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騎士団入団
第3話
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アルフォンソside
アリアネス嬢は、全身で怒りを表しながら修練場を立ち去った。
(なんなんだ、あのお嬢さんは…。)
正直、見た目とのギャップに心底やられてしまった。美しさは社交界でも群を抜いているものの、その実は傲慢で世間知らずのお嬢様だと思っていた。しかし、実際にかかわってみれば男にも負けない気迫と、自分を高めるための努力を怠らない心の強さを持つ女性だったように思う。
「まぁ、実際はどういう女なのかわ分からないけどな……。それにしても、人は見た目で判断するもんじゃないな。」
ぼそりとつぶやくと、ラシード騎士団長がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「俺の元婚約者様が迷惑をかけたな、アル。ただでさえ忙しい第10支団で騒ぎを起こして申し訳なかった。」
「いえ、騎士団長からそのようなお言葉をいただく理由はありません。」
そしてもう一つ驚いたのが、この男のアリアネスに対する態度だ。この国で一番の女好きともいわれるラシード騎士団長。女性であればどんな人間にでも優しいことで有名だ。それは、性格が悪いと評判の婚約者、アリアネス嬢に対しても同様で、二人でにこやかに逢瀬を交わしてる様子を見たものが第10支団にもちらほらいる。それが、どうしたことだ。アリアネスのことを見ようともせず、冷たい言葉で突き放した。噂で、新たにご執心の女性ができたとの話は聞いている。ファニア・フォーリオン。女性としての魅力を全て兼ね備えた容姿を持つアリアネス嬢とは正反対の見た目。まるで妖精のように清楚で可愛らしいと評判の女だ。確か、ラシード騎士団長の女性のタイプはどちらかという、体にメリハリのついた色気のある女だと聞いた覚えがある。それならば、まだアリアネス嬢の方が好みに合うはずだ。しかし、性格は社交界一に悪く、ラシード騎士団長がそれにとうとう嫌気がさしたとも聞く。
「騎士団長……、アリアネス嬢と婚約破棄されたという話は本当ですか?」
思わず尋ねてしまった。
「あ?もう噂になってるのか?その通りだ。もうあんな女に構っている暇はない。最近はファニアが作ってくれるうまい飯で腹がいっぱいだ。ほんとにファニアはいい女でな。」
「はぁ…。」
「…惚れるなよ?」
騎士団長が鋭い眼光で睨み付けてくる。その殺気に思わず姿勢を正してしまった。
「騎士団長の思い人に手を出す愚か者などございません。ご安心を。」
「そうか、なら安心だ。それじゃあ俺は城に帰る。」
本当に突然現れて突然消える人だ。そもそも第10支団に何をしに来たのかが分からない。
「騎士団長様、こちらにはどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「んー?」
鼻歌を歌いながら修練場を去ろうとしていたラシード騎士団長が立ち止まる。
「俺に刃向った愚かな小娘の末路を見ようと思っただけだ。騎士団に入って俺を倒したいらしい。俺を倒すとか吹聴している女を入団させてくれるような骨のある支団なんかあるはずないのにな。」
はははと笑って、騎士団長は修練場を去った。
(一体、どういう意味なんだ……。)
アルフォンソはラシードの真意を測りかねていた。
アリアネスside
馬車に乗り込んで屋敷に戻っているアリアネスの怒りは未だおさまっていなかった。
「なんでラシード様がいらっしゃるの!」
「わかりません。騎士団長は公務で第1支団に行く予定と聞いておりましたので。私の情報収集不足でした、申し訳ありません。」
「あなたは悪くないわ。どうせラシード様がまた気まぐれで支団をふらふら回られているのよ。」
「それにしても最後の綱だった第10支団に入団できないとなると、騎士団入りはさすがに暗礁に乗り上げましたね。」
(実際そうなのよね。)
全部で10支団ある騎士団の中で、第10支団だけが異質な存在だ。それ以外の支団が貴族の子息しか入団を許されない。規則では誰でも入ることにできる騎士団だが、実質、貴族でなければ入団試験の段階ではじかれることになっている。騎士団員を全員貴族で構成し、その家族からの寄付をもらいたいという騎士団の醜い思惑の結果だ。そのせいで、ほぼ戦力にもならないお飾りの騎士団も多く、任務には出ず、国内の式典行事にのみ参加して、その美しい容姿を武器に国民からの支持を受けるものもいるぐらいだ。
そんな中で、第10支団だけは市井の人間でも実力さえあれば入団することができる。そのせいか、荒くれ者が多く、ほかの騎士団から疎まれてやってくる貴族もちらほらいる。その力を認められさえすれば男女のほか年齢、身分も関係なく騎士として働くことができる唯一の部隊だ。
「アルフォンソ様を打ちのめせば、すぐに支団長になれるのかと思ったけど、やっぱり考えが甘かったわね。……まだまだ世間知らずということかしら。」
「アリアネス様…。」
アリアネスの心には、さきほどのラシードの言葉が突き刺さっていた。
(騎士団は住民の命を預かってんだ。)
(部外者の姫さんはさっさとうちに帰るんだな。)
「ラシード様にふさわしくなろうと頑張ってきたけど、結局無駄だったのかしら……。」
アリアネスは小さく呟いた。
アリアネス嬢は、全身で怒りを表しながら修練場を立ち去った。
(なんなんだ、あのお嬢さんは…。)
正直、見た目とのギャップに心底やられてしまった。美しさは社交界でも群を抜いているものの、その実は傲慢で世間知らずのお嬢様だと思っていた。しかし、実際にかかわってみれば男にも負けない気迫と、自分を高めるための努力を怠らない心の強さを持つ女性だったように思う。
「まぁ、実際はどういう女なのかわ分からないけどな……。それにしても、人は見た目で判断するもんじゃないな。」
ぼそりとつぶやくと、ラシード騎士団長がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「俺の元婚約者様が迷惑をかけたな、アル。ただでさえ忙しい第10支団で騒ぎを起こして申し訳なかった。」
「いえ、騎士団長からそのようなお言葉をいただく理由はありません。」
そしてもう一つ驚いたのが、この男のアリアネスに対する態度だ。この国で一番の女好きともいわれるラシード騎士団長。女性であればどんな人間にでも優しいことで有名だ。それは、性格が悪いと評判の婚約者、アリアネス嬢に対しても同様で、二人でにこやかに逢瀬を交わしてる様子を見たものが第10支団にもちらほらいる。それが、どうしたことだ。アリアネスのことを見ようともせず、冷たい言葉で突き放した。噂で、新たにご執心の女性ができたとの話は聞いている。ファニア・フォーリオン。女性としての魅力を全て兼ね備えた容姿を持つアリアネス嬢とは正反対の見た目。まるで妖精のように清楚で可愛らしいと評判の女だ。確か、ラシード騎士団長の女性のタイプはどちらかという、体にメリハリのついた色気のある女だと聞いた覚えがある。それならば、まだアリアネス嬢の方が好みに合うはずだ。しかし、性格は社交界一に悪く、ラシード騎士団長がそれにとうとう嫌気がさしたとも聞く。
「騎士団長……、アリアネス嬢と婚約破棄されたという話は本当ですか?」
思わず尋ねてしまった。
「あ?もう噂になってるのか?その通りだ。もうあんな女に構っている暇はない。最近はファニアが作ってくれるうまい飯で腹がいっぱいだ。ほんとにファニアはいい女でな。」
「はぁ…。」
「…惚れるなよ?」
騎士団長が鋭い眼光で睨み付けてくる。その殺気に思わず姿勢を正してしまった。
「騎士団長の思い人に手を出す愚か者などございません。ご安心を。」
「そうか、なら安心だ。それじゃあ俺は城に帰る。」
本当に突然現れて突然消える人だ。そもそも第10支団に何をしに来たのかが分からない。
「騎士団長様、こちらにはどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「んー?」
鼻歌を歌いながら修練場を去ろうとしていたラシード騎士団長が立ち止まる。
「俺に刃向った愚かな小娘の末路を見ようと思っただけだ。騎士団に入って俺を倒したいらしい。俺を倒すとか吹聴している女を入団させてくれるような骨のある支団なんかあるはずないのにな。」
はははと笑って、騎士団長は修練場を去った。
(一体、どういう意味なんだ……。)
アルフォンソはラシードの真意を測りかねていた。
アリアネスside
馬車に乗り込んで屋敷に戻っているアリアネスの怒りは未だおさまっていなかった。
「なんでラシード様がいらっしゃるの!」
「わかりません。騎士団長は公務で第1支団に行く予定と聞いておりましたので。私の情報収集不足でした、申し訳ありません。」
「あなたは悪くないわ。どうせラシード様がまた気まぐれで支団をふらふら回られているのよ。」
「それにしても最後の綱だった第10支団に入団できないとなると、騎士団入りはさすがに暗礁に乗り上げましたね。」
(実際そうなのよね。)
全部で10支団ある騎士団の中で、第10支団だけが異質な存在だ。それ以外の支団が貴族の子息しか入団を許されない。規則では誰でも入ることにできる騎士団だが、実質、貴族でなければ入団試験の段階ではじかれることになっている。騎士団員を全員貴族で構成し、その家族からの寄付をもらいたいという騎士団の醜い思惑の結果だ。そのせいで、ほぼ戦力にもならないお飾りの騎士団も多く、任務には出ず、国内の式典行事にのみ参加して、その美しい容姿を武器に国民からの支持を受けるものもいるぐらいだ。
そんな中で、第10支団だけは市井の人間でも実力さえあれば入団することができる。そのせいか、荒くれ者が多く、ほかの騎士団から疎まれてやってくる貴族もちらほらいる。その力を認められさえすれば男女のほか年齢、身分も関係なく騎士として働くことができる唯一の部隊だ。
「アルフォンソ様を打ちのめせば、すぐに支団長になれるのかと思ったけど、やっぱり考えが甘かったわね。……まだまだ世間知らずということかしら。」
「アリアネス様…。」
アリアネスの心には、さきほどのラシードの言葉が突き刺さっていた。
(騎士団は住民の命を預かってんだ。)
(部外者の姫さんはさっさとうちに帰るんだな。)
「ラシード様にふさわしくなろうと頑張ってきたけど、結局無駄だったのかしら……。」
アリアネスは小さく呟いた。
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