上 下
112 / 144
第3章 魔導帝国ハビリオン編

この世は地獄

しおりを挟む
 ハロー!エブリバディ!異世界生活25日目の朝を迎えましたよ!!

 キャー!!今日は、アスキルのお城に行く日なのですよ!
もう興奮がノンストップ!!


  …落ち着こう


「う~ん…ユウトぉ…」

「はいはい、ちょっと離れてねー」

 ヨイショと、フェルを引き剥がして部屋を出る
心配だから、と昨日勝手にベッドに入ってきて抱き着かれたのだ
抱き枕的な抱き心地だけど、鼻息が荒いからちょっと眠れないんだよね…



 朝の支度を終え、門へと向かう
早朝だからか空気が澄んでいるのが感じられる
なんかこういう朝の空気って好きなんだよ…あまり人もいないから静かだし

 門には白を基調とした綺麗な箱馬車が留まっていた
この世界で見た馬車の中で一番綺麗かも
さすがお城の馬車だわ
馬車をひく馬もなんかキラキラしてるように見える
さすがお城の馬車だわ

 近付くと馬車の前に執事っぽい人が立っているのがわかった
その執事は綺麗な所作で頭を下げてきたので慌てて俺も頭を下げる

「ユウト様ですね?お迎えにあがりました」

 そう言って執事はこれまた優雅な動きで馬車の扉を開ける
俺はペコペコしながら馬車の中へと入る
うるさい!小市民なんだもんよ!

 中も綺麗に整えられていて向かい合わせに座席がある
俺は進行方向を向くように座り窓から外を見る
執事は馬車の御者席?に座ったらしい
執事兼御者なのかね?

「では参ります」

 馬のいななきと共に馬車が動き出した


・・・


「お待ちしておりました」


 あっという間に城の敷地内に入り、城の近くまで来てから馬車から降りる
すると先程の執事ではない執事が現れた
執事Bにしておこう

 最初に迎えに来た執事Aよりも執事Bはさらにザ執事って感じ
真っ白なヒゲが執事感を増加させている
モノクルは付けてないのがちょっと残念…
まぁそもそもモノクルってこの世界にあんのかね?

 そんな事を思っていると、いつの間にか応接室のような部屋でソファに腰掛けていた

 はっ…!なんというエスコート力!これが執事パワーか!

 執事Bのエスコート力におののいていると使用人っぽい人達がお茶菓子のような物を持ってきてくれた
ありがたくいただき…これ、勝手に食べていいの?

「どうぞ、お好きな分だけ召し上がってください」

 考えが顔に出ていたのか、使用人がそんな事を言ってくる
なんか凄い恥ずかしいんですけど…やめて!そんなに食に貪欲じゃないから!やめて!そこ!微笑まないで!!

 使用人達から目を逸らしながらまずは紅茶っぽいものに手をつける
…あ、美味しい

 しばらくすると、俺が入ってきた扉とは別の扉から2人が入ってきた
片方がアスキルなので、もう片方の人はもしかしなくても…
それに気付いて慌てて立ち上がり頭を下げる

「ここはおおやけの場ではないからね、緊張しなくても問題無いよ」

 柔らかい声でそう言われ頭を上げる
目の前にはアスキルを大人にした感じの男の人がいて微笑んでいた



・・・

・・・・・・


「ぉぃ…おいッ!!」

「ハッ…!」


 気付くとアスキルが目の前にいた
なぜだか不機嫌そうだけど…なぜに?

「あれ?」

 部屋を見渡して見るとアスキル以外誰もいなかった
…おかしいな、さっきまでアスキルの父…皇帝様とお話してたはずだけど…
記憶が無い

「なに寝惚けてんだ?さっさと行くぞ」

「…どこに?」


 状況がわからないでいると、アスキルが変な事を言ってくる
行くってどこに?どういう展開なの?誰か!教えてプリーズ!!

「いいから行くぞ!」

「???」

 状況がわからぬまま、グイッと引っ張られ無理矢理部屋から出された
…もしかしてなんか精神攻撃とかされてたん?いやいや…【精神攻撃無効】を持ってるからそんな事は無いと思うけど…
賢者先生に確認をとるか…

(賢者先生!俺はどうなったの?)

《過度の緊張により記憶が一部飛んでいる状態です》


「………」


 どうやら権力者との対面は俺にとっては記憶が飛ぶほどの出来事だったらしい
どんだけ小心者やねん…


 会話の内容を思い出そうとするが、アスキルがズンズン進んで行ってしまう
それだけならどうでもいいのだが、俺の服を掴んでいるため俺も強制的に進むハメになってしまっている

 というかどこに向かってるの?記憶が飛んでるから目的地がわからないんですけ…

(ま…まさか…!?)

 この城の中で目的地といえば一つしかないじゃないか!
キタキタキタァ!!!はっ!心の準備が!オラわくわくすっぞ!!

 急にテンションが上がった俺に、変な目を向けるアスキルだがそんなの関係無いわ!さっさと行くぞ!



・・・





「え?魅惑の園は?俺の希望は…?」

 俺の目の前にあったのはキャッキャウフフな桃色の楽園では無く…


「はぁっ…!!」

「オラッ!!」

「グッ…!このッ!」

 男臭い汗がキラキラと光を反射しながら飛び、熱気が部屋全体を包んでいる
そんな光景が広がっていた

「…ど…どうして…」


膝から崩れ落ちそうになる俺にアスキルが言った


「何言ってんだお前?ここは兵士の訓練棟だぞ?」


 …なぜだ!!お前は桃色の楽園に案内してくれるんじゃなかったのか!?こんな男臭い空間に案内される筋合いは無い!!
さっさとこんな地獄から脱出しなければ!!

「おやアスキル様、お待ちしておりました…ご友人はそちらの方ですね?初めまして私は兵士長をしております、カザルと申します」

 しかし誰かが話しかけてきたので逃走は失敗に終わった
…ちくしょう

「…こ…こんにちは」

「城の見学でね、ここを見に来たから少しお邪魔するよ」

 どうやらアスキルは俺と城を見て回るつもりらしい…そんな話聞いて…いや、記憶が飛んでたんだった…
というか邪魔しない方がいいんじゃないの?お城の兵士達からしたら皇子様がいるんじゃ集中出来ないと思うし…

「みんな忙しいんじゃ…」

 それとなく理由をつけて脱出を試みるが…

「昨日のうちから話は通してあるから大丈夫だよ」

 猫被り状態のアスキルが脱出の希望を打ち砕いた
予約済みかーい!!準備万端じゃねぇか!!

「どうぞ、ご自由に見ていってくださいね」

 遠慮しますぅぅ!!ご自由に帰らせていただきますぅぅ!!
…無理ですかそうですか


 でもまぁ希望はついえたわけじゃない
城の見学ってことは…ねぇ?やっぱり会えるかもしれないでしょ?
ハッハッハッ!ならばこの地獄も耐えられる!




 そう思ってた時期もありました



「ユウト…大丈夫か?」

「だいじょばない…うぅ…」


 近くで見てたまでは良かった
誰にも気付かれないように風の壁を発生させて汗の匂いを遮断していたので我慢出来ていたのだが、まさか汗を出す本体が飛んでくるとは思わなかった

 考えても見て?薄着で剣を振るっていたヒゲマッチョが吹っ飛んでくるんだよ?
正面じゃなくて背中からだったからまだマシだけ…いや、マシじゃないな

 そして風の壁を突破したヒゲ男が俺にぶつかって一緒に倒れ込んだのよ
そう…汗をビッショリかいた状態でね


 また記憶が飛ぶところだったわ


 マッチョの脇が俺の顔に…あぁぁぁぁ!!!思い出したくない!!脳が拒否している!!あんな地獄初めて味わったよ!!ツラァァァイ!!


 あの後、手加減せずに風魔法で吹き飛ばしてすぐに逃げて来ちゃったけどあのヒゲマッチョ大丈夫だったかな…いやッ!心配する必要などないわ!!心配されるのこっち側だし!

「お…お水頂戴」

「あ…ああ」

 壁に背中を預けて座り込んでる俺にアスキルは心配そうにしていたので水を注文しといた
皇子をパシリにするとか俺ひどいわ…いやこの状態では仕方ないでしょ


「…ん?」

 ボーッと廊下を見ていると、さっきの練習部屋の近くに別の部屋がある事がわかった
いや、それは別に変な事じゃないんだけど…

(今、一瞬だけ違和感が…)

 少し見るだけ…と、立ち上がりその部屋へと歩くのだった



――――――――――――――――――――――――――――――

皆さんお久しぶりです!
アオネコさんです!

近況ボードにも書きましたが、作者がインフルエンザになってしまい先週の更新が出来ませんでした
本当に申し訳ありません


そして一応…ですが、
いつの間にか『こんな異世界望んでません!』1周年を迎えました!イエーイ!

書き続けられるのも読者の皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!

これからも頑張っていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願い致します!!






…皆様もインフルエンザなどにお気を付けくださいませ


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く、が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!

婚約破棄をしたいので悪役令息になります

久乃り
BL
ほげほげと明るいところに出てきたら、なんと前世の記憶を持ったまま生まれ変わっていた。超絶美人のママのおっぱいを飲めるなんて幸せでしかありません。なんて思っていたら、なんとママは男! なんとこの世界、男女比が恐ろしく歪、圧倒的女性不足だった。貴族は魔道具を使って男同士で結婚して子を成すのが当たり前と聞かされて絶望。更に入学前のママ友会で友だちを作ろうとしたら何故だか年上の男の婚約者が出来ました。 そしてなんと、中等部に上がるとここが乙女ゲームの世界だと知ってしまう。それならこの歪な男女比も納得。主人公ちゃんに攻略されて?婚約破棄されてみせる!と頑張るセレスティンは主人公ちゃんより美人なのであった。 注意:作者的にR15と思う箇所には※をつけています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...