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第2章 世界の異変が大変編

回復魔法さん!それがあなたの全力ですか!?

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 ―地獄―

 言葉にするならそれが合うだろう光景がテントの中には広がっていた。

 草を敷き詰めた床に並ぶように横になっている兵士や冒険者。
 彼らからうめき声が途切れることなく響き、血の臭いや肉が焼けたような臭い、それがテントの中に充満している。

 こちらに気付くことなく、いや気付いているのかもしれないが、目の前の医者らしき人達はこちらを見る余裕も無く、忙しない動きで彼らの間を歩いている。

 横たわる人達を見れば、体や顔が血にまみれ包帯のようなものを巻いているのがわかる。
 中には足が片方無かったり、全身包帯で呼吸が荒い人もいた。


 ……これはあかんやつや。
 というかどうやったら全身怪我するの!
  うぅ、空気が悪い……というかなんで換気しないの!こんな場所不衛生過ぎる!

「これはひでぇ……」

「ユウト殿」

 カールがなんか言ってるが無視し、縋るような目で見てくるクロードさんに話かける。

「出来る限りがんばりますが、まずお願いを聞いてくれませんか?」

 クロードさんはその言葉にすぐに真剣な顔で頷く。
 さてまずはこの環境を何とかしなければ。
 俺の知識では限界があるけどやるしかない!

「まず空気の入れ替えをしてください。空気が淀んでいると不衛生ですからね」

「そうなのか?」

「はい。それと汚れて使えなくなった服や包帯は捨てましょう。汚れているものをずっと置くのはダメです」

 それを聞いてすぐに医者らしき人たちに指示を出すクロードさん。
 これで悪化したら……いや!俺には回復魔法さんがあるし……というか汚れた包帯とかは燃やす?
 それとも埋める?
 なんかどっちとも環境に悪いような……ええい!それはあとだ!

 俺はすぐに回復魔法を発生させる。
 淡い魔法の光が、怪我をした人たちに降り注いでいく。
 そして怪我人が光に包まれたと思ったら、目に見えて呼吸が落ち着いてくる。
 だけど怪我が治ったようには見えない。
 うむむ……?回復魔法が効いていない?
 怪我が多すぎるのか?それとも魔素が少ない?

 疑問を持つが、考えるのは後ででいいと魔法の範囲に入らなかった奥の方にも歩き出し、再び回復魔法を使う。

 それを繰り返すこと数回。
 結果、テントの中全体が淡い光に包まれ幻想的な空間が出来上がっていた。

 俺は怪我人を見る。
 まだ治っていない。
 光の玉がいくつも体に落ちていってはいるが、息が少し和らぐだけで大きな怪我は治っていない。
 手足とかも再生しないし……いや、そもそもそこまでの回復は無理なのかも。

 俺の回復ウイルスは状態異常ではなく怪我を治すものだからこの状態はおかしいな。
 もしかして状態異常にかかってるとか?
 怪我が目立つせいで気付いてないって可能性ある……か?
 少し顔を上げるとカールとクロードさんは医者らしき人たちに色々指示を出していたり、外の兵士などに話しかけている。

 俺は再び怪我人の一人に目線を向けて鑑定を使う。


 《ジュシ・オクト

 年齢23

 職業 Cランク冒険者

 レベル17

 状態 重篤 (魔素中毒により悪化中)


 パッシブスキル

 アルマデア語
 夜目
 気配察知
 槍術補正
 状態異常耐性

 アクティブスキル

 狙いすました一撃アイミングスピアー


 称号

 無し

 称号からの追加補正
 童貞&処女》

 この冒険者結構スキル多いな……。
 そして重要なのが一番下ですよ!なんか人のプライバシーを踏みにじってる感が凄いけど、この人俺と同士だ!!
 友達になりませんか?

 って今はそんなの関係ない!大事なのは状態ってとこだ!

 魔素中毒って表示されてるけど何?そんなのあるの?
 しかも悪化中って……回復しない原因ほぼこれだろ……。
 鑑定さんこれの詳細出してくれるかな?鑑定さん頼みます!

