神は細部に宿る

湯呑屋。

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最終話

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 帰宅した私は、早々に鞄から今日の戦利品をテーブルに並べた。


 映画の半券、葉山君の反応が良かったブラウスやスカート、彼が奢ってくれたカフェのレシート、先端がかまれて潰れてしまったストローが二本。彼の髪の毛が、五本。


 早急に私はストローと髪の毛を除菌シートで拭く。私に特殊性癖はない。彼から分泌された成分にも興味がないと言ったら嘘になるが、唾液を残したままにしておくと衛生的によろしくない。そんなものより、私にとっては『長期保存』の方が価値が高いのだ。二人の写真と、葉山君の無防備な顔が映ったデータをプリンターに飛ばし、A4サイズの光沢紙ですぐに印刷する。データだけで残すのも不安。頭の中だけにとっておくなんて論外。私は私の、というより人間のスペックというものを信用していない。


 葉山君の目だけが、私に宿る本当の美を見つめてくれた。誰も彼もが私の顔や体に興味を示し、それを恋心と勘違いして言い寄ってくる。私が必死に積み上げてきた美しさの上澄みだけに注目する。葉山君だけが、私の主義主張や箸使い、所作を褒めてくれた。どうして、どうして彼だけはそこを見てくれるのだろうか。葉山君に興味を持ったのはそれがきっかけだった。


 だから、彼から神の話が出た時、私は神秘に触れてしまったような気がした。


 不用意にはしゃぐことはしなかった。私は全てにおいて弁えている。バランス感覚だけは失っていない。この行為は、墓場まで持っていく絶対的な自信の中でしか行えないのだ。


 金庫に入れて厳重に保管された彼の歴史。扉を開けると、昨日のプロテインバーの空き袋をラミレートしたものが、コロンと転がり落ちてきた。


 今私たちが生きている世界からは切り離された、別の次元で神になった葉山くんが私を観測してくれている妄想をする。彼の細部に宿った神様の成分が、いつかきっと、私の行為を褒めたたえてくれる日は来ると、私はそう信じている。


「神は、細部に宿るんだもんね。ちゃんと葉山君の神様は、私が保管してあげるからね」


 金庫の扉を閉める。スマートフォンからは、幸せな鈴の音のような通知音が私を呼んでいた。
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