1 / 2
第1章
しおりを挟む
『子供が3月に産まれる予定なんや』
名古屋で酒を交わした4年前を最後に関わりがなかった野洲からの連絡は、会わない期間に対する文脈など一切ないものだった。
『結婚の報告なんか受けてないんやけど』
『授かり婚ってやつや。嫁の腹も大きいから式挙げへんし報告だけや。ほな』
野洲にしてはまとまった文章と追及を許さない構成に、説明疲れが見える。そっとしておこう、と思いスマートフォンをしまうタイミングで、通知が入った。また野洲からだった。
『今年の年始は兵庫に帰らんのか?』
今年の年始は過去のことだろうと笑ってしまう。何年も会っていないと、当時は石ころのように思っていた部分が途端に宝石のように輝いて見えることがある。
『野洲が帰るなら、帰るよ』
そんなやり取りがもう2か月前のことだ。駅のホーム、底冷えした空気の中、頬や耳、つま先が、まるで自分とは違う生き物のように冷たい。ゆったりと余韻を持たせながら電車が迫り、ため息のように扉が開く。
俺は、地元へと繋がる箱へ足を踏み入れた。
◆
野洲との出会いは、小学2年生の頃だった。
当時のクラスには、日本人の父と台湾人の母を持つ七里という男の子がいた。当時俺はなぜか彼が毎朝台湾から登校していると勘違いをしていた 。
どのタイミングだっただろうか。その勘違いが彼にバレてひとしきり馬鹿にされた際に「お前、親友になろう」と直々に告げられ、彼との交友が始まった。
その七里のもう一人の親友が、野洲だった。
俺たちは放課後や土日こそ集まりはしなかったが、校内ではいつも固まって過ごしていた。七里は喘息が原因で激しい運動ができず、休み時間は図書室で過ごすことが日課だった。
交わした言葉は少なく、当時の野洲の声は一切思い出せない。それでも俺たちの絆はぴったりと、互いの隙間を埋め合っていた。
5年生に上がった年の7月、七里は台湾へと帰っていった。
彼から登校最終日に渡された水色のギフトバックのことは今も鮮明に覚えている。ただ、中身は一向に思い出せないままだ。
日本に残された俺と野洲は、地球上に3人しかいなかった人類が2人になってしまったような、絶望に近い喪失感を感じていた。
名古屋で酒を交わした4年前を最後に関わりがなかった野洲からの連絡は、会わない期間に対する文脈など一切ないものだった。
『結婚の報告なんか受けてないんやけど』
『授かり婚ってやつや。嫁の腹も大きいから式挙げへんし報告だけや。ほな』
野洲にしてはまとまった文章と追及を許さない構成に、説明疲れが見える。そっとしておこう、と思いスマートフォンをしまうタイミングで、通知が入った。また野洲からだった。
『今年の年始は兵庫に帰らんのか?』
今年の年始は過去のことだろうと笑ってしまう。何年も会っていないと、当時は石ころのように思っていた部分が途端に宝石のように輝いて見えることがある。
『野洲が帰るなら、帰るよ』
そんなやり取りがもう2か月前のことだ。駅のホーム、底冷えした空気の中、頬や耳、つま先が、まるで自分とは違う生き物のように冷たい。ゆったりと余韻を持たせながら電車が迫り、ため息のように扉が開く。
俺は、地元へと繋がる箱へ足を踏み入れた。
◆
野洲との出会いは、小学2年生の頃だった。
当時のクラスには、日本人の父と台湾人の母を持つ七里という男の子がいた。当時俺はなぜか彼が毎朝台湾から登校していると勘違いをしていた 。
どのタイミングだっただろうか。その勘違いが彼にバレてひとしきり馬鹿にされた際に「お前、親友になろう」と直々に告げられ、彼との交友が始まった。
その七里のもう一人の親友が、野洲だった。
俺たちは放課後や土日こそ集まりはしなかったが、校内ではいつも固まって過ごしていた。七里は喘息が原因で激しい運動ができず、休み時間は図書室で過ごすことが日課だった。
交わした言葉は少なく、当時の野洲の声は一切思い出せない。それでも俺たちの絆はぴったりと、互いの隙間を埋め合っていた。
5年生に上がった年の7月、七里は台湾へと帰っていった。
彼から登校最終日に渡された水色のギフトバックのことは今も鮮明に覚えている。ただ、中身は一向に思い出せないままだ。
日本に残された俺と野洲は、地球上に3人しかいなかった人類が2人になってしまったような、絶望に近い喪失感を感じていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる