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天使救出編

獣人は力の強い種族です

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 学院に向かいながら街の様子を眺めていく。
 街の一部は損壊しているけど、それでも活気が衰えている様子は見えない。

 短い間だったけど、離れるのは寂しいな。
 まぁ、学園周辺しか歩いてないけど。

 そんな事を思っている間に学園に到着。
 そのまま、食堂へと向かう。
 やはり昼だからなのか、結構賑わっていた。

「……お?ユウト!」

 キョロキョロ辺りを見ていたら話しかけられた。
 声の方を見るとアディ君達がこっちに歩いてきていた。
 なら……と思い、周りを見てもフェルはいなかった。
 あれ?

「ん?あー、フェルは部屋だと思うぞ」

 俺の視線に気付いたのか、アディ君がそう言った。
 そしてそれにお礼を言う前に肩を抱かれて、拘束された。

「そんな事より!お前大丈夫だったか?」

「そうそう!急にいなくなったからビックリしたよ!」

「街も大変な事になってるし、僕達凄い心配した」

 三人それぞれが心配の声を上げてくれる。
 三人からすれば、俺は急にいなくなったって事になるのか。
 そりゃ心配もしますわな。

「大丈夫だよ、怪我もしてないし」

 心配してくれた事に感謝すると、三人とも安心してくれた。
 今回の騒動に関わってたなんてあまり言いたくないし、話を変えようと、彼らのこれからの目的を聞いてみた。

「昼メシも終わったし、これから訓練棟に行こうと思っててな」

 今日は図書館ではなく訓練棟らしい。
 というか訓練棟はもう使って大丈夫なのか。
 それよりも、こんな状況なのに訓練するとか、三人とも好戦的過ぎじゃ?と思わなくもない。

「あ、ユウトも行くか?行くならフェルにも行くかどうか聞いてきて欲しいんだけど」

 そんな好戦的なアディ君が訓練に誘ってきた。
 それは嬉しいんだけど、今は用事があるので、申し訳ないけど断らなくては……。

「ごめん、これからちょっと出掛けなきゃいけなくて」


「え!?マジかよ~、どこいくんだ?」

 アディ君達は色々聞いてきたが、ウィアベルさんからの指令?だと言えば納得してくれた。
 ただ、これからフェルに会うので、訓練棟に誘う事に関してはついでなので了承した。

「頑張れよ!」

 アディ君達は別れ際に応援してくれて、それに手を振って返した。
 寂しいけど、すぐに帰って来れると思うし、大丈夫だろう。
 フラグっぽいけど大丈夫だ!きっと!


 フェルの所に行く前に食堂の人に声をかけてお弁当を注文しておく。
 様子を見てくるだけなので、一日分……一応、二日分くらい用意してもらおう。



 食堂から出た俺はさっそく寮へと向かう。
 部屋の前まで着くと鍵を開けて中へ入る。
 すると、ドタドタと騒がしい音がして、フェルの部屋のドアが勢い良く開いた。

「ユウト!!」

「グフェッ!」

 そのままの勢いでフェルが突進してくる。
 玄関が手狭だったせいで避けるに避けられず、突進をモロに受けてしまった。
 ……これ、普通なら骨折してるよね?
 これだから獣人は力が強いから困るよ。

「フェ……フェル、苦しい……」

「ユウト!ユウト!うぅ……!」

 俺が引き離そうとしても、ギュウギュウ抱きしめてきて、離してくれない。
 ……流石に苦しい。
 これだから獣人は以下略。


「もう!心配したんだからね!!」

 母親みたいな事を言い始めたフェル。
 まぁ、フェルもアディ君達と似たような心境だと思う。
 本当に心配かけちゃったな。

「ごめんね、色々あってさ……」

「むぅ……」

 謝れば、心配しながらも体を離してくれる。
 あのままだと体に限界が来てたと思うから助かった助かった。

 とりあえず、玄関じゃなんだし、リビングに移動して、向かい合わせに座る。

 フェルには色々思う事もあるし、ちゃんと話しておこうと思う。
 まぁ、色々濁さないといけない事はあるけれど。
 みんな眠ってたけど、俺は抵抗高くて眠らなかったみたいだったからウィアベルさんと協力したんだ。的な事を話しておく。

「大丈夫だったの!?」

「だ、大丈夫大丈夫……」

 ガタッと慌てて椅子から立ち上がるフェルを宥めて座らせる。
 確か、フェル達が聞いた作り話は、強力な魔物が出て、って話だったっけ。
 原因は違うけどウィアベルさんがあんな状態になっちゃったし、心配するのは当たり前か。
 申し訳ない……。

「休んでるとは聞いてたけど、何日も連絡なかったし……本当に大丈夫?」

 うっ……。
 そうだ、俺は何日も寝てたから、フェル達には思っていた以上に心配をかけてたのかもしれない。

「休んでたのは確かだけど、後遺症とかも無いし、本当に大丈夫だよ」

 スキルが封印されてるって後遺症はあるけど、命が危険ってわけじゃないし、フェルは俺の体の心配をしてるんだしね。
 
「良かった……」

 フェルはそれを聞いて安堵したように息をついた。
 ずっと、連絡が無かったことが心配だったのだろう。
 色々ごめんね。

「でね、言わなきゃいけない事があって……」

「ん?なに?」


 俺はフェルにしばらくの間、出掛ける事を告げた。
 ウィアベルさんからの指令で調べる事があるからと。

「だからまた迷惑――」

「なんでッ!」

 かけちゃう、という言葉は叫ぶような声に塞がれた。
 驚いてフェルを見ると、泣きそうな怒りそうな、そんな顔をしていた。
 ただ、不思議と俺の事を心配しているような顔にも見えた。

 再びガタッと立ち上がったかと思うと、俺のそばにきて、再び抱きしめてきた。
 今度は息苦しくはなく、優しい抱擁だった。

「なんでユウトばっかり大変な事するの!せっかく会えたと思ったのに……!」

 聞こえてきた声に目を見開く。
 思えば大変な事しかしてない。
 この世界に来てからずっと。
 色々巻き込まれ、首突っ込み、他にも色々突っ込まれ……ってうるさいわッ!
 とにかく、フェルの話は俺の心に沁みてしまう。
 でも、大変だとは思うけど、きっと自分がやりたいんだと思う。
 首を突っ込んで巻き込まれて、本当に大変になったとしてもね。
 まぁそれは賢者先生がいるからかもしれないけど。
 賢者先生ありがたや。


《………》


 まぁ、色々あるけど、受けた依頼は達成しないと。
 そんな感じでフェルに伝えた。
 すると。

「なら僕も一緒に行く!」

「はぁん!?」


 フェルからの衝撃発言。
 フェルが強制的に仲間になろうとしています。
 どうしますか?
 いいえ、一択ですねはい。

 「行くったら行くっ!」

 「ぐぇぇ……」

 獣人の膂力は凄まじい。
 子供が駄々をこねるとはまるでレベルが違う!
 あー!抱き着いたまま振り回さないで!目が回るぅ!!





 その後。
 フェルは断固として意見を譲らなかった。
 足にしがみついてでも行くという強い意思を感じた俺は仕方なくそのまま体にくっ付いて離れないフェルを連れて廊下を歩く。
 もし、本当に連れていくなら色々準備しなきゃいけない。
 移動の事でも転移魔法を見られるわけにはいかないし、徒歩か馬車での移動になりそう。


「ん?フェルか?」


 どうしようかと考えていると声をかけられた。
 正確には俺の体にくっ付いてるフェルに。
 見ると、廊下の先からノルス先生がこちらに歩いてきていた。
 うっ、アカン。
 ノルス先生の事があるから、三人の状況で会いたく無いのが本音だったのに……!

「父さん!」
 
 フェルが体にくっ付きながらも顔を向けてキラキラした顔をしだした。

「フェル、今は先生、だ」

 だがノルス先生はフェルの言葉を訂正し、俺に目を向けてきた。
 焦げ茶色の綺麗な眼と視線が合い、あの時を思い出し少し腰がズクリとしてしまう。
 慌てて目を逸らした先にはフェルが。
 アーッ!罪悪感がとてつもない!!

 そんなフェルは俺の気持ちなど露知らず。
 はい先生と、謝った後、ノルス先生とたわいも無い話をしだす。
 ……正直、この空間から早く出たいデス。


 そんな焦りの気持ちが良くなかったのか。
 ボーッと話を聞いていた俺の耳に届く声。



「僕、ユウトをお嫁さんにするの!!」


「「はい?」」



 衝撃発言パート2に、ノルス先生と俺の声が重なった。
 もう意味がわかりません。
 誰が助けてヘルプミー。


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