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舞台裏(リュシオル・ライトブリンガー2)
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サフィールの新しい友達は、石が好きらしい。
宝石と言う訳でなく、道端に落ちている石、と言う訳でもなく。
いや、場合によっては、道端に落ちている石も興味の対象になりうるらしい。
そう聞いてもピンとこなかったのだけれど、
サフィールに、剣もガラスのグラスも元は石だと言われると確かに面白いと思った。
「サフィールもその子も知らない石とかあるの?」
サフィールは博識だ。
鑑定眼で見えない事も沢山識っている。
石が好きだと言う彼女も石について詳しいのだろう。
サフィールの横で、サボった課題をやらされているアークの所為で暇になった僕は
サフィールに新しい友達の事を色々尋ねた。
何故サフィールの部屋に、王子向けの教育書があるのかは聞いたら負けな気がする。
「作って名前を付ければ、新しい種類の石なんかいくらでもできる。」
なるほど、サフィールらしい力押しな回答が返って来た。
でも、知らないものを知ってるか?と言う質問も変だったかな?
サフィールは立ち上がると、小さな引き出しを一つ持って来た。
年代を感じる丈夫そうな木製の引き出しの中には、
色も大きさも多種多様な裸石が無造作に沢山詰まっている。
そしてその中から、マロングラッセより少し大きい位の一粒の石を選び、取り出し、
課題の手が完全に止まっているアークと僕の前に差し出した。
「リュシオルの目みたいなきれいな紫だな。」
アークが手を伸ばした手に、透き通った薄紫の石を譲るとサフィールはリュシオルに向き直った。
「名前は、何と出ている。」
鑑定眼を使えということだ。
「アメシスト。」
流石に視なくてもそれくらいは知っていたけれど、サフィールにとって
鑑定眼を使って視ると言う事が、今、意味のある事なのだろうと視えた物を素直に答えた。
すると、再びアークから石を取り上げ、下半分を握る。
そして、アークの手に白い布を敷いて、再度置いた石は、下半分が、マスカットの果実の様に瑞々しい新緑の色に染まっていた。
「プラシオライト?」
驚いて、再び鑑定眼を使うと緑の部分は名前が変わっている。
説明を求めようとしたが、先にアークの不満の声が上がった。
「葡萄のようで、美味しそうではあるが、リュシオルとサフィの二人の色の石と言うのは気にいらないな。」
その発想はなかった。
サフィールの目ならもっと濃い緑だからだ。
葡萄の様で美味しそうと言う所には同意する。
ニヤリと笑ったサフィールは、再び薄い緑になった下半分を摘まんで離す。
緑だった部分は焼き菓子の色を薄めた色になった。
「アメシストとシトリンでアメトリン。」
今度は、二色を合わせた名前まで出て来た。
手品みたいだ。
「少し魔力で熱処理をしただけだ。」
熱処理で、一つの石の名前がころころ変わるのは面白いな。
「薄紫と白金ならリュシオルの色だな。」
アークが、満足げにその石をリュシオルに持たせた。
「出世払いで良いぞ。」
未来の王妃様が鷹揚に頷いた。
どこまで本気なのかは解らないが、出世払いでいいなら、ついでにもう一つ教えて欲しい。
「こういうのを作りたい。」
そう言いながら、サフィールの石の箱から取り出したのは、細い糸の様な金属を内包した加工済みの球形の石。
針水晶を、サフィールに見せる。
「そういうのなら、それでいいだろう?」
既にあるものを作る事も無いと、訝しげな顔でこちらを見やるサフィールに言葉を足す。
「この針金が、僕の髪なら僕だけの石だと思ったんだよ。」
だって、似てるよね、金色の糸、髪の毛みたい。
サフィールはじっとアークの方を見た。
アークは怯えている。
「大丈夫、怖くない、少しだけだ。」
アークは半泣きになったが、サフィールの手際が良すぎて、あっという間に毛先を摘みとられる。
そして、サフィールの魔法で、早送りの結晶化を見せて貰った。
「出来たな。髪の毛で針水晶」
早送りにしたとはいえ、結構時間がかかってしまった。
王子はサフィールにもたれて、健やかに寝ている。
穏やかな寝顔を見るに、サフィールに対して、警戒心があるのかないのか良く解らない。
いつもの事だけれど。
「もう遅い。これは、気にするな、お前のも作っておいてやるから、髪だけ置いて帰れ。」
幼馴染の少女は、追い剥ぎの様な事を言いながら、尊大な態度で、この国の唯一の直系の王子をこれ呼ばわりしつつ、
大切そうに完成したこの世で一つだけの人工石を、特別なケースにしまって、リュシオルを追い立てる。
もうすぐ夕食の時間だし、仕方ないか。
またねと手を振って、王子と白金の毛先を少し置いて転移術で家に帰った。
宝石と言う訳でなく、道端に落ちている石、と言う訳でもなく。
いや、場合によっては、道端に落ちている石も興味の対象になりうるらしい。
そう聞いてもピンとこなかったのだけれど、
サフィールに、剣もガラスのグラスも元は石だと言われると確かに面白いと思った。
「サフィールもその子も知らない石とかあるの?」
サフィールは博識だ。
鑑定眼で見えない事も沢山識っている。
石が好きだと言う彼女も石について詳しいのだろう。
サフィールの横で、サボった課題をやらされているアークの所為で暇になった僕は
サフィールに新しい友達の事を色々尋ねた。
何故サフィールの部屋に、王子向けの教育書があるのかは聞いたら負けな気がする。
「作って名前を付ければ、新しい種類の石なんかいくらでもできる。」
なるほど、サフィールらしい力押しな回答が返って来た。
でも、知らないものを知ってるか?と言う質問も変だったかな?
サフィールは立ち上がると、小さな引き出しを一つ持って来た。
年代を感じる丈夫そうな木製の引き出しの中には、
色も大きさも多種多様な裸石が無造作に沢山詰まっている。
そしてその中から、マロングラッセより少し大きい位の一粒の石を選び、取り出し、
課題の手が完全に止まっているアークと僕の前に差し出した。
「リュシオルの目みたいなきれいな紫だな。」
アークが手を伸ばした手に、透き通った薄紫の石を譲るとサフィールはリュシオルに向き直った。
「名前は、何と出ている。」
鑑定眼を使えということだ。
「アメシスト。」
流石に視なくてもそれくらいは知っていたけれど、サフィールにとって
鑑定眼を使って視ると言う事が、今、意味のある事なのだろうと視えた物を素直に答えた。
すると、再びアークから石を取り上げ、下半分を握る。
そして、アークの手に白い布を敷いて、再度置いた石は、下半分が、マスカットの果実の様に瑞々しい新緑の色に染まっていた。
「プラシオライト?」
驚いて、再び鑑定眼を使うと緑の部分は名前が変わっている。
説明を求めようとしたが、先にアークの不満の声が上がった。
「葡萄のようで、美味しそうではあるが、リュシオルとサフィの二人の色の石と言うのは気にいらないな。」
その発想はなかった。
サフィールの目ならもっと濃い緑だからだ。
葡萄の様で美味しそうと言う所には同意する。
ニヤリと笑ったサフィールは、再び薄い緑になった下半分を摘まんで離す。
緑だった部分は焼き菓子の色を薄めた色になった。
「アメシストとシトリンでアメトリン。」
今度は、二色を合わせた名前まで出て来た。
手品みたいだ。
「少し魔力で熱処理をしただけだ。」
熱処理で、一つの石の名前がころころ変わるのは面白いな。
「薄紫と白金ならリュシオルの色だな。」
アークが、満足げにその石をリュシオルに持たせた。
「出世払いで良いぞ。」
未来の王妃様が鷹揚に頷いた。
どこまで本気なのかは解らないが、出世払いでいいなら、ついでにもう一つ教えて欲しい。
「こういうのを作りたい。」
そう言いながら、サフィールの石の箱から取り出したのは、細い糸の様な金属を内包した加工済みの球形の石。
針水晶を、サフィールに見せる。
「そういうのなら、それでいいだろう?」
既にあるものを作る事も無いと、訝しげな顔でこちらを見やるサフィールに言葉を足す。
「この針金が、僕の髪なら僕だけの石だと思ったんだよ。」
だって、似てるよね、金色の糸、髪の毛みたい。
サフィールはじっとアークの方を見た。
アークは怯えている。
「大丈夫、怖くない、少しだけだ。」
アークは半泣きになったが、サフィールの手際が良すぎて、あっという間に毛先を摘みとられる。
そして、サフィールの魔法で、早送りの結晶化を見せて貰った。
「出来たな。髪の毛で針水晶」
早送りにしたとはいえ、結構時間がかかってしまった。
王子はサフィールにもたれて、健やかに寝ている。
穏やかな寝顔を見るに、サフィールに対して、警戒心があるのかないのか良く解らない。
いつもの事だけれど。
「もう遅い。これは、気にするな、お前のも作っておいてやるから、髪だけ置いて帰れ。」
幼馴染の少女は、追い剥ぎの様な事を言いながら、尊大な態度で、この国の唯一の直系の王子をこれ呼ばわりしつつ、
大切そうに完成したこの世で一つだけの人工石を、特別なケースにしまって、リュシオルを追い立てる。
もうすぐ夕食の時間だし、仕方ないか。
またねと手を振って、王子と白金の毛先を少し置いて転移術で家に帰った。
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