8 / 28
7
しおりを挟む
「お母さんは、優しい?」
「うん、優しいよ。一度お父さんがいない時にね、ふわっふわの甘い卵焼きを作ってくれたの。すごくおいしいんだよ」
リナが初めて嬉しそうな表情を見せた。
「リナちゃんは、卵焼き好きなの?」
「うん。でも、お母さんには嫌いって嘘ついてる」
「どうして?」
「リナちゃんが卵焼きを食べたのが、お父さんにばれたら、勝手なことするなってお母さんが殴られるの。だから食べたくないの」
リナがうつむいた。
「すごく食べたいけど……食べたくないの」
リナは消え入りそうな声でそう言った。
「リナちゃんも、お父さんに殴られたことある?」
「あるよ。リナちゃんが悪いことしたからだけどね」
「悪いことって、例えばどんなこと?」
「うーん、わからない」
リナはあどけない表情で、小首をかしげた。
「リナちゃんのすることは、ほとんど全部悪いことなの。マミちゃんを探しに、このおうちに来たのも悪いことかもしれない……お父さんにまた怒られるかも」
リナはバツが悪そうな顔をした。
「そんなことないよ、リナちゃんが来てくれて嬉しいよ。だからお父さんも怒らないと思うよ」
瑞穂は優しく言った。
「お父さんはリナちゃんが悪いことをした時だけ怒るの。リナちゃんにはシツケが必要だって」
「その時、お母さんはリナちゃんを守ってくれる?」
うん、とリナは大きくうなずいた。
「リナが悪いことをしたら、お父さんはすごく怒って鬼みたいな顔して、殴ったり蹴ったりしてくるけど、お母さんはいつも笑いながらリナのこと見ているよ」
瑞穂は驚いて、息を飲んだ。
「リナちゃんが殴られているのを、お母さんは笑って見ているの?」
「うん。お母さんはいつもにこにこしていて、すごく優しいの」
瑞穂は心の奥が、シンと冷たく凍っていくような気がした。
「もう、おうちに戻らなくちゃ。お母さんが帰ってくるかもしれないから」
誰もいない部屋に、この子を一人で返していいのだろうか。いや、誰もいないならまだマシだと瑞穂は思い直した。リナの話を聞く限り、父親が帰ってくることの方が怖い。
「リナちゃん、お腹空いてない?」
聞くまでもなく、リナはお腹を空かせているに違いない。きっとこの誘いにすぐにのってくるだろう。
帰りたそうにしているリナを、瑞穂はどうにかして引きとめたかった。
「うん、優しいよ。一度お父さんがいない時にね、ふわっふわの甘い卵焼きを作ってくれたの。すごくおいしいんだよ」
リナが初めて嬉しそうな表情を見せた。
「リナちゃんは、卵焼き好きなの?」
「うん。でも、お母さんには嫌いって嘘ついてる」
「どうして?」
「リナちゃんが卵焼きを食べたのが、お父さんにばれたら、勝手なことするなってお母さんが殴られるの。だから食べたくないの」
リナがうつむいた。
「すごく食べたいけど……食べたくないの」
リナは消え入りそうな声でそう言った。
「リナちゃんも、お父さんに殴られたことある?」
「あるよ。リナちゃんが悪いことしたからだけどね」
「悪いことって、例えばどんなこと?」
「うーん、わからない」
リナはあどけない表情で、小首をかしげた。
「リナちゃんのすることは、ほとんど全部悪いことなの。マミちゃんを探しに、このおうちに来たのも悪いことかもしれない……お父さんにまた怒られるかも」
リナはバツが悪そうな顔をした。
「そんなことないよ、リナちゃんが来てくれて嬉しいよ。だからお父さんも怒らないと思うよ」
瑞穂は優しく言った。
「お父さんはリナちゃんが悪いことをした時だけ怒るの。リナちゃんにはシツケが必要だって」
「その時、お母さんはリナちゃんを守ってくれる?」
うん、とリナは大きくうなずいた。
「リナが悪いことをしたら、お父さんはすごく怒って鬼みたいな顔して、殴ったり蹴ったりしてくるけど、お母さんはいつも笑いながらリナのこと見ているよ」
瑞穂は驚いて、息を飲んだ。
「リナちゃんが殴られているのを、お母さんは笑って見ているの?」
「うん。お母さんはいつもにこにこしていて、すごく優しいの」
瑞穂は心の奥が、シンと冷たく凍っていくような気がした。
「もう、おうちに戻らなくちゃ。お母さんが帰ってくるかもしれないから」
誰もいない部屋に、この子を一人で返していいのだろうか。いや、誰もいないならまだマシだと瑞穂は思い直した。リナの話を聞く限り、父親が帰ってくることの方が怖い。
「リナちゃん、お腹空いてない?」
聞くまでもなく、リナはお腹を空かせているに違いない。きっとこの誘いにすぐにのってくるだろう。
帰りたそうにしているリナを、瑞穂はどうにかして引きとめたかった。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この『村』を探して下さい
案内人
ホラー
全ては、とあるネット掲示板の書き込みから始まりました。『この村を探して下さい』。『村』の真相を求めたどり着く先は……?
◇
貴方は今、欲しいものがありますか?
地位、財産、理想の容姿、人望から、愛まで。縁日では何でも手に入ります。
今回は『縁日』の素晴らしさを広めるため、お客様の体験談や、『村』に関連する資料を集めました。心ゆくまでお楽しみ下さい。
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……
きらさぎ町
KZ
ホラー
ふと気がつくと知らないところにいて、近くにあった駅の名前は「きさらぎ駅」。
この駅のある「きさらぎ町」という不思議な場所では、繰り返すたびに何か大事なものが失くなっていく。自分が自分であるために必要なものが失われていく。
これは、そんな場所に迷い込んだ彼の物語だ……。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
こわくて、怖くて、ごめんなさい話
くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。
本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、
幾つかご紹介していきたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる