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第6話

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「どういうつもりだ、キウラ!」 

 アルフォンソがキウラに詰め寄るが、キウラは表情を変えず「お願いいたします」と頭を下げて懇願し続ける。その態度にアルフォンソはさらに苛立って大声で怒鳴った。

「どういうつもりだと聞いているんだ!これまで散々努力してきたじゃねーか!まさか今回のことに責任感じてんのか?」

 アルフォンソの言葉にキウラが気まずそうに返事をする。

「…それもあります。騎士団の小隊長、…もう元小隊長ですが。そんな身分でありながら敵にいいように操られるなど第10支団の恥です。」

「そのことについては口止めをして、ここにいる人間しか知らない。あとはお前が仕事で挽回してくれれば、元のポジションに戻れるんだぞ!」

 アルフォンソが必死に説得するが、キウラは決して首を縦に振らなかった。

「お許しください、アルフォンソ様。私の最後の願いです。この騎士団で生き恥をさらしたくはないのです。」

「ふざけるな!俺の右腕になるんじゃなかったのか!」

「アルフォンソ様…。」 

 キウラが困った顔でアルフォンソを見上げる。アルフォンソはまるで親に捨てられる子のように、駄々をこねる幼子のようにキウラに縋っていた。

「俺を置いていくのか!」



「いい加減にしなさい。いい大人がみっともないですわ。」

 言い分が平行線でまったく話が進まない二人をアリアネスが制した。

「キウラ。本当の目的を離さなければ、アルフォンソ支団長は決して納得されませんわよ。」

「…。」

「本当に目的?」

 アリアネスの言葉にアルフォンソがキウラに問いかけるが、キウラは黙ったままだ。

「…マゴテリアに侵入して、バライカから加護を受けた人間を探し出すつもりだろ。」 

 ラシードの言葉にキウラの体がビクッと震えた。

「っ!」 

 アルフォンソは「なんだと!」と言ってキウラの両肩を握って揺さぶった。

「お前がマゴテリアに行く必要はない!ほかの騎士が!」

「でもキウラほどの手練れはなかなかいねーな。ほかの騎士団の奴らはお貴族様の腑抜け野郎だ。命令されてもなんやかんや理由をつけて辞退するのがオチだな。」

「それなら俺が!」 

「お前は第10支団の支団長だろ。お前がいなくなって誰がこの団をまとめんだ。いい加減にしろ!」

 ラシードの厳しい声にアルフォンソがぐっと黙りこむ。その様子を見たキウラがアルフォンソにそっと寄り添い、力なく垂れたアルフォンソの手に自分の手を重ねた。

「支団長。あなたのおかげで私は強くなることができた。あなたに追いつこうと努力を続けたおかげで、この国の人々を守れるぐらい強くなれました。私はこの国の人々を守りたい。その中にはあなたも入っています。私は任務を任せられないような貧弱な女ですか?」 

「そんなことはない!」

 アルフォンソが悲鳴のような声を出す。

「でしたらどうか私にこの任務をまかせてください。大丈夫です。あなたに鍛えてもらいましたから。必ず任務を成功させて帰ってきます。だからそれまで、この国を守っていてください。私が帰ってくる場所を。」

「くっ!」 

「アルフォンソ様…?」

「くそぉ!」

「きゃ!」

 キウラが愛らしい小さな悲鳴をあげた。アルフォンソに力強く抱きしめられたからだった。

「必ず!必ず帰ってこい!帰ってこないと承知しねーぞ!」

「…はい。」

 キウラが頬を赤く染め、こくりとうなずく。

「よーし、一件落着だな。それじゃあキウラに任務の説明を…。」

「あ、わたくしにもお願いいたしますわ。」

「は?」

 ラシードがいそいそとキウラに話をしようとすると、アリアネスがシュバっと勢いよく手を上げた。ラシードが呆けた顔でアリアネスを見つめる。

「ですからわたくしにも任務の説明をお願いいたします。」

「おっ、お前!何言ってるんだ!!」

 ラシードが焦ってアリアネスを抱き寄せる。

「おいおい、子猫ちゃん。頼むからふざけたことは考えないでくれよ。この任務につくのはキウラだ。」

「それとわたくしとセレーナですわ。」
 
 アリアネスが早くしてくれとでも言うように、ラシードの腕の中で体を捩る。

「アリアネス!これは遊びじゃない!敵国に行けば俺はもうお前を守ってやれないんだ!頼むから意固地になるな!」

「わかっております。」

 アリアネスがラシードの抱擁からそっと逃れ、泣きそうな顔をするラシードの顔をまっすぐ見る。

「あなたの妻になるためもっと強くならねばならないのです。わたくし、バライカが現れた時、恐怖で一歩も動けませんでした。こんなことでは、あなたに何かあった時にすぐに動くことができません。」

「元妖精王が襲ってくるなんてことは早々ねーだろ!」

「いえ、わたくし自分が許せませんの!あの元妖精王を再起不能になるまでボコボコにしないと気が済みませんわ!!」

「また変なスイッチが入ったか…。」

 きらきらと目を輝かせるアリアネスの表情を見て、ラシードがあきらめたように天井を仰ぎ見る。

「マゴテリアに行けば、妖精の攻撃も受けることになる。」

「わかっております。ですからわたくしも妖精の加護を受けようかと。ミストレイアあたりに頼んで…。」 

「ミストレイアではバライカ達には対抗できません。せめて私程度の力を持つ妖精でないと。」 

 ファニアが話に入ってくる。 

「でもわたくしそんな知り合いは…。」
「おりますわ。あなたの近くに私に匹敵する力を持った妖精が。」

「え?」

「さぁ、入ってらっしゃい。」








「セレーナさん、アリアネス様。お元気そうでなによりです!」



はにかみながら部屋に入ってきたのはロヴェルだった。

「こ!こいつが妖精だと!!」

 セレーナがわなわなと震えながらロヴェルを指差す。 

「そうなんですよ、セレーナさん。俺のこと見直してくれましたか?」

 にっこりと笑うロヴェルがセレーナに歩み寄るが、顔を真っ赤にしたセレーナは「近づくな!!!」といって両手をぶんぶん振り回している。

「…ロヴェルが本当に妖精王であるあなたに匹敵する力を持っていると?」

 アリアネスがファニアに聞くと、ファニアが笑顔で「そうです」とうなずく。

「ロヴェルは私の後継者。人間の世界について勉強させるために、騎士団に入団させたのです。ロヴェルの加護があれば、バライカ達にも対抗できます。」

「あ、俺、セレーナさんに加護与えたいです!」 

 セレーナの手を無理やり握っているロヴェルが提案する。

「加護を与えられた人間さえ近くにいればロヴェルも力を振るえます。どれだけ力を具現化できるかは人間のスキルの高さによりますが、アリアネス様もセレーナ様も同程度の力なので、アリアネス様さえよければどちらでもよいかと。」
「セレーナでも問題ないわ。」

「お嬢様!」

 セレーナが悲鳴をあげるが、アリアネスは意に解さない。

「あなたは妖精が大好きなのでしょう?ならよかったじゃない。」

「え?俺が好きなんてうれしいです…。」

 頬を赤く染めるロヴェルを見て、セレーナは頭の何かが切れたようで、いきなり殴りかかっていた。

「アリアネス…。」

 黙っていたラシードがアリアネスを抱き寄せ、その頬に優しくキスをする。

「ラシード様!!」

「…前も言ったが、ホントはお前をさらってどっかほかの国にトンズラしてーんだよ、俺は。お前を危険な目にあわせてくねぇ。…でも、鳥かごに入れてもお前の美しさが死んじまう。」

「わたくしは大丈夫です。1年間であなたを騎士団長の座から引きおろし、結婚していただかないといけませんから。バライカの加護を受けた人間を早々に見つけ出して、ついでにバライカも倒してまいりますわ。帰ってくるころには今の何倍は強くなっておりますから、あなたなどすぐに倒してしまうかもしれません。」

「言ってろ…。」 

「んぅ!」

 ラシードがアリアネスに口づける。

「俺からの餞別だ。アリアネス、お前にオルドネア最強の騎士から祝福をくれてやる。」

「光栄ですわ…。」
 
 アリアネスはそっとラシードに体を寄せたのだった。





 1週間ほど準備を要して、アリアネスとセレーナ、キウラ、ロヴェルはマゴテリアへと旅立った。
 そのため、マゴテリアとの国境に接する村がマゴテリアの兵の焼き討ちにあったことや、それをきっかけに本格的な戦争が始まったことを、アリアネスは知る由もなかった。
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