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マゴテリアへ
第29話
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「どうしてアリアネスを置いていった、ファニアぁ!!」
「っ落ち着いてください、騎士団長!」
ロヴェルとファニアの力によって、オルドネアの領土内の森に転移したラシードは激高していた。今にもファニアに殴りかかりそうになるのをアルフォンソとザガルードが必死に止めている。しかし、そんな2人の努力の甲斐なく、ファニアはラシードを煽るようにせせら笑った。
「どうして?はっ!騎士団長ともあろう人がそんなことも分からないの?これじゃあアリアネスも浮かばれないわね!」
「お前ぇ!!!」
ラシードの目がすわり、剣に手を伸ばそうとする。
「やめてください、ラシード様!」
アルフォンソが顔を青くしながらさらに力を込める。
「クソ!ラシード落ち着け!」
ザガルードも声を張り上げた。
「いい加減にしろ!」
そんなラシードの頬を平手打ちしたのはキウラだった。ラシードの野生の獣のような瞳がキウラに向けられるが、キウラは一切怯まなかった。
「騎士団長!アリアネスはこんなことを望むと思うのですか!彼女は国のため、なにより貴方のためにマゴテリアに赴いた。そんな彼女が私たちがこんなところで揉めることを望んでると!!!」
「っ!」
言葉を詰まらせ黙り込んだラシードを見て、キウラは今度はファニアの頬を引っ叩く。
「あなたも!こんな状況で喧嘩を売るような真似をするな!我々は敗北した!気がたつのは分かるが、今はそんなことをしてる場合じゃないだろう!」
「…そう…ね。ごめんなさい。」
小さく呟いたファニアがその場に尻餅をつく。
「っファニア!」
ラシードが慌ててファニアに駆け寄ると、その顔を真っ青になっていた。
「お前…。」
「えへ。妖精王ともあろう私が情けない話よ。貴方たちをここまで運ぶのが精一杯ってね。…ごめんなさい、ラシード。あなたに八つ当たりをしたわ。アリアネスも連れて行きたかった。けれど、ミリアンネが放った黒い光はバライカの力なの。あの黒い力は彼女の中に根を張ってしまっていた。アリアネスを一緒に連れてくれば私たちの居場所はすぐにバレてしまうわ。」
「そうか…。」
ラシードも力無くその場にすわりこむ。
「ははっ!俺もお前と一緒さ!騎士団長がなんて様だ!愛する女の1人も守れやしねぇ!」
泣き笑いのような表情のラシードが拳を地面に叩きつける。
「くそ!くそ!くそぉ!!」
ラシードが慟哭する。
「それではみなさん、私はこれで。」
可愛らしい女の声が凛と響いた。
「マリアさん…?」
力を使い切って地面に倒れ込むロヴェルが自分達に頭を下げるマリアを見る。
「ここまで連れて来てくださってありがとうございました。でも、私はオネオンを助けに行きます。」
「っ!お前、状況が分かってるのか!このままマゴテリアに戻っても兵士に見つかれば殺されるかもしれたいんだぞ!」
ザガルードが怒鳴るが、マリアはにっこり笑って首を横に振る。
「それでも行きます。私はオネオンの妻なんです。私が彼を助けるの。そう決めたの。」
「お前…。」
覚悟の決まったマリアの瞳にザガルードが気圧される。
「みなさんはオルドネアに戻ってください。…きっとみなさん、地位のある方々なんですよね?なんとなく分かってました。田舎者の私とは違うから。…失うものが何もない私は怖いものなんてないんです!きっとオネオンとアリアネスさんを助け出して見せます!大丈夫です!オネオンもアリアネスさんもあんな奴らに負けません!だって2人ともとっても強いんだから!」
ぐんっと拳を握りしめるマリア。
「は!はっはっはっ!そうだ!そうだな!俺の子猫ちゃんは強い女だ!」
高らかに笑ったラシードが勢いよく立ち上がる。
「こんな情けない姿、アリアネスには見られたら騎士団長の座を奪い取られちまう!」
そう言って座り込むファニアに手を差し伸べる。
「ファニア。まだ俺に協力してくれるか?」
ファニアはラシードを眩しそうな目で見つめるとにっこりと笑った。
「当たり前よ。だって私はあなたに加護を与えた妖精王なんだから。」
「マリアって言ったか?すまなかったな。…あんただけにいい格好させる訳にはいかねーんだよ。アリアネスは俺が助け出す。なんたって俺はあいつの婚約者なんだからな。」
「元婚約者です。」
「…まだ怒ってるのかお前。」
すかさず訂正したのはセレーナだった。スカートについた土埃を払って姿勢を正すと、美しいカーテンシーを見せる。
「ラシード様。私しばしお暇をいただきます。」
「…行くのか?」
ラシードが静かな声で聞く。
「はい。1人、敵国に情報収集できる者がいた方が都合がよろしいでしょう?…それに私はこれ以上お嬢様から離れたくありません。」
「…頼めるか?」
「お嬢様のためなら。」
セレーナがもう一度頭を下げて、踵を返そうとする。
「セレーナさんが行くなら俺も行かないとですよね。」
セレーナの手を掴んだのはロヴェルだった。
「っお前が来ても足手まといだ!」
「でも俺はセレーナさんの近くにいないと力が出せないんです。ファニア、いいよね?」
ロヴェルがニヤリと笑うとファニアはため息をついて手を振る。
「私がダメって言ったって行くんでしょ?妖精の力があった方がセレーナも何かと役立つわ。どうかその未熟者を連れていってあげて。」
「そんな!私は1人で!」
「はいはい、セレーナさん!行きますよ!」
「離せぇ!」
ギャアギャアと喚きながら、ロヴェルとセレーナが森の中に消えていく。
「さぁて、まずは一度城に戻って体制を立て直すぞ。」
ラシードが指示して出発しようとした時。ファニアが突然立ち止まる。
「ファニア?」
「ラシード、悪い知らせよ。オルドネアの王都がマゴテリアの攻撃を受けた。本格的な戦争が始まったわ。」
オルドネア帝国建国1000年の節目に、マゴテリアとの全面戦争が始まろうとしていた。
「っ落ち着いてください、騎士団長!」
ロヴェルとファニアの力によって、オルドネアの領土内の森に転移したラシードは激高していた。今にもファニアに殴りかかりそうになるのをアルフォンソとザガルードが必死に止めている。しかし、そんな2人の努力の甲斐なく、ファニアはラシードを煽るようにせせら笑った。
「どうして?はっ!騎士団長ともあろう人がそんなことも分からないの?これじゃあアリアネスも浮かばれないわね!」
「お前ぇ!!!」
ラシードの目がすわり、剣に手を伸ばそうとする。
「やめてください、ラシード様!」
アルフォンソが顔を青くしながらさらに力を込める。
「クソ!ラシード落ち着け!」
ザガルードも声を張り上げた。
「いい加減にしろ!」
そんなラシードの頬を平手打ちしたのはキウラだった。ラシードの野生の獣のような瞳がキウラに向けられるが、キウラは一切怯まなかった。
「騎士団長!アリアネスはこんなことを望むと思うのですか!彼女は国のため、なにより貴方のためにマゴテリアに赴いた。そんな彼女が私たちがこんなところで揉めることを望んでると!!!」
「っ!」
言葉を詰まらせ黙り込んだラシードを見て、キウラは今度はファニアの頬を引っ叩く。
「あなたも!こんな状況で喧嘩を売るような真似をするな!我々は敗北した!気がたつのは分かるが、今はそんなことをしてる場合じゃないだろう!」
「…そう…ね。ごめんなさい。」
小さく呟いたファニアがその場に尻餅をつく。
「っファニア!」
ラシードが慌ててファニアに駆け寄ると、その顔を真っ青になっていた。
「お前…。」
「えへ。妖精王ともあろう私が情けない話よ。貴方たちをここまで運ぶのが精一杯ってね。…ごめんなさい、ラシード。あなたに八つ当たりをしたわ。アリアネスも連れて行きたかった。けれど、ミリアンネが放った黒い光はバライカの力なの。あの黒い力は彼女の中に根を張ってしまっていた。アリアネスを一緒に連れてくれば私たちの居場所はすぐにバレてしまうわ。」
