきてくれるはずだ。
「結婚…するのね、私。」
アリシアが小さく呟く。
リィルとは幼い頃から結婚することが決められていた。この国の女王であるミリアンネの従姉妹である自分と、家柄もよく、この国の騎士団長になったリィル。これ以上ない婚姻だ。ミリアンネもこの結婚を祝福してくれており、恐れ多くも結婚式に参列してくれる予定になっている。
全て上手くいっている。
「私、幸せになるのよね…。」
リィルからは結婚したら家庭に入って家を守ってほしいと言われている。マゴテリアの王家の血筋として蝶よ花よと育てられたアリシアは働きに出たことはない。これからはリィルのためにひたすらに尽くす日々が始まる。
家事は全てメイドがやってくれる。アリシアがすることはリィルの望み通りに彼を愛して生きること。そしていずれは子供を産むこと。
「リィルのために生きることが私の幸せなのよね。」
アリシアはいつも感じている小さな違和感を心の奥にしまい込んだ。
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「ありがとう。少し休みたいと思っていたところなの。お願いしてもいいかしら?」
「もちろんでございます。気持ちが落ち着くハーブティーを準備してまいります。」
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