 《状態 詳細

 重篤状態
 何らかの要因によって体の機能が大幅に低下する状態のこと。
 この状態になった場合迅速な治療が必要。

 魔素中毒
 魔素濃度が濃い空間に長時間いることにより、体の魔力機能の限界値を超え障害をきたす状態のこと。
 この状態になっている場合、その体に対しての魔法効果が大幅に低下する。
 この状態を回復するには魔力を発散させるか、時間が経過することにより自然回復する》

 鑑定さんさすがです!!きゃー素敵!
 よしよし……つまりこの魔素中毒ってやつが回復魔法を妨害してるってわけね。
 ふむふむ解決方法は……って時間ないわ!!
 重篤状態は迅速な回復って言ってんのに魔素中毒は時間経過で回復って!もう殺す気だろ!

 あとの解決方法は魔力を発散させることだけど、魔素中毒って体の限界を超えて魔力が体に溜まった状態ってことだよな?
 うーんどうしたものか。

 相手の魔力を使って回復魔法なんて出来ないかね?
 ウイルス使う?あ、でもあれ使うと体の魔力全部使ってしまうんじゃ……。
 それで死ぬわけじゃないと思うけど……うーん。

「クロードさん!」

 俺は近くで指揮をしていたクロードさんを呼ぶ。
 クロードさんはすぐに俺の方へやってきて口を開く。

「こんな魔法見たことないがユウト殿がやったのか……すごいな。それで?どうした?何かあったか?」

「あの、回復魔法を使ったんですが、皆さん魔素中毒みたいで回復出来ないんです」

 俺がそう伝えると、クロードさんは難しい顔をして横になっている人たちを見た。

「戦闘場所は魔素濃度がここよりも遥かに濃い。だから道具などで抑えようとしたのだが数が少なくてな……。しかも道具もあまり役に立たなかったのだ。ユウト殿、私はこういうものには疎い……勉強不足だ、すまない」

「そうだったんですね……。い、いや!これはクロードさんのせいじゃないですよ!」

 予想って外れる事あるし、準備してても足りない事なんていくらでもある。
 だからクロードさんのせいじゃない。
 でも、このまま彼らが死ぬのを待つのか?いや……そんなわけにはいかない。
 俺はチート勇者(仮)でありここで見殺しにするわけにはいかない!
 回復魔法さん!頼りにします!!なんとかして!!

 もう出来る出来ないとか、魔力が無くなるとかもう言ってられない!
 やれるだけやってみよう!ジュシさんには悪いけど実験台になってもらいます!!

 俺は彼の体に手を当てて、今回は魔素ではなく魔力を糧にする回復ウイルスを入れる。

 しばらくするとジュシさんの怪我をした部分に淡い光が溢れてくる。
 そしてパックリと開いていた傷口が目に見えて閉じていき、淡い光が消える頃には完全に傷が消えていた。

「おぉ……これはなんとも……」

 隣で立っていたクロードさんが思わずといったように呟く。
 ていうか俺だってビックリだよ!すごい!あれだけの傷が消えたよ!これならもう見えてない部分の傷も治ってるだろう。
 鑑定を使うと重篤や魔素中毒の状態は消えていて代わりに魔力欠乏の状態になったが――

 《状態 詳細

 魔力欠乏状態
 体の中の魔力を全て消費した時に起こる状態。
 一時的に体が動かなくなり魔力に依存するスキルなどが使えなくなるが時間の経過で回復する》

 鑑定でみると命に関わるようなことじゃないことがわかった。
 ……これならいける!

 俺はすぐにその隣の怪我人にウイルス魔法を使う。
 その横ではクロードさんが何かを周りの人に命令していたが、魔力ポーションを持ってこさせるためだった。

 この魔法は相手の魔力使うしそこまで消費は……ってもしかして魔力ポーションが必要な程やらなきゃいけないの?
 え?中度の方や軽度の方たちの治療もですか?
 わかりましたやりますよ、やればいいんでしょ!!
 だからそんな縋るような目で見ないで!!

 このあと俺は馬車リョマのように……いや、リョマ達よりも働かせられてテントの全員を回復したころには疲れて寝てしまっていた。

 《一定数の魔法の発動を確認しました。
  【増殖する癒しの光ヒーリングウイルス】を回復魔法に登録します》

 まぁ途中で回復ウイルスが登録されて使いやすくなったのはよかったとは言えるけどもね……てかやっぱり増殖……ウイルスなのね。


 ちなみに魔力ポーションは無味無臭でした!色関係ない!


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