「そうか…。」
ラシードも力無くその場にすわりこむ。
「ははっ!俺もお前と一緒さ!騎士団長がなんて様だ!愛する女の1人も守れやしねぇ!」
泣き笑いのような表情のラシードが拳を地面に叩きつける。
「くそ!くそ!くそぉ!!」
ラシードが慟哭する。
「それではみなさん、私はこれで。」
可愛らしい女の声が凛と響いた。
「マリアさん…?」
力を使い切って地面に倒れ込むロヴェルが自分達に頭を下げるマリアを見る。
「ここまで連れて来てくださってありがとうございました。でも、私はオネオンを助けに行きます。」
「っ!お前、状況が分かってるのか!このままマゴテリアに戻っても兵士に見つかれば殺されるかもしれたいんだぞ!」
ザガルードが怒鳴るが、マリアはにっこり笑って首を横に振る。
「それでも行きます。私はオネオンの妻なんです。私が彼を助けるの。そう決めたの。」
「お前…。」
覚悟の決まったマリアの瞳にザガルードが気圧される。
「みなさんはオルドネアに戻ってください。…きっとみなさん、地位のある方々なんですよね?なんとなく分かってました。田舎者の私とは違うから。…失うものが何もない私は怖いものなんてないんです!きっとオネオンとアリアネスさんを助け出して見せます!大丈夫です!オネオンもアリアネスさんもあんな奴らに負けません!だって2人ともとっても強いんだから!」
ぐんっと拳を握りしめるマリア。
「は!はっはっはっ!そうだ!そうだな!俺の子猫ちゃんは強い女だ!」
高らかに笑ったラシードが勢いよく立ち上がる。
「こんな情けない姿、アリアネスには見られたら騎士団長の座を奪い取られちまう!」
そう言って座り込むファニアに手を差し伸べる。
「ファニア。まだ俺に協力してくれるか?」
ファニアはラシードを眩しそうな目で見つめるとにっこりと笑った。
「当たり前よ。だって私はあなたに加護を与えた妖精王なんだから。」
「マリアって言ったか?すまなかったな。…あんただけにいい格好させる訳にはいかねーんだよ。アリアネスは俺が助け出す。なんたって俺はあいつの婚約者なんだからな。」
「元婚約者です。」
「…まだ怒ってるのかお前。」
すかさず訂正したのはセレーナだった。スカートについた土埃を払って姿勢を正すと、美しいカーテンシーを見せる。
「ラシード様。私しばしお暇をいただきます。」
「…行くのか?」
ラシードが静かな声で聞く。
「はい。1人、敵国に情報収集できる者がいた方が都合がよろしいでしょう?…それに私はこれ以上お嬢様から離れたくありません。」
「…頼めるか?」
「お嬢様のためなら。」
セレーナがもう一度頭を下げて、踵を返そうとする。
「セレーナさんが行くなら俺も行かないとですよね。」
セレーナの手を掴んだのはロヴェルだった。
「っお前が来ても足手まといだ!」
「でも俺はセレーナさんの近くにいないと力が出せないんです。ファニア、いいよね?」
ロヴェルがニヤリと笑うとファニアはため息をついて手を振る。
「私がダメって言ったって行くんでしょ?妖精の力があった方がセレーナも何かと役立つわ。どうかその未熟者を連れていってあげて。」
「そんな!私は1人で!」
「はいはい、セレーナさん!行きますよ!」
「離せぇ!」
ギャアギャアと喚きながら、ロヴェルとセレーナが森の中に消えていく。
「さぁて、まずは一度城に戻って体制を立て直すぞ。」
ラシードが指示して出発しようとした時。ファニアが突然立ち止まる。
「ファニア?」
「ラシード、悪い知らせよ。オルドネアの王都がマゴテリアの攻撃を受けた。本格的な戦争が始まったわ。」
オルドネア帝国建国1000年の節目に、マゴテリアとの全面戦争が始まろうとしていた。
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