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第3章

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ある朝、慌ただしい足音と怒号で目が覚めた。なにやら玄関の方が騒がしい。


まだ痛む後ろ足を引きずるようにケージの二階に上って外を見ると、少年たちが農工具を武器のように持ち、何かとにらみ合っていた。


視線の先には、熊の図体をした、しかし明らかに私の知る熊とは違うものがいた。目は青く、爪は貫くことに特化したように鋭く尖り、長い年月をかけて血が沁み込んだような赤色をしていた。それは形容するなら、化け物――


「イヘラ!」


ぴくっと耳が反応する。誰かが私を呼んでいるのかと周囲を確認したが、納屋に人の気配はない。声はそのうち波のようにうねり、威嚇のように強まっていく。それは、少年たちが対峙する化け物に向かって叫んでいる声だった。
 

――どうして、いつも私を呼ぶその言葉で化け物を呼ぶの?


子供たちを制止する声が響き、サキュアが先頭に現れた。彼は私にした時と同じように、しかしはっきりと敵意を向けた声で熊へ語り掛けた。


熊もそれに呼応し、威嚇のように声を上げる。何度か会話のようなラリーが続いた後、熊が前足を地面につき突進の構えをする。


サキュアはそれに動じる様子もなく、スッと手を前にかざした。手のひらの先に小さな揺らぎが見えたかと思うと、揺らぎは光の球となり、ゆっくり周りの光を喰らいはじめた。


光が強まるほど波紋のように球の周りから光が失われ、夜が広がっていく。


それはとても眩しかった。彼を見つめる子供たちの目がキラキラと輝く。


気付かず私の双眸から溢れ出した大粒の涙にもそれは反射し、涙の表面をくるりと一周するように輝いては、おがくずに吸い込まれていった。


私はこの世界において、あの熊と同じ化け物の一匹なんだ。


サキュアが放った光線が、熊を貫く。その光景に私の心は、ひどく痛んだ。
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